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第二十六話 リメンバー・生・フォーエバー

私が目にしたのは異様な光景だった。


うつろに負けて…気づけば二週間が経ち。

日記を確認して記憶の食い違いを感じる。

植え付けた偽りの記憶を消して、ようやく学校に漕ぎ着いた。


「むしろが…生徒会長?」

衝撃的だった。


「人道が眠ってる間に生徒会が解散してよぉ。木上が当選したんだ、まさかうちのクラスから生徒会長が出るとはな!」

みくろの発言から、私は異常を確認した。


「それにしても木上くん、前より落ち着いた?何となく大人びた印象を受けたんだけど…。」

てきろの雑言は、私に彼女を再認識させた。


木上(このうえ) 夢白(むしろ)

この死がない理想郷(せかい)をないがしろにする異端者。

自らの死に一直線であり、手段を選ばない非情な人間。


側から見ればこんなものかもしれない。

でも私は関わってしまった。

彼女が楽しむ姿を、人並みの価値観を、生を実感した表情を。


だから彼女を更生したいと誓った。


あの悪魔(うつろ)に打ち勝つまでのはじめの一歩。


***


あの日、遠い昔。


私はうつろを殺した。

些細な喧嘩、内容も覚えていないようなくだらないもの。

それでも彼女の何かをえぐったらしい。


『うつろちゃんって──』


彼女は自◯した。

わけがわからなかった。

どうして私が、うつろを。

いや、どうやって説明すれば──。


木にぶら下がった彼女の前で、私は何も考えられなかった。


そこから彼女はおかしくなった。

生き返った彼女はもう別人のようで。


『見てめいろちゃん!!』

グロテスクな映像。

血が、痛みが溢れていた。


中学生になっても──

『どうだいめいろ。これ私が作ったんだ。』

オブジェ。それは生きているようで。


この学園に入っても、こんな関係が続くんだと思っていた。

私が彼女を殺し、リセットの機会を伺う日々。


彼女は彗星のように現れて全てを破壊した。

木上(このうえ) 夢白(むしろ)

彼女は死を望み、死を撮りたいうつろにとってベストな人間であった。


私は焦っていた。

うつろを殺せる機会が減ったのだ。

それだけじゃない、否定された死に向かう二人。

それは私のトラウマと正義の心を刺激した。


死活部に入った理由はそれしかない。

死に魂を引かれた二人、私はその間に割り込み生の楽しさを伝えようとした。


だが、むしろは殺された。

うつろ曰く、

『生きたいって。私に夢を見せてくれたむしろちゃんがそんなことを言ったのよ。』


私は体を溶かされた。

激痛。

だが死なない。

万能細胞は再生を繰り返す。

しかし酸は腐ることなく身を焼き続けた。


『勝負しましょう。次のむしろちゃんが生きたいと願ったのならあなたの勝ち。大人しく首を差し出しましょう。でも死にたいと願ったなら、あなたの前に現れることはないわ。』

ほぼ捨て台詞のように言い放ち、そこから虚無の二ヶ月を過ごさざるを得なかった。


結論から言えば私は勝った。

何もせずとも勝ちを得た。


むしろは【普通】の人間だったから。


寂しさのあまり、一風変わったことをして興味をひきたかったのかもしれない。

それとも死に浸り、陶酔していただけでガチじゃなかったのかもしれない。


うつろは死活部という共同体を作ったことで儚い少女から生きる意味を与えてしまった。

彼女は自爆したのだ。


だがあまりに騒ぎが大きくなってしまった。

大人が動き出した。

生徒会や学園が事件をもみ消そうと躍起になった。

うつろを殺すことに成功したけれど、矯正する暇はあまりなかった。


連行されるうつろ。

彼女の欠けた穴を埋められるのはむしろしかいないと思った。

私は彼女に生きる意味を叩き込んだ。

聞きかじった死活部の真似事をすれば、彼女も再び生に向かうはずだと考えた。


引かれ合う磁石のように。

彼女は死を望む兆候を見せた。

妹や市役所の大人、生徒会に学園関係者。

学生の限られるヘルプのサインはほぼ無意味であった。


私はうつろに殺された。

残念ながら当然のように。


***


そしてむしろが生徒会長になっていた。

──彼女は手段を選ばない。──

日記に書かれていた言葉。

類推するしかないが、凶兆であることは確かだ。


「ちょっと体調悪いから、帰るわ。」

「えっ!?人道くん!?」


席を立つ。

これからのことを考えないと。

どうやって二人を元に戻すか。

なんとも悩ましい。


「人道!!お大事になぁ…。」

みくろの柔らかな態度は私の微かな良心を痛めつけた。


「…ありがと。」

机に心を置き去って、教室を出る。


朝から昼に移り変わる。

風は強くカーディガンなしには外を出歩けないほど。


つれづれなるままに。


私は歩く。行く当てなどなく、頼れる人なんていない。

私は孤独だ。


いっそ二人を認めてしまえば楽なのかもしれない。

それでも過去が許さない。

贖罪。

忘れることのできない罪。

私は全ての元凶。


暗い顔をしていたのだろうか。

声を掛けられた。


「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」

そう言ってカイロを手渡すのは、大学生くらいに見える長身の女の人だった。


「…いえ、大丈夫です。」

彼女の申し出を拒み、立ち去ろうとした。

その時だった。


「ほぉら握ってみろって、あったかいからさ!!」

無理やり握らせてきたカイロはすっかりカチコチになっていた。

ほんのりあったかかっただけだ。


「いいだろ!!だんだんあったまるカイロ!!半永久的に使えるんだぜ。名前はまだつけてないけどそうだなぁ。だんだんあったまるから…」


「あの!!」

意外と大きい声が出てしまった。


「【私、急いでるんで。】」

嘘だ。

正直解決策も思いつきそうもない。


「ナンセンスだな。」

そう見破り、顔をぐいっと近づけた。


「人を助けること、それがオレのエゴだからな!!」

長すぎるサイドテール。

黒というにはキューティクルのないくすんだ色味。

乾燥肌で歯が白い。


何も着飾らない彼女は、

「オレ、じゃなく私はレトロ。ただの懐古厨だ。」


それが一筋の解決策に思えた。

それは私に勝利をもたらすニケであった。

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