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第二十四話 元鞘。

第二十三話 黄金の日。を読むとさらに楽しめます。

午前8時30分ごろだろうか。

私は王玉学園に帰ってきたのは。


今日は学園祭。

誰もが熱に浮かされる、そんな日。

他の生徒に紛れて校門を通過しようとしたときだった。


「…必ずここに来ると、わかっていたよ──」


「中腹 空。」


山霧 朧。

こゝろちゃんから聞いた情報によれば、この女は生活部を作った元凶らしい。


許す道理はない。


「ここじゃなんだ。場所を移そうじゃないか。もっともカエサルもそう言っているしね。」

「…お気遣いありがとう。」


私は彼女のもとへついて行く。

むしろちゃんに会いたい、その想いを胸に抱えながら。


「さあ思う存分戦おうか、死の傀儡よ!」


案内されたのは体育館。

ステージの準備がされている。

椅子が敷き詰められ、マットも照明もスタンバイ。


「ここをぐちゃくちゃにするのは気が引けるわね。」

「…ふふ。そうだろう。いくら殺人鬼とはいえ他者の青春を穢すのは嫌だろう。さあ穏便に始めようか。」


ステージの上には私たち二人だけ。

ああ、おかしいなと思ったんだ。


「次の君には罪はない!!さあ死にたまえ、一斉砲撃だァ!!」


おぼろの合図とともに放たれる弾丸。

照準はもちろん私。


「レイド戦は卑怯じゃない?ハンデくらい頂戴よッ!!」


二発。

左手と右耳。


問題無し。

戦闘継続、実行。


「…こ、こないでぇ!!」

おぼろの耳をかじる。

大出血。


失神。


なんとも脆弱な人間であろう。

無能な指揮官である。


ただ兵士は強靭であった。

その職務を果たそうと一糸乱れることのなく砲撃の手を止めない。


「「「全てを生徒会長に捧げよ!!」」」


まさか15分もかかるとは…。

計十名。

指揮官が無能でなければどちらが勝ったかわからない戦いであった。


私はむしろちゃんのもとへ向かう。

彼女はどんな顔をするだろうか…。


ああ最悪だ。

「中腹さん。ここは行き止まりだよ。」


古流剣道部、古流弓道部、古流柔道部のみなさんがおでましだ。


「悪いね、中腹さん。生徒会長の命令でさ。」

「オレらもクラスの中の天使がいて幸せでした…。」

「だからすんません。死んでください!」


一斉に襲いかかってくる。

学園の人材は生徒会長の資源。

まったくこの学園は腐り切っている。


私は撤退を余儀なくされた。

何体かは殺せたが、学園を出る他なかったのだ。


「うつろさん何処ですか?」

「中腹さん、逃げてもムダですよ。」

「おーい。木上さんの命が危ないですよーっと。」


とりあえず街まで追いかけてきた連中は殺すことができた。


だがもう。

活動限界が近い。


「助けましょうか?」

背後からかけられた声。

私は精一杯殺そうとした。


が…。


「そぞろさん…。」

「呼び捨てでいいよ。うろろん。」


街の外れの裏路地。

学園祭をやっているというのにサボる学生が二人。


そぞろは私に経口補水液を手渡した。

「…体ボロボロだね〜。よっぽど学校に目つけられちゃったんだね〜。」

「まあね。でも数多くの失敗も、整えた環境もむしろちゃんの死に繋がるならなんてことないわ。」

包帯を巻き付ける。


よし、まだ闘える。


「待って、動いちゃダメだよ〜。傷が開いちゃうでしょ〜。」

「一刻も早く会いたいの。私には時間がないのよ。」


脱獄の件はもう知れ渡ったはずだ。

そうなれば警察も相手しなくちゃいけない。

たかが学生数人でこのザマなのだ。


もっとも会話ができているのは皮肉にも死の夢を遮る万能細胞のせいなのだけれど。


「はい。」

「何コレ?」

「むしろちゃ〜ん。」


一枚のブロマイド。

そこには視線をこちらに向けるバニーガールことむしろちゃんがそこにいた。


私は涙がとめどなく溢れた。

「え!?ちょ、なんで泣いてるの!?」

そぞろのハンカチに涙を染み込ませる。


ウ、エッグ。うええ。

「(死にたいと願っていた最初の純粋な宝石である)むしろちゃんが生きでで、よ゛がっだああ。」


「うろろんが泣いてるとこ初めて見た…。」

そぞろは唖然としていた。

「こんなバガみだいなカッコしでるなんでぇえぇ…。」


道徳の強制により涙もろくなってしまった。

あとでどうにかしなければ…。


「さて。」

「急に冷静になった!!」

「うるさいわよ、そぞろ。」


地星 創造論、こゝろの情報によれば大変裕福なお嬢様。しかしそれを隠しており誰にでも優しいギャルを装っている。入部目的不明の部員。


(なぜ私を助けたのか。)


「そぞろ。私はもう一度学校へ行く。むしろちゃんに逢いたいから。」

時計は昼前を指している。


そぞろは嫌な顔をした。

「そのケガで会いに行って…むしろちゃんに迷惑かける気?」


一つの予感。

「そぞろ、あなたってむしろちゃん絶対主義者なの?」



「ピンポ〜ン。」

あっけらかんとした様。


「私を助けたのも?」

「むーちゃんのため〜。」

「生活部に入ったのも?」

「むーちゃんのため〜。」


狂気じみている!!


「じゃあ、むしろちゃんの自殺には?」

「…望むのであれば協力を惜しみません。」


ああ。私の中の氷が溶けた気がする。

初めて信頼して良い人間を見つけたのだ。


【狂信者】


「…あなたの助言に従うわ。むしろちゃんと会うのはケガを治してから。」

「さっすが死活部のブレイン!!話がわかる〜!!」

「ふふ。ここから一番近いベッドは何処だと思う?」


〜〜〜

「結局学校行くのぉ〜」

「仕方ないでしょ。私の家には確定で警察いるんだから。」


「いっとくけど〜私ヘボいから戦力には〜…」

「安心して。最初からゼロだと見抜いていたわ。」


そぞろにすごい顔で睨まれたが気にしない。


「じゃあ保健室に…。」

「待って、やばい。むーちゃん体育館の劇出るって!!」

「な!!」


全速全身で闊歩闊歩。

演劇部の劇は毎年目玉になる程の動員らしく。

残念ながらほとんど見えない。


「こんなことならカメラ持ってくればよかったわ。」

「あ!!あれむーちゃんじゃない!?」


演目はイバラ姫のようだ。

(主演を貰うなんてむしろちゃんやるじゃない。)


隣に座っていた男子生徒がその友人と喋っていた。

「なあ知ってるか。今回セヒロ先輩でないらしいぜ。」

「ああ、なんか不審者にボコられたらしいな。かわいそうに。」


不審者?

まったく物騒な世の中だ。

ああ、私か。


この演目も使い古されたものだ。

いくら派手な音楽を使おうが、上手い役者が演じようが、結末はありきたりなもの。

想像を飛び越えて欲しいものである。


キャー

手前の方から黄色い声援が聞こえる。

あの背丈は、てきろか!!


薬菜 滴露ぉ…。

むしろちゃんの心を奪いあまつさえ、死の計画を多大に遅らせた災厄をもたらすものぉ…。


二、三回は殺したい。


大きな拍手と、またも大きな歓声。


「むーちゃんが…キスされた!?」

!?


やはりてきろ貴様は輪切程度じゃ生ぬるい!!

その駄肉でラーメンを作ってやる!!」

「うろろん、声漏れてる漏れてる!!」


またも取り乱してしまうところだった。

寧ろ爆発させるべきか?


***

私はそぞろと別れ、保健室へ。


警戒は怠らない。

懐かしのロボットが適当な薬をだす。


そしてベッドに横たわった。

このベッドには万能細胞を活性化させる効能があり、ケガの治療に打ってつけなのだ。

それこそ死ぬような怪我を負ってもわずか一時間で全治するほど。


失態だ。

午後4時。

寝過ごしてしまった。


もうむしろちゃんは帰っているかもしれない…。


「ああ、やってしまった…。」

ベッドから降りて、カーテンを開ける。


「随分と子どもらしくなったわね、うつろ。」

「めいろ…。」


私を待っていたのは旧友であり敵対者であるめいろであった。


「確かに性格矯正センターでは精神年齢に似合わない拷問を繰り返していたわね。その影響かしら。」

確かに、思い返してみれば感情を出すことが多かった。

泣いたり怒ったり笑ったり。


性格の矯正は知らず知らずのうちに進んでいたということだろうか。


それよりもだ…。


「ねえめいろ。聞きたいことがあるの。いいかしら。」

冷徹に言い放ったと思う。


「何?」

「生活部を作ったのはあなた?」

「ええ。」

「山霧 朧を監視員として要請したのも?」

「私ね。」

「生活部を生徒会長の下請け、つまり彼の見えるように位置付けたのは?」

「私よ。」


「じゃあ最後に一つ。私を殺して、人格矯正センターにぶちこんだのはあなた?」

「…そうね。」


「私よ。」

めいろは銃を構えた。


「私は今日であなたのことが嫌いになったわ。」

「そう。私はどんどん好きになった。」

めいろは気持ち悪い笑みを浮かべた。


「だって、一ヶ月でその影響なら三ヶ月もあれば元のうつろに戻ってくれるじゃない!!」


ああ、コイツはダメだ。

保健室に響く銃声。

結末は分かり切っていた。


「…次は勝てるわ。ああ、楽しい。」

「バイバイめいろ。」

私はめいろの銃を奪い、引き金をてにかける。


「うつろが元に!!普通の女の子に戻ってランチも、水族館だって!!死なんて忘れて!!そしたらむしろもあなたに惑わされることなく!!普通に生きるの!!ああ生きるって楽しい!!楽しい!!」


彼女をここまで狂わしたのは自分かもしれない。

ゆっくりと弾を撃ち込んだ。


保健室に響く銃声。

めいろの死体をそっとベッドに乗せる。


「むしろちゃん…!!」


私は駆け出していた。

図書館、生物室、生徒会室。

人っこ一人いない。


いるわけない。


夕陽が見える。

ああ、あなたに逢いたい。


屋上までの階段を駆け上がる。


その背中はどこか儚くて。

たんぽぽの綿毛のように繊細で。


…今までで一番嬉しくて…。


感情を抑える。

若干の幼児退行をしてしまった私でも我慢はできるようだ。


「ねえ」

か細い声で声をかける。


「撮影OKかしら。」

カメラなんて持っていないのに…。

初めて出会ったときと重ねてしまった。


その顔は子犬のようにいじらしくて…。

けれど確かな安心を保証してくれるようで…。

未だ純白のパールように輝きは衰えない。


彼女はまっすぐこちらに近づいてきた。

暖かな抱擁。

私は再会の喜びをハグで表現しようとした。


だから屈んだ。


Chu。

私の想像を超える素敵なサプライズ。


ハグしようと身構えていた両腕は行き場所をなくした。

初めからこうするのが正解だったのかもしれない。


死よりも夢よりも大切な黄金の時間がここにあった。


「ただいま、むしろちゃん」

「おかえり、うつろ。」


私は自分のために、そして彼女のために国と戦う決心をつけたのだった。

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