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第三十六話 毒吐くめいろ

むしろ:主人公。世界への反抗心から死を追い求める。流されやすい性格。

うつろ:死を撮りたい狂人。脳をいじって記憶を消す術を持つ。

めいろ:うつろの旧友。死を嫌う常識人。少し押し付けがましい。

めいろはホテルに着いてからというもの、どこか虚ろであった。


(…居心地が悪い。)


むしろを見るたびに罪悪感と憎悪の念に挟まれる。

うつろを見るたびに憤りとあの青い夏が想起させられる。


私は正しい行いをした。

大人レトロを頼り、小さな世界を救った。

生徒たちは洗脳されず、悪は死滅した。


しかし、私は孤独になった。

一度は理想の世界を手に入れた。

むしろと過ごした記憶はなくなっていたけれど、うつろ一人いれば十分だった。


だから孤独になった。

過去にとどまり続ける私を彼女むしろはおいていく。

うつろとともに。

先のない未来を、意味のない現実を変えようと必死に。


彼女らの一面が悪なだけで、その本質は中庸だ。

どこか、私とは違うのだ。

狂っているとは言わない。

けどおかしい、クラスメイトたち。


私は孤独だ。

ひとしおの罪悪感と積み重なったプライドが彼女らを許さない。

私は被害者であり、加害者でもある。


だからこそ笑い合う被害者むしろたちの輪に入れないのだ。


「ねぇ、うつろ!!見て見て、じゃーんドレスアップだよ!!」


むしろは部屋について早々着替えを始めた。

うつろがそっけない返答をする。

笑い合う二人。


(私、何してんのかしら…。)


己のおかれた環境が不思議だった。

殺したものと殺されたもの。

敵同士が、生と死が同居しているのだ。


彼女らのことはわからない。

何を考えているのか、何が好きなのか。


歩み寄ることが私にとって必要なのだろうか。


『それはダメだろう、正義じゃない。』

チクリと刺された気がした。

レトロの声がこだまする。


(もっとも馴れ合う気なんてないわ。)


一人、そっと部屋を出る。

空気感に耐えられなかった。

むしろは未だに死ぬ気でいるし、うつろは戻ってしまった。


考えうる限り最悪の現状。

さらに未確定の人員も二人。


気づけば逃げ出してしまった。

ロビーに身を隠す。

隣に置いてある観葉植物が愛おしくて…。


携帯を眺める。


レトロの番号。


(…バカみたい。)

荒れた心、思い通りにいかない日々、変わってしまった友人たち。


顔が熱くなる。

ほろりと何かがこぼれる。

8時過ぎ、一人なく少女。

慌ててベルマンが飛び出してきた。

声をかけられても「大丈夫です」と強がり続ける。


次第に私のまわりには誰もいなくなっていった。

重なる現実。


私は孤独だ。

(ほんと、私ってめんどくさい。)


自己嫌悪の無限ループ。

(こんな街出よう。イヤな奴らしかいない吹き溜まり。私も前に進まなくちゃ…。)


しかし執着がそれを許さない。

学園の思い出が後ろ髪を引っぱる。


「また戻りたいなぁ…。あの頃に。」

嘆いても現実は──


「探しましたよ!」

振り返った先に立っていたのは、……せひろだった。


***


「何よ、あんた。」

それが彼女とのファーストコンタクト。


肩まで垂れた長い髪。

日本人らしくないくっきりとした顔立ち。

生徒会の庶務だったかしら。

きっちりとした佇まいだ。


彼女は私に言った。

「私と勝負しませんか?」

「は?」


泣きはらした顔に冷たい風がそよぐ。

「とにかく勝負したいのです。」


凛々しい表情でこちらを見つめる。

「…いいけど、なんの勝負するの?フェアなものにしてほしいのだけど。」


ホテルにあるもの…ダーツやビリヤードは苦手だ。

勝負のつけ方もわからないし。


せひろは先導しつつ歩いていく。

部屋に戻っていくようだ。

「勝負は三本勝負です。むしろさんが持ってきたおもちゃをいくつか使いましょう。」

「…今はむしろとも、うつろとも会いたくないんだけど。」

「その心配はご無用です。今はお二人とも部屋におりませんので。」


彼女はドアを開ける。

部屋は静かで…。

ここ、ほんとにさっきの場所?


「…ここで私と三本勝負をしてもらいます。一本勝つたびにお互いの言うことをなんでも聞くというものです!」


頭に浮かんだハテナ。


「…一本勝つたびにお互いの言うことを聞く…。なんで?」

「なんでもですよ、めいろさん。」


突然点けられた照明。

目が眩む。


彼女は紙袋の中から、剣を刺すと人形が飛び出す例のオモチャを取り出した。


「一回目のゲームは、むしろさん危機一髪です!!」


「ルールはいたってシンプル。剣を刺して、このむしろさん人形を飛び出させた方の負けです。」


昔、うつろと遊んだのを思い出した。

彼女は◯ひげを飛び出させる方にハマっていて、ケタケタ笑うのが可笑しくて…。


「私から先行いかせていただきます!」

せひろは声高らかにその青い剣を突き刺した。


ボン。


むしろが飛び立っていく。


せひろという人物はすこぶる運が悪かった。

記憶力が良いというだけでこの狂人の集まりに参加させられているのだから。


「…すっごいラッキーガールね。」

「初っ端から…負けた。」


戦わずして勝利。

私は白星を手に入れた。


「くっ…。ルールはルールです。さあなんでも仰ってください!」

「ん〜じゃあ、自己紹介してよ、私に。」

「!? そんなことでいいんですか!?」

「まず、私あなたのこと知らないし…。なんでむしろたちと一緒にいるのかもわからないわ。」


「だから自己紹介して。」


せひろは一瞬顔が曇った。

何かを期待していたかのような。


「ルールはルールですから。きちんと自己紹介致しましょう。」


「私は千紘せひろ。蔵人くろうど 千紘せひろ、生徒会庶務、クラスは2-C。趣味はカフェ巡り。記憶力が良くて、テストで苦労したことはありません。」


初めて年上だということを知った。

「ふーん。じゃむしろとの関係は?」

「…うつろさんによる洗脳技術の実験体となり、死徒会という組織を作りました。むしろさんとはあまり会話しませんでしたが…。ある日メンバー全員が殺されて、正常な世界に戻りました。」

彼女は思い出しながらことばを紡ぐ。


(…聞きづらいわ。さっくりまとめてほしいのだけど。)


「私はまた、あの男とともに生徒会の日々。そんな地獄を終わらせてくださったのがむしろさんです。」

「…地獄ねぇ。私にとっては現状が地獄よ。」

「人によって最悪の環境は違うものですから…。話を戻しますと…むしろさんは私にとっての救世主です。掬い上げてくださったただ一人の御方、それが彼女との関係性です。」


彼女は長台詞を言い終え、水を飲み始めた。


「さあ次のゲームを始めましょうか!!」

彼女はまたも袋の中から一つのオモチャを取り出す。


「二回目のゲームは、うつうつパニックです!!」

「状況的にうつろの名前を冠しているんだろうけど、"うつ"の文字が続くのは何というか…ダメじゃない?」

「いいんです!!」


かつらをかぶった小さなワニ。

ゲームはいたってシンプル。

ワニの歯を順々に押していき、噛まれた方が負け。

「これ、むしろ危機一髪と何が違うのかしら…。」

「先行いきまーーす。うおおおおお」


せひろ、痛恨の一撃。


「これで二本目も制したわけなんだけれど…。私の勝ちってことでいいのかしら?」

「三本勝負ですから。三回目までやりましょう。そ、その前にあなたの願いは何ですか?なんでも聞きますよ、な・ん・で・も!!」


私は特段聞きたいこともなくなった。

さっきの話で関係性は聞けたわけだし…。

いや、一つあるか。

「なんで、こんなことしてるの?」

「こんなこととは?」


たくさんのオモチャ。

どれもパーティグッズ。

一人で楽しむためのものじゃない。


「あなたが私にしてほしいこと。それを知りたいわ。」

なんでも。

ほぼ初対面の人間にしてほしいことなんてないに等しい。

つまり何らかの意図を持って私と接触したのだ。


その意図がただ知りたい。


「…私がめいろさんにしていただきたいこと、それは───」


「うつろさんとの仲直りです。」

「は?」

思わず素っ頓狂な声をあげる。


「今まで二人がすれちがって生きていたことを知りました。お互いの亀裂はお互いだけでは直しきれないことを知りました。それはきっと地獄だと思います。」


せひろの目が虚ろになる。

どこか過去を見ているかのような、悲しみに満ちた目で。


「だから、私はお二人に仲良くなってほしいんです。地獄だと吐き捨てずに、前を向いてほしいんです!!」


……。


「三回目のゲームはじゃんけんにしましょう。」

「え?」

「いいから、せひろ。私はとってもパーを出したい気分なの。」

「は、はい。」

「いくわよ。じゃーんけーん───」


彼女の言葉を聞いたとき、私の本当にしたいことを思い出したような気がする。

ただ、彼女うつろと話がしたかった。

面白い話が、怖い話が、恋愛の話が。


いつからか変わってしまった彼女をもとに戻そうと思っていた。

記憶のぜんまいをゆっくり巻き戻しても、彼女は死に惹かれるというのに。


ポン。


私は彼女が来るのを待った。

せひろは満足したように、らんらんと目を輝かせながらお風呂に入った。


バカみたいな話。

被害者わたしと加害者あなた。

加害者わたしと被害者あなた?


どっちでもいいわ。

どうせ巡り合うもの。


廊下に飛び出た。

彼女が走ってくるのが見えた。


私は待ちきれずに彼女のもとへ走る。

そこに論理はなく。


あの頃すらも上書きするほどの勢いで。


「うつろ…。私…」

「めいろ。その話はあとだ。むしろはどこだ。」


「このホテルに、レトロがいる

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