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第二十九話 夢破れて山河あり。

〜屋上にて〜


階段を登っている間、私は楽観的に物事を考えていた。

計画は予定通り何事も起きず順当に死を手に入れられる。


そこには背の高い女性が立っていた。

肌は透き通るほど白く、服装も相まってか幽霊のように見えた。


真昼。

若干の日差しを体に吸い寄せるような出たち。

長い黒髪に引き締まったボディライン。

まさしく良い女、そのものだと思った。


「…学園の関係者ですか?私に何のよう…。」

「ストップ。」


首筋に冷たい感触。

これは…包丁のようだ。


私の後ろに立っている少女は荒々しい息を漏らしている。


「こんにちは。私はレトロ。ただの部外者だ。」


「こんにちは。私はむしろ。この学園の生徒会長です。」

肩書きが増えた分話せることは多くなったようだ。


「…む、しろ…。」

おお。

私に刃物を突き立てる不審者はめいろのようだ。


うつろは最後までめいろを警戒していた。体を刻んでも、記憶を消しても何度でも過去に執着するゾンビのようだと。


めいろを排除しきれていない。このことが示すのはうつろは死んだかもしれない。


それがこの奇妙な空間へのアンサーだろうか。


「…私は正義の味方を名乗っている。理由はカッコいいからさ。」


レトロと名乗る女性はおどけて笑って見せる。

もっとも失笑すら出ない状況なのだけれど。


彼女は微笑みを浮かべて話を続ける。


「なあむしろちゃん、ポッと出のラスボスは好きかい?」


「具体的にはD◯5のミル◯ラースとか。」

どら◯え…?

ゲーム?小説?


「その人はよく知らないけれど、面白ければ大賛成です…。」

「つまらなければ?」

「萎える…でしょうか。」


「いつまで、くだらない…話してんのよ。」

めいろは嗚咽を漏らしながら話を遮った。よく見れば包丁も震えている。


「むしろッ!!もうアンタの計画はご破産よ。うつろは死に、洗脳もできてない、警察も動いているわ。」


…なんとなくの違和感。

そうか、朝のメールの時点でうつろは…。


「これでチェックメイトだ。君の動機でも聞こうか。面白いものを頼むよ。」

レトロは悪趣味な表情を浮かべる。


でもわからないのだ。

どうしてレトロさんとめいろが勝ち誇るのか。


計画を実行できるうつろが死に、そぞろたちとは連絡がつかない。

警察も呼ばれて、確実に首謀者の私は記憶を消されて不本意な死を手に入れるだろう。

それは絶体絶命の状況にあたるのか。

──答えはノー。


「…むくろちゃん出番だよ。」

私はめいろの刃物に飛び込む。

首が、薄皮がだんだんと切れていく。

痛みが増していき、彼女へと変わっていく。


世界がスローモーションになる。

眼前の景色は極上の笑みを浮かべるレトロとめいろの絶叫。

視界は反転し、空が落ちていく。

若干の昂り、目の奥では私は笑っている。

私の意識はまどろみの中へ。


『くくく。頼るのが早くなったな…。』


『…みなさん、初めまして。木上このうえ 骸むくろです。』


彼女が何をしたのか私はわからない。

体は勝手に動き、悲鳴、痛み、そして肥大な愉悦感。


目が覚めると私は家のベットに寝転がっていた。


***


ひどい頭痛。

突き刺すような痛み。

私は…目覚めた。


時間は夜の2時。

すごく寒い。

窓が開いている。


…状況を整理しよう。

カレンダーは9月のまま。

携帯は…見当たらない。

だがこの寒さ、冬だ。


明かりをつけても散らかった部屋というイヤな現状がそこにあった。

ほとんど前と同じ状況。

おそらく誰にもいじられてないようだ。


…。

残念ながら、手がかりなし!!

(二度寝しよ。)


いつのまにか消えていた頭痛を忘れて私は再び眠りについた。


***


〜〜ここは王玉学園。

個性豊かな学生が集まる学舎である。


おや?こんなところに、走っている少女がいるよ。〜


「遅刻だぁ…。」

むしろは若干の焦りと期待を感じていた。

(あれからみんなはどうなったんだろう。それにどのくらい期間が経ったのかな。)


曲がり角。


~⭐︎ゴッツン⭐︎~


死角から飛び出しきた人とぶつかってしまった。

が、それだけにとどまらず。

路面は凍っている。

派手に滑った私は壁に頭を打ちつけた。


「あ、が。」

うん、痛い。

割れそうなほどに。


???「大丈夫ですか!?」

クラクラする視線をどうにか押さえて彼女の手を取る。


「す、すいません。あなたもお怪我は…?」


私はハッとした。

パンを片手にハンカチを差し出した彼女。

背高のスレンダー体質。

ショートボブに茶髪。

メガネはない。


おまけにミステリアスさも凶暴性もなさそうだ。


それは、何か変わってしまった“うつろ”だった。


「う、うつろ。良かった元気で…。その…格好は…。」

「あら、私の名前をご存知なのですか!?」


私の安堵は一瞬で凍りついた。

私はこの感触を覚えている。

てきろとみくろと久しぶりに会ったときの感覚だ。


「ごめんなさい。私、記憶喪失で…。よければお名前を教えていただけますか?」

「私は──木上 夢白です。これからも…よろしく。」


私は彼女を見て自分がしようとしていた行動を振り返った。


(もう前のうつろには戻らない。)


きっとこれが死であると。


だが、学んだことも多い。

敵は国家である。

レトロやめいろを育てた価値観である。

それどころか人間という存在への問い、それすらも敵だ。


今までは人に頼りすぎていた。

私にできることは…。


自らの死を手に入れるために隠密で自殺計画を練らなければならなさそうだ。


「むしろちゃん、やっぱりどこか悪いんじゃ…。」


このうつろはめいろが欲しがっていたうつろ、なのだろう。

悪趣味だ、と後ろ指を指すことはできない。

それは正に自業自得だから。


「ううん、なんでもない。行こっか、うつろちゃん。」

最小人数で最大効率を。

私の陰謀はこの寒空の下からリスタートを切った。

全てはリセットされ、春に、彼女とであった春に戻っただけなのだから…。


「どうしたの!!涙。私話聞くから!!!」


私は泣きながら笑った。

姿形は変わってもうつろはそこにいる。


──涙を流したのはほんの甘え。

世界は私に試練を与えるのが好きらしい。


辛くても走りきらなくちゃ…。

おお。やっぱり苦しいんだね、死って。


「大丈夫、行こう。」

歩みは止めてはならない。

全ては私のために。

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