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第四十話 しがない世界を面白く

むしろ:主人公。世界への反抗心から死を追い求める。流されやすい性格。

うつろ:死を撮りたい狂人。脳をいじって記憶を消す術を持つ。

めいろ:うつろの旧友。死を嫌う常識人。少し押し付けがましい。

「食人…?」

浪漫先生はただ愕然としていた。


「はい、みんなに私を食べてもらいます。」


死ぬために必要な方法。

・データベースの記録をどうにかして消す。

・肉体が再現不可能なほどに消滅する。


このどちらかを達成する必要がある。


前者を行おうと、生徒全員を洗脳して凶行をしようとして負けたのが前の私。

もっとも食人という方法は前の私むしろでも考えついていたと思うけれど。


「本当はいろいろ考えてたんです。つまり物理的に消滅すればレーザーでもマグマでもなんでもいいんじゃないかって。」


「でも、金銭面で無理だと判断しました。学生って本当につらいですね。」


冬。

ファミレスはエアコンが効いている。

それでも氷が溶けない。


仕方なく冷えたオレンジジュースを飲む。


浪漫先生はまだ絶句している。

酸味が口に残りつつも、話を続ける。


「死は一人で成しえない。これがこの世界の真実だと思います。」


「政府が死を管理する、いや世界が死を禁止するこの惑星では孤独死なんてものはファンタジーなのです。」


「ゆえに私は、いいえむしろは死ねなかった。ただの学生一人では成しえなかった。」


「でも(わたし)は違う。」


「だって、私には仲間がいるか──」

「ダメだろ倫理的に。」

浪漫先生が苦言を呈す。


「命を軽んじている、オレにはそう見える。」


ただ憐れむように。

そこに教えを乞うものと与えるものの境目はなく。


「人類の理想を愚弄するのか、とかそんなことが言いたいわけじゃない。死を知っているから、お前の理想を否定しなくちゃならないんだ。」


「死は…そんなに良いものじゃない。決別だ。絶対にお前を人間に戻してやる。」

「…これまで何にもかかわってこなかった部外者のあなたが?」

「そうだ。オレは臆病者だ。だが教師だ。永遠を生きる生徒に生きる希望に気づかせるのが教師だ。」


「埒があきませんね。【やりたかったことをやってみよう】、それが学生の本分でしょ?」

「そういうことじゃない…。」


私はドリンクバー代だけを置いて席を立つ。

先生はなんとも言えない顔をしている。


「うまくやりますよ、あなたの目に届かないようなほの暗い世界で、ひっそりと…ね。」

「オレはあきらめないぜ。大人はずるいからな。」


***


私はまっすぐ家に帰った。

実は若干の後悔をしていた。

(敵、増やしちゃったよね…)


むしろという人格を知れたことよりも、蒸鴫 浪漫が敵に回ったことのほうが大きいきがするのだ。


(悪い方に転がらないといいけど…)


暗い面持ちのまま、いつのまにか我が家に着いた。

そう、人道家。

二階の明かりがついている。


めいろ、うつろ。


彼女たちは私がなんとしても味方に引き入れたい貴重な戦力だ。

……本当にそうなのだろうか?


二人とも肉弾戦に強いのは確かだ。

ただ元来二人の仲は悪かった…はずだ。


少なくとも浪漫先生の話や集めた情報から読み取れる事柄だ。

その二人の仲を取り持って、レトロを倒すまで時間はあるのか?


ちょっと待って。

そういえば朝……


『めいろ〜!!さみしいよぉ〜!!』

『今から行くね、うつろ♡』


もしかしたら…

…仲直りした?

六、七年の確執をこの二か月でなんとかしたの?


そんなはずが…

「おかえり、えっとむくろ…だっけ。席に着きなさい、自慢の妹が腕を振るってくれたのよ。」

「えっと…ありがとうございます。」


すると、こゝろがへとへとになりながら、皿を運んできた。

「って、手伝うよ。」


箸や汁物を出すのを手伝った。

めいろの目は、虚空を見ているようで、そのぉ気持ちが悪かった。


「さあいただきましょ。」

「いただきます。」


めいろは、こんな人間ではない。

そう誰かがささやいた。


(めいろは、わがままだけど妹思いの良い子だよ。こゝろを雑に扱う子じゃない。)


「むしろ…?」

声に出したのがまずかった。


ガチャン

皿の割れた音。


「アンタっ、あんたぁ…。」

めいろの目にはボロボロとしずくが溜まり、やがて溢れた。

その表情は怒っているようにも、苦しんでいるようにも見えた。


「…お姉ちゃん。」

こゝろはめいろに寄り添った。

泣き崩れた彼女の肩を支える。

睨まれる…ほうがよかったのかもしれない。


「…むくろお姉ちゃん。この家でその名前は禁句なの。ごめんね。」

こゝろは優しく言い放った。


めいろは二階へ戻っていった。

…あれが、生の絶対者として何度もむしろの邪魔をした女傑だったのだろうか。

その背中はか弱く見えた。


片づけを始める。

やがてこゝろも加わった。


私はひとしおの罪悪感に襲われた。

実質的にヤングケアラーである彼女にさらなる負担をかけてしまったからだ。


…だけれど、心を殺してでも得なければならないものがある。


「ありがとね、むくろお姉ちゃん…。」

「いいよ、全然。…ねえ、こゝろ。」


「教えて、全部を。」


彼女は少し黙ったのち、

「いいよ、私の部屋に来て。」


***


彼女の部屋は、殺風景だった。

ミニマリストというやつだろうか。


写真立てに飾られていたのは、めいろや中学の友達?

それと…むしろだった。


「何もない部屋でごめんね。」

古びたLEDが影を際立たせる。


「別に、私は気にしないし、きっとむしろもそうだったんでしょ?」

「そうだね。お姉ちゃんだったら部屋が寂しい!!って言っていっぱいぬいぐるみとか持ってきそう。」

彼女はやんわりと笑った。


「むしろお姉ちゃんは……変な人だったよ。一時期同棲してたんだけど、内気なんだか行動的なんだかわからない人でさ。その、死に対する考えもよくわからなかった。」


「とっても私に優しくて…何をしても喜んでくれた。けど友達のお姉ちゃんっていう印象は抜けなかったな。めいろお姉ちゃんに家族の温かさを教えてやれっていって潜入したんだけど…特段それを必要としてなかったように見えたよ。」


「本当にいい人だった。少なくとも生徒全員を洗脳して自分の私欲のため利用するような人じゃなかったと思う。」


もっといろんなところに行けば良かった。

そんな彼女の独り言が聞こえた気がした。


こゝろは私をじっと見た。

「むくろお姉ちゃんはそうならないでね。」


この呪いは私の魂に絡みついた…気がする。

「【ならないよ。】」

優しく、そして突き放すようにそう言った。


「えへへ 嘘つき。だって、お姉ちゃんはむしろお姉ちゃんになるんでしょ?終着点は一緒だよ。」

どこかせつなさを感じさせるその物言い。

私は返す言葉がなかった。


***


新しい朝が来た。

素早く身支度を整える。


(今はうつろ、めいろの心を開くことはできない。もっとむしろに近づかなければ…。)


家を飛び出す。

今日は土曜日。

授業はやっていない。


だけれど私の狙いは……。


「えぇえ!!!むくろさん、本日は土曜日ですよO!!!」

「あなたに会いに来たのよ…シエロ。」


もう一人の傍観者。

何十回もむしろに息を吹き込み、密接にかかわった小さな部外者。

「本日のご用件は?」

「むしろについて。」


彼女は頭をくるくる回して、私の瞳の奥を、奥を覗いた。

「いいでしょう。この高性能AIことシエロちゃんが、さまざまな死からのフィードバックから得たむしろさん像をO教えしましょう!!」


浪漫、こゝろ、そしてシエロ。

三人からのデータ収集。


それはむしろのカケラ。

片鱗を集めて身につけるためだ。


彼女の破片を拾っても私はむしろになれないかもしれない。

それでも、近づいて、近づいて、近づけば仲間はいずれ手に入る。


偽物(わたし)本物(あなた)に勝る。

そうして、私は死を得る。


このしがない世界をバカにするために。


「お願いしようかな、シエロ。」

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