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第二十三話 黄金の日。

むしろ:主人公。世界への反抗心から死を追い求める。流されやすい性格。

うつろ:死を撮りたい狂人。脳をいじって記憶を消す術を持つ。

めいろ:うつろの旧友。死を嫌う常識人。少し押し付けがましい。あとノンデリ。


いよいよ学園祭編クライマックス。生活部はうつろはどうなるのか?

午前8時

「よおし学園祭だあーーーーー!!!!」


そぞろとともに教室へ入る。

今日だけは頭空っぽにして楽しむぞー。

運勢もよく今日が何かが変わる日になる予感がしたのだ。


(もっとも女運が悪かったのが気になるけど…。)


私のクラスではバニー喫茶というものをやるらしい。

生徒会はなぜこの企画を通したのか謎である。


「まあ私は関係ないけどね〜。」

「いや木上はスタメンだぞ。」

後ろの席からこんにちは。

みくろが私に宣告した。


(き、聞いてないよ??)


「寸法は地星が測ってくれたみてぇだから。ちゃちゃっと着替えてくれ。」

そ、そぞろちゃぁーん!?


「で、でも私なんにも知らないよ!?ば、ばにーなんて…。」

「前話したろ?アタシはメイド喫茶で働いてんだ。ノウハウはバッチリ。あと30分あんだ、トップオブエロースになってもらうぜ木上ぃ!!」


みくろはノリノリだ。

私とは対照的に…。


「ちょ、ちょっとキツイって!!」

「バニーってのはこーいうもんだぁ!!!」

こ、コルセットが腹を締め付ける。


ようやく着れた、そう思ったら接客の指導が始まった。

「いいか。ギリギリだ。ガチ恋とのギリギリを攻めろ。エッティの一歩手前だ!!」

「わ、わかんないよ。」

「そうだ!!目線を上に。かわい子ぶっちゃえ!!そうだ!!」


どうやらみくろの合格ラインに満ちたらしい。

気がつけば私はクラスメイトからの視線を集めていることに気づいた。


女子からは尊敬の念を。

男子からはリンゴを食べるように…私の小さい谷間。しかし熟れかけの果実に目を落としていたのだ。


(おお。これは…気持ちがいいぞ!!)


私は自分が読モであるかのようにポージングを始める。

「サービス♡」


「「「うおおおおおおお」」」

猛き声を上げるのは男子だけではなかった。

パシャリパシャリ。


スマホを構えられるたびに姿を変える。

うん、楽しい!!

もっと、もっと撮ってぇ〜。


「バカやってんじゃないわよ。」

ゲンコツ。


「め、めいろぉ〜!?。」

そこにはバニーとなっためいろがいた。


エキストラたちはそそくさとその場を後にした。

各々の役割を全うするらしい。


「あんた一人にバニーは任せられないわ。」

「ノリノリだったなぁ。」

みくろがニヤけて口を挟む。


「私たち生活部トップ1と2が揃えば最強!!」

「ええ、一時間で全部品切れにしてやるわ!!」


そうして時間は午前9時。

一年三組バニー喫茶が始まった。


***


午前10時。

「づ、疲れた…。」

当店の盛況ぶりは凄まじい。

多分物売るってレベルじゃない。


常に満員状態。

学生が接待してくれるコンカフェなんてそりゃ行きたいよ。


こうして生活部のシフトである見回りの当番をおぼろと変わろうしたのだが…。


「おっそいなぁ…。」

あたりは人でごった返しており、一人でいることが恥ずかしかった。


「待たせたね。」

透き通るようなはっきりとしたおぼろの声ではなかった。


「…会長。」

「そう睨んでくれるな。…おぼろくんのことなんだが…。」

会長は暗い顔をしていた。


「何かあったんですか?」

「…不審者に怪我を負わされてしまった。だから私が直々に知らせに来たわけだ。」

彼が語る言葉は今回だけは信じざるを得なかった。まさか不審者が入っていたなんて。


「わかりました。ではこれで…。」

一刻も早くこの男の前から去りたかった。

うつろを排斥したこの男の前から。


「ああ、そうだ。ミスむしろ。」

「まだ何か?」

「君11時ごろに体育館へ向かってくれ。演劇の人が急遽いなくなってしまったようだ。」


「生徒会長として私がやりたかったのだが、女子にしかできんらしい。大事な役目だ、しっかり果たしてくれ。」


え?

いやいや落ち着け…。

まあ、どうせ木の役だろう。

だって…ねぇ?


私はあえて何も考えず生活部としての仕事である見回りに励んだ。


***


「どうしてこんな目に!?」


見回りの任が解かれ、午後はゆっくりしようとしていたのだ。

(おのれ、生徒会長!!)


11時過ぎ

体育館はほぼ満席。

いくつかのイベントをやっていたらしく先のカラオケ大会ではサプライズとしてあのワープロさんが来たらしい。


私はそっと裏口へ向かう。

体育館の裏側では映画の撮影のようだ。

険しい顔をした人々がメイクにあたっている。


「やあ木上くん!」

戸惑う私に優しい声をかけたのはてきろだった。


「てきろ!!なんでここに?」

「私は演劇部のニューホープだからさ。生徒会長から話は聞いているよ、さあメイクをしようか。」


王子様役の彼女はいつもよりも何倍もカッコよく見えた。

(ロリコンなのに…。)


「あんたが主役(せひろ)の代役ぅ…?気に食わないね、ほらさっさと変えたげる。そこ座んな。」

ぶっきらぼうな口調の老練な彼女はメイクアップアーティスト。


こ、怖いぃ…。

「先輩、あまり木上くんを困らせないでくださいね。部長に叱られますよ!」

「ククッ。怖いねぇ。先輩を怒らせないようにしないとねぇ。」


この人部員なの!?しかも二年生…!?どうやって生きてきたらここまでの彫りになるの!?


そんな失礼なことを考えていたときだった。


「終わったよ。」

「え?」

「鏡で確認しな。」


こ、これが私…!?

本日二度目の劇的ビフォーアフターである。


「アタイのメイクがほぼいらないじゃないか。素体がいいやつは嫌いだね。気に食わない。」

老女は目をギョロギョロとさせながらこちらを見た。


「うん、良い感じだ。脚本は覚える必要ないよ。さあ登壇の準備はいいかい?」

「ま、まだ心の準備が〜〜。」


黒より黒い銀の幕。

豪華な小道具に囲まれて、人は踊り、副音声が奏でられる。


題目は「眠れる森の美女」


魔女にかけられた呪い、それは永眠ののろい。解く術はイバラを乗り越えるほどの勇気とまっすぐな愛。


(私、王女役かぁ〜)

バラの棘に見せかけたセットに囲まれて私は棺の中にいる。


ばちばち主役じゃん。

木役じゃダメですか?


うぅ視線が痛いよぉ〜。

目をつぶっているだけ、と言われたが正直ドギマギしている。

千を超える大衆の前に立ったことなんてない。


『かくして、若き王子は魔女を打ち破り、姫のもとへと向かったのだ!!』

いよいよだ。

この劇の最大の見せ場、呪いを解く王子のキス。


てきろは

『本当にキスするわけじゃないよ、軽く声をかける。私が退いたら、ゆっくりと目を開けてくれ。』

などと簡単に言い放った。


(ドラマチックな開眼なんて、私できるの!?!?)


私の心情を無視して劇は進む。


目の前に人が立っているのがわかる。

「さあ、ゆっくりと目を開けてくれ。」


ASMRのごとき彼女の低音は私の心拍数を跳ね上げる。


(えっと退いたら目を開けて…)

ゆっくりと目を開けた。

拍手喝采が巻き起こる。


そして立ち膝をつく王子様(てきろ)に近づいた。


(で、キスだっけ。)


私はほぼ無意識に彼女の唇を奪った。


巻き起こる大喝采。

スタンディングオベーション。

黄色い歓声。


てきろは耳まで赤くなっていた。

私はようやく過ちに気がついた。


だがてきろは役者であった。

演劇部の部員であった。

私を抱き抱え、ゆっくりと舞台から降りていく。


一切の表情を変えることなく。


鳴り止まぬ手を叩く音。

その爆音は脳の奥底に刻まれるようで…。


舞台裏にて。

「ホントッごめん!!」

私は手を擦り切れるほどの謝罪を行った。


「別に気にしてないさ。私くらいになればキスなんて…日常茶飯事サ!!」

目が泳いでいる。

うう、申し訳ない。


「っでさ。木上くん…いやむしろくんってさ…。か、彼氏はいるのかな…?」

まだ顔は赤い、多分私も。


私は…


「ナイショ♡」

うーん悪女!!


なぜてきろの手を取らなかったのか。

きっと◯◯◯のせい。


それとあなたのせい…。


「あら、二人とも。キスの味はどうだった?」

舞台裏にやってきたのはめいろだった。


違う違う、そうじゃない…。


「まあいいわ。もうすぐみくろも来るから4人で校内を回ってご飯を済ませましょう。」

「「え?」」


この雰囲気で?!


てきろの顔を見れない。

吹っ切れたと思ったのになぁ。


恋心というものは難儀なものだ。



「おう木上!!アタシ2-1の本格派たこ焼き食いたくてさぁ!!行こうぜ行こうぜ!!」

「うん。私もお腹ぺこぺこだよ!」


私たち4人。

◯◯◯がいない死活部のメンバーで校内を回る。


「てきろ。ほっぺたにソースついてるわよ。」

「これは失敬、失敬。まあソースが似合う女なのかもしれないがね!!」

「んなわけねえだろ。」


楽しさと恥ずかしさ、そして儚さを帯びていた。



***


「むーちゃん!!」

午後2時。

私はめいろたちと別れ、そぞろとの待ち合わせ場所にやってきた。


暖かな抱擁。

陽を全身に浴びたような大型犬は私に抱きついた。


出会い頭にハグとは、私はいつからファムファタールになってしまったのだろうか。


「そぞろちゃん。く、苦しい…。」

「も〜ホント大変だった〜。」

「お仕事頑張ったね。お疲れ様だね。」


そっと頭を撫でた。


「えへへ。じゃあ行こっか。」


私が来たかったのはお化け屋敷。


(まさかみくろが怖いものダメだとは…。)


少し残念に感じながら、それでもそぞろと一緒に来れたことをありがたく思った。

「行こっか!!」

そぞろは顔を青くしていた。

「が、頑張るね〜。」


そぞろの行動理念はむしろの望みを叶えること。

ゆえに彼女に断る理由なんてなかった。


むしろはそのことを知るはずもない。


〜〜〜

「「ぎゃああああああ」」

おどろおどろし。


こんにゃくはダメだよ。こんにゃくは…。


へとへとになりながら教室を出る。

ほら、汗でぐっちょり。


「休憩室行こっか…。」

「そ、そうだね〜。」


疲労困憊の二人。

空き教室にも人は多い。


当然だ。

今日は異常なのだから。


「ぶ、部室なら…。」

生活部の部室。

風が入って気持ちがいい。


人は少なく、座れるスペースがあった。

「やっと座れたね。」

「ホントだね〜。」


全くめいろが考えた生活部校舎歴史展はイマイチな人気のようだ。

「ねえ、むーちゃん。」

「どうしたの。」

「チューしたの?」

「うん。」


ん?

待て。

脊髄で答えてしまったけど…


「え。」


これはマズいヤツなのでは…?


「ふぅん。そっか。」

そっけない様子。


良かった怒ってない…。

「じゃあ。私とはその先もするよね。」


ステイ、ステぇえええいイ!!!!


「…アンタら何してんのよ。」

めいろだった。

「ちょ、ちょうどいいところに。めいろぉ助けて〜。」


「ちちくり合うのは勝手だけど、ここでやらないでも…。」

ドン引きである。


「違う。め、めいろぉ。」

彼女はそっと扉を閉めた。


私は捕食された。

長い、長い。

息も絶え絶え。

王子様とのキスとはまた違う。

一生を終えてしまいそうな…。


死のキッス。


***


「時間になっちゃったね〜。またうち来る?」

「丁重にお断りさせていただきます…。」


午後4時。


私はほぼ全ての元気を吸い尽くされてしまったようだ。

足もパンパン。

いろんなことしたせいでヘトヘトである。


片付けの時間だ。


クラスの売り上げはトップに食い込んだが、漢鮨おとこずしには勝てなかったようだ。


(楽しかったな…。)


いっぱい思い出を残した。

消えない記憶。

消したくない記憶。

一番輝いている、私の“普通”の青春。


(多分、普通には程遠いかも。上澄みの中の上澄み。)


【生きていて良かった。】


私はその言葉を否定してくれる人を探している。

すっかり日が暮れていた。

今日という日の最後に綺麗な夕日を見たいと思っていた。


体を振るわせて、階段を駆け上がる。


最初とは違う、諦念ではなく希望を求めて…。


夕日が照っていた。

私はその黄金に、目が焼かれそうだった。


(ああ、なんて美しいんだろう。)


私は落ちようとした。

(どうせ死ねないのに…。)




「ねえ。」

私は…。


「撮影OKかしら。」


黄金の青春。

夜を連れてきたのは黒々しい髪をたなびかせ、煌めくメガネが似合う女の子。

カメラは持っていなかったけれど。


「会いたかったよ。」

「うん、私も。」


夕日の中で、彼女はまるで過去そのものみたいに立っていた。

死神というには可愛らしすぎて…。


まだ約束は不履行だ。

進まなければならない。


私はうつろに歩み寄った。

背の高い彼女は少し屈んだ。

待っている気がしたんだ。


経験。


初恋との決別。

崇拝の儀式。


じゃあこれは?


王子様が呪いを解くためのキス。

私はうつろの唇を奪った。


(今日を忘れないようにしよう。)


人生の絶頂。

そうだ、ここから堕ちて行こう。


私は死へのリスタートを切った。

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