第四十三話 最後の晩餐
むしろ:主人公。世界への反抗心から死を追い求める。流されやすい性格。
うつろ:死を撮りたい狂人。脳をいじって記憶を消す術を持つ。
めいろ:うつろの旧友。死を嫌う常識人。少し押し付けがましい。
次の日。
私はまた保健室にやってきた。
「むくろさん。こんにちは。今日はどこか悪いんですか?」
「ううん。今日もあなたに会いたくって。」
シエロは顔のスクリーンに照れ顔を映し出した。
「O恥ずかしい限りですよ〜!!」
さて彼女のアルゴリズムについては理解が浅いが…
仕掛けるか。
「ねえシエロちゃん。」
「なんでしょうか、むくろさん。」
私は勝手にカーテンを開けた。
朝日が差し込んでくるのがわかる。
ほのかに暖かい。
オレンジ色の光は私を包み込んでくれる。
「明日、私は夢を叶えたい。
だから協力してほしいんだ。」
「具体的にはどう手伝えば?」
「このリストの人物。その記憶を上書きしてほしいの。」
それは短いながらもむしろと関わった様々なヒロインたち。
「OO。分かりました。」
彼女は手を差し出してくる。
人工皮膚は人間のそれとほぼ同じ。
色も形も私のものと遜色ない。
「私と約束してください。むくろさん。」
「約束?何を。」
彼女は下に向けた親指を首元で切った。
「あなたが理想的な死を遂げることです。」
そうか。
私ならできると信じているのか。
「約束しましょう。私が、私たちが理想の死を得ることを。」
「神ではなく?」
「ええ、シエロに誓います。」
どうやら正解だったようだ。
恍惚とした表情を浮かべるシエロ。
「……素晴らしい。感動です。」
打ちひしがれる思い、だが私は慮ることはない。
「明日はよろしく頼むよ。」
「ええ!任せてください。私はあなたに全てを捧げるOつもりですから!!」
私は彼女に微笑んだ。
保健室で交わした友愛の取引。
この世界の住民ならば刹那の出来事に違いない。
だけれど、私たちにとってはむしろここからが始まりのように思える。
それが寿命を持つものの定めなのだろう。
私たちは似たもの同士なのかもしれない。
***
シエロと別れてすぐだった。
「何か用でしょうか。学園長。」
学園長に呼び出されたのだ。
彼女は外を向いている。
やがて椅子を回し、こちらを向いた。
「用?わかっているだろう。」
拳銃。
その黒々しきそれはカチャリと音を立てる。
「君、むしろだろ?」
彼女は冷ややかに言い放った。
その瞳は闇を見ているかのようで。
「問題がおありですか、学園長。」
「大アリさ、むくろくん。」
彼女はゆっくりと席を立った。
その照準は未だ私らしい。
「私は二度と同じ悲劇が起こらないように、諸悪の根源を殺した。」
「だが同じ思想を持つ巨悪は蘇って、生徒の安全を脅かそうとしている。これは大問題だろ?」
考えろ。
考えろ。
考えろ。
この絶体絶命の窮地。
私の死場所はここじゃないだろ?
「……私は彼女と違う。」
「ほう。悪はいとも簡単に嘘をつくからな。信用ならないね。」
「だって私は───」
「──あなたにしか【執着】していない。」
手を下ろした。
銃はゆっくりとしまわれた。
不気味にも、狂気的にも彼女は笑い始めたのだ。
「最高の冗談だ。フハハ!!」
私も笑い返す。
彼女に聞かれないよう小さく。
「そうか……。君の目的は私か。正義の味方であるこの私に、か。いいぜ、最高だ。」
彼女の中ではストーリーが組み上がっていくのだろう。
目をギョロギョロ動かして、硬直したのだ。
「君は悪党だ。私を付け狙い、隙を見つけて殺そうとする悪だ。そうだろう?」
「ああ。執着する動機だって充分だろ?」
拍手を始める。
異常だ。
「素晴らしい。感動的だ。」
レトロ。
情報を集めて出てきたのは、彼女が正義のヒーローに憧れている、ということだ。
彼女は昔の事柄が好きだ。
アンティークを集め、服装も100年以上前のもの。
全てが古い。
しかし、それを苦に思っていない様子だ。
なぜならレトロチックなものが好きだから。
過去しか見ていない彼女。
傑作だけを集め、身に纏う彼女。
それは前を見ずに挑戦することを諦めた愚かな人間である。
だが強敵であることも確かなのだ。
実際、悪の総裁と化したむしろも、長いリーチを持つサイコ系女子うつろも手を出せずに負けたという。
だから正攻法ではなく、邪道で彼女を真っ向から倒さなければならないのだ。
「ヒーローと因縁のあるラスボスはお好きですか?」
「ああ大好きだ。もちろんポッと出のラスボスでも闘争心は昂るが、やはり積み重ねは価値を生み出す。」
「私の夢は、人生をかけてでも絶対的な悪を打ち負かしたい。」
彼女の欲望。
あとひと押しだ。
「私はなりますよ。再び悪の権化となってあなたを殺しに行きます。」
「あー良い。イイぜ。良いねぇ!!」
「悪と正義は約束を交わしません。ですからこれは私からの……
宣戦布告でございます。」
これで───
「最高だ!オレは正義の執行者としてお前を殺すぜ、むしろォ!!!」
決着はつきそうだ。
「ではまた明日。」
「ああ、明日だな。」
何も挨拶などしなかった。
ドアは音を立てて閉める。
全ての準備は整ったようだ。
***
「……ってことで計画は明日実行するよ。」
私は食卓で三人に打ち明ける。
「随分急だね。」
ローストビーフを頬張りながらうつろは話しかける。
「いやホントよ。もっと豪華にすれば良かったわ、こんなのが最後の晩餐だなんて。」
めいろは非難した。
食卓に広がるのはスーパーで買い集められた惣菜や値引き品ばかり。
「いやいいんだ。これぐらいが丁度いい。」
私は満足していた。
例え豪勢な晩飯でなくとも、三人の家族とも言える人たちとご飯を食べられるのだから。
「私は、お姉ちゃんと食べれて幸せだよ。」
こゝろは最後までいい子だ。
文句を言わず、ご飯を買ってきためいろのフォローすらこなす。
どれだけの人生を重ねればここまでになるのだろうか。
私は、明日計画を実行。
つまり、死ぬのだ。
恐れよりも、興味が勝る。
配慮よりも、己が勝る。
「じゃあみんな。明日の計画と配置について伝えるよ。準備はいい?」
みんなはうなづいてくれた。
良き人間と巡り会えた、そう心の中で感動したのだ。
(もちろん、誰にも言うことはないけど。)




