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第三十三話 ……いいよ。

むしろ:主人公。世界への反抗心から死を追い求める。流されやすい性格。

うつろ:死を撮りたい狂人。脳をいじって記憶を消す術を持つ。

めいろ:うつろの旧友。死を嫌う常識人。少し押し付けがましい。

「ここがWIONですか!!」

オーバーサイズのパーカーに袖を通したねくろは目を輝かせていた。


一方私はその光景がかすんで見えた。

ここは思い出の地。

死活部のみんなと最後に遊んだ青春の残りかす。


「むしろさん?」

彼女は不思議そうに私の方をのぞき込む。

「ううん。なんでもないわ。さあ行こう!!」

今日ここへ来た目的はねくろの好感度を稼ぐこと。

それがうつろを蘇らせるカギだから。


女子高生がショッピングセンターに行くなんてありふれた日常かもしれない。

でも、私には切り崩された一片のバースデイケーキ。

そのワクワクと煌めきが忘れられないの。


「むしろさん、見てください!!バルーンアートですよ!」

携帯ショップの近くではせっせと風船を膨らます男の人が見えた。


携帯はもうボロボロだ。

だが買い替えはしない。


「もー今日は映画見に行く約束でしょ。」

「あれ、そうでしたっけ。友達と映画行くなんて…初めてです!!」


チケットが安かった。

個人製作らしい邦画とリバイバル上映しかしていないとても古びた映画館。

もう先は長くないのかもしれない。

ただあることが当たり前であり、その死には気づかない。

私もそうなりたい。


「…サメって怖いんですか?ボク海行ったことないから創造つかないんですが…。」

「大丈夫、じきに陸にも侵略してくるよ。空もとべるはずだし。」


上映中、その舗装された怖さにくぎ付けになっていた。


もしこの世界がパニックホラー作品だったら、


『はぁ!?私があなたたちといれるわけないじゃない!!こんな場所から逃げ出してやるわ!!』最初の犠牲者はめいろだろうか。

『…じゃあねハニー。なぁにちょっと出歩いてくるだけさ。』

てきろは華麗にしんがりを勤めるのだろうか。

『…チッ。オレがやる。不可能なんてオレの辞書にねぇんだよ!』みくろは見事に啖呵を切る。


『来い、怪物。私を殺してみなさいよ。』

ファイナルガールはうつろが適任だろう。

彼女は頭がキレる。


…物理的な意味じゃないよ?


いつの間にかエンドロールが流れ始める。

全く集中できなかったことにチケット代を惜しみつつ、ねくろの手を引く。


「いやぁスゴイ良い映画でしたね!!」

「そうだね。」


私はさっと腕時計を見た。

「…まだデートは終わらないよ、次は冬の新作でも食べに行こうか。」


去年までは人生の楽しさなんてわからなかった。

ただ死ぬことだけを考えて生きてきた。

『…やっぱり中毒死は現実的じゃないな。金属はもうやめようかな…。』

春も夏も秋もいつだって。


だが出会ってしまった。

いや用意されていたものかもしれない。

かけがえのない友人たちに。


友達はみんな殺した。

だが、ねくろの技術で蘇生が可能になった。


よくないことも考えてしまうのだ。

もしこのままうつろの記憶を戻さなかったら。

普通に生きるしかなくなったら…。


私は笑えるのだろうか。

ゾンビのように繰り返す日常を使いつぶすのだろうか。

飽きるまでその行為はとめどなく行われるのだろうか。


それは彼女たちに顔向けできるのだろうか。

背後の亡霊たちは首を縦に振るものがいた。

そのままでいいよと慰めの言葉をかける。

ありのままでいいよと私を楽な方へ連れて行こうとするのだ。


『ダメ。』

悪魔は瞬時に消え去り、ひとりの影が残る。

顔が見えなくても、それが誰だかわかるくらいに鮮明で。


***


「お待たせしました、三番のお客様!!」

「あ、はい。」


カフェの新作。

甘味はいつだって心を満たすのだ。


「あの…むしろさん。」

「どうしたの、ねくろ?」


彼女は一杯のモカを前に黙っている。

「…今まで人に言えなかったことなんですが、あなたなら話してもいいかなって思ってるんです。」

「いいよ。全部話して。」


周りはおしゃれさんとエリートサラリーマン、そしておじさん。

おのおのの幸せを享受しているようだった。


「ボクは死体が好きなんです。」

「うん。【私も】。」


彼女は驚いていた。

大方引かれると思っていたのだろう。

だが、私も自〇愛好家のようなものだ。

それに周囲のせいでタガはとっくに外れている。


「い、意外です!では死体のどんなところが好きなんですか!?」

「うーん。ぬいぐるみみたいなところ…?」


もちろん適当だ。

それっぽい言葉を並べ立て彼女を満足させるのだ。

それがコミュニケーションだと学んだから。


「…満点です。物言わぬ骸、等身大のぬいぐるみのように感じる気持ち…私は大共感しました!!」

「おお。」

さきほどの口調とはうってかわる。

この情熱は、本物だ。

私は圧倒されてしまった。


「正直…あなたは学園内でも中心的な存在ではありました。何度も死を試みる少女。それも悲劇的なものを感じさせず、世界への反骨心から死を行う。」


「あなたはヒーローですよ。ボクにとっても。」

「照れるなぁ。肯定されるのは気分がいいね。」

「そこでもう一度聞きたいのです。むしろさん、あなたは今でも死にたいと願っていますか?」


結論は出ている、だがすこし考えた。

もちろん計算の上で、何が最適解か探していたのだ。


「ええ。私は死ぬよ、うつろにその姿を撮られながらね。」

譲れないもの。


「なるほど。これは願望です。あなたの死体を私にくれませんか?」


彼女は目を輝かせていた。

彼女が真にほしいもの、友達よりも優先されるもの。

それは、手に入ることのない人間の死体。

(ようやく、本音を聞き出せた。)


「私の死を、確実なものだと信じてくれるんだね。ありがとう。」

「当然ですよ。必ず行きつくはずです。だって向かっているんですから舗装された道を。」


そぞろの言葉が思い起こされる。

『だから、むーちゃんのしたいことを全力で舗装する〜。』

彼女がいれば、もっと楽に死ねる。


が、楽は捨てただろ?

「…いいよ。」

「は、はい?」

「私が死んだら、この身体をあなたにあげるよ。」

「ほ、ほんとですか!?…や、やったぁ…。」

彼女は静かに喜んでいる。

そのコップはすでに空になっていた。


「…そのかわりさ。うつろのほかによみがえらせたい人がいるの。」


「めいろを、レトロ襲撃時の記憶にもどしてくれないかな。」

ねくろは固まっていた。

彼女と私は敵対していたのだから。

生と死、相容れない対極。


だけどね、これはうつろを蘇らせるカギ。

そして打倒レトロのキーパーソンなのだ。

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