第四十二話 温情なきコミュニケーション
むしろ:主人公。世界への反抗心から死を追い求める。流されやすい性格。
うつろ:死を撮りたい狂人。脳をいじって記憶を消す術を持つ。
めいろ:うつろの旧友。死を嫌う常識人。少し押し付けがましい。
月曜日、私たちは三人で校門をくぐった。
「…あれって。」
「間違い無いよ。中腹さんと人道さんだよ!!」
「え、万引きしたとかで停学になってたんだっけ?」
「違うよ。確か、他校の生徒と問題を起こしたとかで…」
「あれ?バイトテロしたんじゃないの?」
根も葉もないウワサが二人を襲う。
「人殺したとかじゃね?」
事実も聞こえてきます。
もっとも関係のない人たちだ。
気にする必要もない。
「転校生?」
「なんで転校生?」
「誰だよあいつ。」
……。
まあ別にいいし。
「アンタたち、ひそひそしてんじゃないわよ!!」
「ぶつわよ!!!」
こういうとき、めいろは非常に頼りになる。
周りの生徒は硬直し、やがて去っていった。
拍手を送ろうか。
「むくろ、うつろ、大丈夫かしら。問題ない?」
「そりゃあもう。ピンピンしてるとも。」
「問題ないよ。教室に向かおっか。」
歩みは止まることを知らない。
私は教室に向かうまでの短い廊下の中でも思案に耽っていた。
──二人はどうやって変わったのか、ということだ。
考えの違い、過去からの因縁、むしろを巡る闘い。
うつろとめいろは簡単に仲直りできる間柄ではなかったはずだ。
だが、今では手を繋いで歩いている。
ラブラブになるまでの過程が、私には想像つかないのだ。──
教室に着いたとき、眼前に広がる光景は視線の冷ややかな聴衆による音のない拍手のようであった。
「むーちゃん、ちょっとこっち来て!!」
私はそぞろに手を引かれる。
そうやって、教室から離れたトイレへと連れてこられたのだ。
「ダメ・ダメ・ダメだよ!!」
彼女は何かからまくし立てられるように口早に伝える。
「あの二人はこの学園で一番ヤバい不良なんだよ〜!!」
不良。
もう死語かと思っていた。
「何かしたの?」
「うん!!二人と転校してったっていうむしろって人は生徒全員を洗脳して、世界征服?しようとしてたんだって!!」
……。
その企みを止めようとしためいろも、誰かによって共謀した悪とされているらしい。
どのような人物だ?
むしろやうつろを邪険に扱うのはわかる。
悪とされるのが事実だ。
生徒会長が黒幕か、と思っていたが……彼がそんな幼稚な言い回しで糾弾するだろうか??
世界征服って何?という疑問が拭えないのだ。
「ねぇ、そぞろ。誰からそのウワサを聞いたの?」
ごく自然な問いかけだ。
「えーと、学園長先生の話かな?正義がどうとか……。」
ああ、なるほど。
あの女、見ない顔だと思っていたが奴は部外者か!
「ありがとう、そぞろ。」
「え、うん。どうも?」
その日、私は一人にならないようにした。
もしレトロが私を殺そうとしても彼女のポリシーが止めるという推論を立てたからだ。
(まあ生徒の名前を晒しあげて糾弾するなんて正しい人間のすることではないと思うがね。)
私たちは何事もなく授業を終わらせた。
***
授業も終わり、三人で帰ろうとした……その時である。
「1年C組 彗星 躯さん。生徒会室までお願いいたします。」
嫌な予感がする。
「行ってきなさいむくろ。私たちも待機してるから。」
「ああ、準備はできている。数十人程度でも引けはとらないさ。」
帰った方が安全なのだが……。
そう言い出せるような雰囲気ではなさそうだ。
「失礼します。」
彼は目深に被った軍帽を黙ってなおした。
何かの合図かと危惧したが、どうやら考えすぎらしい。
「まあ座りたまえ、ミスむくろ。」
「要件はなんでしょうか。」
長居をする気はない。
私は短くはっきりと大きな声で言い切った。
「ふむ。では簡潔に話そうか。」
「私と協力してレトロを追い出さないか?」
??
「困惑するのも無理はない、短くまとめた結果なのだからな。」
「さあ、座りたまえミスむくろ。」
私は隠した携帯で二人に長引きそうな旨を伝えた。
「君とは初めて会った気がしないのだよ。」
「…話を始めましょうよ、会長。」
ハハっ違いない!!
彼はその巨躯から響く笑い声を発した。
「私は生徒会長である。しかし兼任で学園長も勤めていたのだよ。」
「さまざまな強権をお持ちでしたものね。」
ここまでは予想つく話だ。
待て、つまり…。
「わかりました。お受けしましょう。」
「これから全米が泣く我が人生のストーリーが始まるのだが…。」
私は席をたった。
「誠に恐縮なのですが、私あなたに興味ないんですよ。」
「あなたがもたらしてくれる結果を期待しています。」
「そうかそうか。結構だ。」
「せひろとねくろはこちらで預かっているよ、会っていくかな?」
誰?
「遠慮します。」
私は扉に手をかけた。
ほぼ出かけていたのだ。
「最後だ。ミスむくろ、人は死ぬべきだと思うかね。」
一瞬考えた。
「いいえ。身の丈に合った生き方をするべきですよ。」
「つまり、死ぬべきではないと?」
「必要な分だけでいい。それが私の持論です。」
死にたい奴は死ぬべきだ。
裏を返せば、死ぬ努力をしたものだけが生きないという選択肢を取れるという意味でそう言った。
私は静かに扉を閉じた。
航路は、生徒会長は大声で笑っている。
「君はミスむしろとは全く別の生き物だ。」
「どこまでも利己的で、人を顎で使う。」
「他人に興味などなく、上っ面の交友関係を築く。そのくせ内心見下すプライドの高さ。」
「私は君が死を得られるとは思えない。」
「だから賭けだ。君がミスむしろを取り戻すか、模倣するか、どちらにせよその狂気を持って私に本当の現実をくれ。」
「学園長のポストを、安定した組織運営を、争いのない学園生活を。普通を、平静の凡情を。」
「私によこすのだ。」
愉しみだ。
彼の笑い声は廊下によく響く。
それを快く思わないのは、他でもない。
現・学園長であるレトロであった。
「彗星 躯か……。」




