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第五話 カウンセリングは私の範囲外ですがネ

今日も部室は静かだ。うつろは昔の資料を漁り、みくろは何か書き記している。てきろはいつも通り踊りの練習だ。


死活部発足から早三週間、何度か死を試すも失敗続き。

死への道のりは果てしない。







【みくろ、てきろって誰?】




突如襲いかかるのは恐怖心である。

知らない部員、知らない日常。

夢であってほしい。


浦島太郎状態、その言葉がピッタリ当てはまる。


私は勇気を出して声をあげる。

「…ちょっと聞きたいんだけれど、あなたたちって…誰でしたっけ…?」


うつろは目を丸くした。


沈黙。

紙の音も止み、踊る足も止まる。空気が張り詰める。


一番初めに口を開いたのはみくろだった。

「姉御ぉ、流石に脳の病院行ったほうがいいじゃねぇの?」

制服を着崩し、女子とは思えないほどに尖ったセンスのウルフカットスタイル。

超弩級の校則違反である。

机に乗せた足を下ろして私の顔を覗いてきた。


「外見は変わらねぇけどな。」

彼女の所作には呆れも含まれていたのだろうが、その目には僅かに不安の色が混じっていた。


「…あはは。そうかもね。」

先ほどの自分を信じて名前を呼ぶ。

「みくろちゃんでいいんだっけ?」


今度はみくろが目を丸くした。

「姉御、ちゃん付けはやめてくれ…。アタシは天蘭(てんらん) 御玄(みくろ)、夜露死苦…。」

照れくさそうに顔を逸らした。



コホン

てきろ?がわざとらしく咳き込んで、私の前に立つ。


「改めて名乗らせて頂こう!!私は薬菜(やくさい) 滴露(てきろ)、むしろくんと同じクラスにして同じく孤高の存在だった!!」


私は以前もぼんやりと聞いたことのあるような口上が始まり呆気に取られていた。うつろもみくろもやれやれという表情で自分のしていたことに戻る。


「─私は君に救われた!!だから私を頼ってくれ。私にできることならなんでもする。いいかいなんでもだ─」


彼女の台詞回しはプロも顔負けの演技力を感じさせた。それでも頭に入らないのは、脳の病気だからか、それとも早口すぎるからか。


「─というわけさ。君と私の理念は真反対だ。君は死を、私は生を。それでも共に歩む道がある、再びよろしく頼むよ。」

彼女は汗を拭い、爽やかな面持ちで手を差し出す。さながら王子様のようだった。


「改めてよろしくね、てきろちゃん。」


普通に言ったつもりだったのだけれどてきろは目を潤ませながら身を捩らせ赤面する。

何か呟いていたが聞かないことにした。


「…私は中腹(なかはら) (うつろ)。あなたの死を撮るために一緒に部を立ち上げた最古参にして一番の親友よ。よろしく。」

うつろはにっこりと笑う。


私はうつろは覚えている。一緒にカフェも行ったし、約束をしたことも覚えている。

でも何かや引っ掛かっている。


【まあ、別にいいか。】


とりあえず、記憶のモヤを取り戻すために脳の状態をもとに戻そう。

私は部員たちに用事があることを伝えてその場を後にする。

みな一様に心配していた。


何度か来た覚えのある保健室。

「おーい、ロボTぃ〜!!」

ガガガと駆動音を鳴らしてこちらによってくる。

こいつは保健室の先生の代わりに、免許を持ったロボットだ。その腕前は確かで、何度もこいつに蘇らせられた。


私は学生証を見せて、脳の漂白を行う。

バックアップを残すことで安全に異常を処分し、健康状態に戻す優れ物だ。


「本日はお連れの方はいないんですネ。」

「お連れ?」

「ほら、あのメガネノ」


「私あの方にぞんざいに扱われるのですヨ、友人のあなたからも何か言っておいてくださいネ。」

ロボットがブツクサ文句を言いながら、作業に取り掛かる。

私はいつのまにか保健室の常連となっていたらしい。


「…ねぇロボT。私頭にモヤがかかっているの。大事なものが入れ替わったような感覚。治してくれる?」


「私の与えられた職能に準じますよ。安心してください。まッ、カウンセリングは私の範囲外ですがネ。」


おかしくて笑ってしまった。

ただ戦慄もしていた。私ってこんなすらすらと会話できたっけ。


ベッドに寝転がりマシンが起動する。

意識が落ちる、睡眠に近い。



夢、私は鏡の前に立っていた。

もう一人の私。


「人とは不可思議な生き物だ。自らを守るために人格を生み出すこともある。だけれど長くは続かない、悠久の時を生きるハメになった私たちには刹那の出来事だろう。」


視界がぐらつき、頭が痛い。


「…私が積み上げた部活を、タダで譲渡するのは頂けないが、仕方ない。うつろによろしく頼むよ。ああ、あとみくろとてきろにもね。」


彼女は鏡の奥へ、奥へ進む。


目覚めると空はオレンジ色に光っていた。

カラスが優雅に羽ばたいている。


「…随分長かったね、今日の漂白は。」

「来てくれたのね、うつろ。」


その様子を見てうつろは何度もうなづいた。

正解だったようだ。


彼女は語る。

「…もし、あなたが一月前の甘っちょろいむしろちゃんだったなら…私どうにかなっちゃいそう。」

神妙な面持ちでつぶやいた。物騒だな、おい。


ぐるぐると今の状況を思考する。


鏡の自分、私が眠っていた間に作り出された別人格。死んでしまったもう一人の私。

彼女によって私は仲間を手に入れた。それだけじゃない、死に近づきやすい状況もだ。


──だから

彼女わたしが作り上げた人間関係、それに矛盾のないよう生活する日々を送らなきゃいけない。

それがバレれば私は、いやきっと私の周りによくないことが起きる。


【うつろ】によって


(めいろは、彼女は私になんて言ってくれたんだっけ。)


部活に顔を出していなかった私のもう一人の友人。

顔も朧げだけど、めいろはうつろによって不都合だとみなされたのかもしれない。

なぜ?

昔の私じゃうつろの欲望…いや約束を果たせない、そう判断されたのだろうか。


…どちらにせようつろを刺激してはならない。これが私の辞書に刻まれた。


「じゃあ帰ろっか、むしろちゃん。」

「え?ええ…そうしましょう。」


こうしてただ死にたいだけの私の人生は熱を帯びた信奉者によって面倒なエミュをしなきゃいけないハメになった。よりにもよって記憶がない時の自分だなんて!!


やはり前途多難である…。

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