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第三十七話 ガビガビの朝

むしろ:主人公。世界への反抗心から死を追い求める。流されやすい性格。

うつろ:死を撮りたい狂人。脳をいじって記憶を消す術を持つ。

めいろ:うつろの旧友。死を嫌う常識人。少し押し付けがましい。

「なあむしろ。君は神を信じるか?」

「おあいにく様、そんなヒマなくってですね。」


むしろはレトロと対面してしまった。


一人でぶらついていた、その時だった。

周りに人はいない。


8時半。


背が凍るような寒さの中。

お気に入りのルームウェアが鳥肌を立てている。


(こーんなところで会うなんて、ツイてないわ。)


レトロとは自らを正義と呼称する不審者である。

どこからともなく現れて、自らの指針に反するものを全て壊していく。

はた迷惑で身勝手なヒーロー。


(だからといって、私に正しさがあるわけじゃないんだけどね。)


「信じるものは救われるって聞いたことないか?」

彼女は不敵に笑っている。


「人が生きよう思うのは何かを信じる力から湧く。神すらもその理由の一つだ。私としては君に趣味を持ってもらいたいのだ。」

「そう?趣味があるから、信じるものがあるから生きるの?結局意味のないことを繰り返して意味あるように見せてるだけでしょ。惰性で生きてなんになるの?」


彼女はわざとらしく首を横に振った。

「ダメだ、ダメダメだ。」


「君には心というものがないのか?意味がないと切り捨て、自分の命を粗末にする、NOT正義だ。」

「心はあるよ。」


「…それに凝り固まった考えに固執するなんて愚か。」


彼女はやれやれとため息をつく。

どうにかして、この場を抜け出さなければ。


「…またも君に二択を差し上げよう。少し早いが、サンタさんからのプレゼントだ。」

「…是非ともお引き取り願いたいね。」


緊張が走る。

「一つ。君の記憶を全てもらおう。そうすればお仲間の記憶はそのままだ。彼女らの生活は守られる。」


「二つ。君の友達の記憶を全て消す。その場合、君そのものは変わらない。孤独に、世界に迷惑をかけず死んでいくがいいさ。」



「三つ。あなたを倒して、私も死ぬ。みんなの夢を叶えてハッピーエンド。」

私は話に割って入る。

レトロは睨みつけた。


(きみ)正義(オレ)を倒すだって?それはあってはならないことだ。」

「私は認めないよ。押し付けの正義も、私の価値を信じないあなたも。」


彼女は観念した。

やがてゆっくり体制を整える。


トップスピード。

彼女は何か凶器を取り出して。

私は逃げ足を見せるけれど。

凶刃は首元をさっくりと。


垂れる生命力。

死を望んでいるが未練たらたらだ。

(うつろとめいろは仲直りできたのかな…。そうだといいな。)


私は一番の敵に看取られながら息絶える。

あっさりとした走馬灯。

うつろがこっちに向かってくるよ。

でももう助からないや。


しがない世界で…あなたと…


───

危険思想及び未成年希死念慮傾向者。

木上 夢白 (16)、29度目の死亡。

以後、消息不明となる。


このログは消去されています。

───


***


記憶を、人格を消されたむしろが自我を取り戻したのは、奇跡というしかない。


それは、辛抱強くも諦めずに支えた一人の部外者によってなされたのだ。


眩しい。

朝が来たの?

とっても憂鬱。

学校。学園だっけ?

眩しい、起きないと。


◯◯◯は薄暗くも手入れされた個室で目覚めた。

「…ここは。」

「お姉ちゃん!!」


抱きつかれる感触。

なんだろう、この感覚。

あったかい。


痩せこけたその少女は私の頬をしっかりと押さえた。

「聞いて、お姉ちゃんの名前は木上(このうえ) 夢白(むしろ)。だけどこれは忘れて、お姉ちゃんの新しい名前は彗星(すいせい) (むくろ)。歳は16、好きなものはコアラと映画。嫌いなものは束縛と孤独。死を模索するあくなき探究者!!」

「ちょっと待って、え?何?」

「起きたら、歯磨きして学校に行って。お姉ちゃんは転校生で、ルームシェアしてるってことになってるから。


「あ、そうだ。今日は12月7日、お姉ちゃんが眠ってから2ヶ月くらい!!さあ行って!!」

「待って、待って、待って。何が起きてるの。そんな情報を詰められても。」

「ダメな方のお姉ちゃんが起きちゃうから早く早く!!」


「…誰がダメな方のお姉ちゃんよ。」

彼女はリビングに繋がるドアを開けた。

髪は長く、若干脂ぎっており、そしてシワのついたシャツを着ていた。


目の前の少女は怯えて震えている。

そっとその手を握ってあげた。

「めいろお姉ちゃん…。」


寝癖をつけたその少女はじっと私の顔を見つめる。

「あんたがホームステイしてきたっていう…むくろ?」

私はこくりとうなづく。

そうするのが正解の気がして。


「…どうでもいいけど朝はうるさくしないで、うつろが起きちゃうでしょ。」


上から声が聞こえる。

甘ったるい女の声。

「めいろ〜!!さみしいよぉ〜!!」

「今から行くね、うつろ♡」


「じゃ、そういうことだから。あ、こゝろ。今日もご飯作っときなさいよ、きっちり三食分。私今日中華の気分だから。」

「はい、…お姉ちゃん。」


めいろと呼ばれた女性は私たちに目もくれず、階段を駆け上がる。


「お姉ちゃん…めいろお姉ちゃんはある出来事が原因で心が壊れちゃったの。」


彼女はじっと私を見た。

なんだ、過去の私が関係してるのか?

ただそこには踏み入ってはいけない境界線がある…気がする。


「…学校いってらっしゃい、お姉ちゃん。いろいろあると思うけど話は後でするから。」

「…わかった。その前にあなたの名前を聞いてもいいかな?」

「私は、人道(じんどう) こゝろ。一個下の中学三年生…。これからよろしくね。」


彼女からの抱擁。

愛らしいというよりも切ない気持ち。

その感情はどこから湧き出るのかわからないけれど。


***


私は携帯を見ながら、学園へと歩いていく。

何も覚えていない。

けれど複雑でどこか引っかかるホームステイ先の家。


(頭のモヤモヤが取れない。私はなんで記憶がないんだろう。)


校門まで着いた。

こゝろのメモには、学園長がクラスへと案内してくれるらしい。


「…やあ、君が転校生だね。」

一人の女性が近づいてきた。

彼女はとても古式ゆかしい乙女であった。


「私は学園長の古草(ふるくさ) 劣等龍(れとろ)。学生の未来を信じる先生の一人さ。」


この女性を見るたびに身の毛がよだつ。

(この人は何かヤバい…。)


彼女に先導されるまま、クラスへとたどり着く。


「ここが君のクラスだ。」


ガラガラと戸を開ける。

「君たち、転校生を紹介しよう。新しくこのクラスに入る仲間だ。みな仲良くしてやってくれ。」


困惑した状況は未だ解決されることはない。


「はじめまして、私は彗星 躯です。…誰か私の趣味知りませんか?」

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