第十九話 生徒会長になるわ
まったく学校始まってからすぐ学園祭というものは大変すぎる。
慌ただしく揺れる学園。
準備のために私たちは生徒会員や実行委員とともに学園中を周り指示を受けるのだ。
もっとも私はトラブルを解決する役らしく…
「いやぁ限られた資金だけじゃ足りなくて、もうちょいもらえないっすか。」
「今から題目のぉ〜変更って可能すか?」
こんな品性のない人たちも…
「あ。っすー。やっぱ大丈夫です。はい。ご迷惑おかけしました。」
「そっすよね。無理ですよね。すんません。」
この通りである。
私の顔を見れば脱兎の如く走り去る。
ほんの一ヶ月でこうなるとは、私は何をしでかしたんだろうか。
「あ、むしろ殿。」
向かいから歩いてきたのはおぼろだ。
「おぼろー。疲れたよ。」
「さすが、部長は頑張ってて偉いな。よし、何か好きなジュースを選んでくれ。奢ろうか。」
おお。でも私が部長なのだから私が奢るべきか?
「ねえおぼろ、私も奢るよ!」
「そっか。お互いへのプレゼントというものだね。古来より贈り物というのはある程度の価値を帯びると信じられてきた。貝が部首なのは…」
うだうだしてる間に自販機へと辿り着いた。
「おぼろは何飲むの?」
「ん、ああ。私はバナナオレを頼もうかな。むしろ殿は?」
「私はコレ。」
指差したのは桃味のついた水。
「こ、これ。水だよ。」
「知ってるよ。おいしいんだから!!」
ガコン
ひんやりとしたボトル。
口に伝わるのは山脈から流れ落ちる滴と採れたての桃の味。
その片付けのしやすさも芸術的だ。
「ずいぶんとうっとりしているじゃないか…。たかが水に、そこまでの情熱をそそげるかね。」
「ただの水じゃないから!!ほら!!」
もう少ししか残っていないけれど、おぼろに飲料水を手渡した。
「いいから、飲んでみてよ。経験して!」
おぼろは恐る恐るボトルに口をつけた。
液体が彼女の食道へと流れる。
さっと口を制服で拭った。
「うん。まあ、おいしいんじゃない?まあ水だけれど?」
おぼろは少し顔を赤らめながら、デレた。
いつものうんちくがない分ストレートの美少女がそこにいた。
「素直じゃないな〜。」
「…なあ、むしろ殿。聞きたいことがあるんだけど…。」
どうしたんだろう。
「何?」
「…君は罪と向き合う方法について考えたことはあるかな?」
罪?
なんだろう。泥棒とか暴力とか?
「多分ない…かな。」
「私は、忘れないことだと思う。」
その目は緊張をはらんでいた。
忘れる、それは私たち死活部の常套手段。
もしかしておぼろは死活部を解散させた黒幕…?
考えすぎかしら。
「罪を意識して、記憶の片隅にその重みを置いておけば自然と贖罪の意識が芽生える、と思うんだ。」
でも、それは。
「この死なない世界じゃ拷問みたいなものだよ。罪を記憶に残しておくだなんて。」
もちろん加害者が罪を自覚して、次の犯罪を起こらないようにする、それは偉大だ。
でも、果たして万人が義務付けられたとして、守る人はどのくらい残る?
胸の真ん中にいるのは、うつろ。
彼女は何度と私を殺している。
それは私たち両方の夢に近づくためだ。
でも罪は罪なのだろう。
しかし、うつろが贖罪の意識をかかえろと言われたとして、守るのだろうか。
答えはノー。
ルールを越えてでもやりたいことをする。
そういう女だから。
いっぱい考えたあとに…。
「おぼろは真面目だね。私はすぐ忘れちゃうからきっと最低の罪人になるかも!!」
「え…?」
明るく言ったつもりだった。
重い空気を破るように。
しかしおぼろは今までにない表情で声を漏らしたのだ。
「…い、いや、忘れてくれ。ふと湧いた微かな疑問だ。」
「そう?」
もしかして滑った!?
ヤヴァイ、やっちゃった!!
心の中では頭をかかえて叫んでいる。
空はカラッと晴れていた。
***
「君が入ってくるのは予想外だな。ミスおぼろ。」
生徒会室には巨漢の生徒会長とおぼろの二人。
おぼろはなにか考え事をしているようだった。
「会長。私もうむしろちゃんとかかわるの、嫌になっちゃった…。」
おぼろの吐露に会長の目が鋭く細まる。
「感情抜きに彼女と向き合え。忘れるなよ、彼女は…。」
一瞬言葉を飲み込んだ会長のかわりに、おぼろが続けたのだ。
「46人を殺した危険人物だから。」
そう、むしろが監視される理由を端的に述べたのだ。
「そうだ。わが校の隠したい、いや隠さなければならない暗黒面。 “むしろ”こと死活部部長にして2125年版危険人物番号一番。彼女を更生させることなしに教育の理念は完成しない。」
「もっとも我々は教育理念なんぞとは無関係な、ただの学生ではあるがな!!ガッハッハ。」
「またまた御冗談を。」
会長は万能細胞とともに開発された技術により、二度目の学園生活を送っている、らしい。
「して君は、ミスむしろを更生させられるのかね。」
一瞬間を置き唇を噛みながらも、胸を張った。
「やります…。やってみせますとも!!私!…じゃなくて某は○○市役所幸福課若手のエース、山霧 朧なのさ!!」
「…その意気だ。」
ナイーブな大人から皮をかぶり、奇妙で活発なJKへと生まれ変わる。
山霧 朧は裏切り者である。
***
おぼろと会長の密会などつゆしらずむしろはめいろと行動を共にしていた。
「あと三日でほんとに終わるのコレ。」
「仕方ないでしょ。監査がすくないとこうなるのは必然よ。」
9月なのに暑すぎる。
エアコンの利かない廊下を駆け回るというのは高校まで部活をしてこなかった私にとって大変ヘビーな活動だった。
「くぁ~。ああ。めいろ私たちの出し物って結局何になったの?」
「なんで部長のアンタが知らないのよ。」
お飾りですからハハ。
ジョークを交えなかったのは、私の短所だろうか。
いや、むしろ成長!?
「私たちは、展示会よ。主にこの学園の歴史についてのね。」
「え~つまんない。スタンプラリーが良い。」
「もう決定事項よ。それにスタンプラリーは生徒会の仕事だから。」
「ふ~ん。じゃあ生徒会に入っちゃおっかな~。」
「またそんな冗談を…。」
「い~や、むーちゃん。生徒会入ろっか!!」
いつの間に背後にそぞろがいた。
「生徒会はね~。生徒の頂点、すべてを従える王、そして学園の顔!!」
大げさに手を大きく広げてその楽しさをレクチャーしてくれるそぞろ。
「話大きくして。生徒会にそんな権限ないでしょ。」
「い~や。全部がウソってわけじゃないんだなコレが…。」
「どういうこと?」
私は若干の興味を持ちながら彼女へと質問する。
「実は~今の生徒会長は昔どっかで市長やってたってウワサなんだよ!」
初耳だ!
そもそも大人って学生になれるんだ!!
「別に過去と今につながりはないわ。」
「のんの~んめろめろ。そのちょっと前の生徒会長は官僚になって、そのずーっと前は官房長官の秘書をやってるとか。」
「今の生徒会長は過去の経歴だったけど。昔の人が通った道として語り継がれてるんだよ。」
「まぐれよ。何十年と学園が続けばそういう人が出てくるけれど、極端な例でしょ。そんなサギまがいのことしないで。」
「サギじゃないよ~!!事実だよ~!!」
二人は何か言い争っていたけれどそれは全く耳に入らなくて。
『生徒会はね~。生徒の頂点、すべてを従える王、そして学園の顔!!』
その言葉がぐっと来ていたのだ。
「生徒会長になるわ。」
いけしゃあしゃあと放った言葉。
元来私は流されやすい性格である。
「この俗物ッ!!」
めいろの罵倒。
「私はむーちゃんにどこまでもついてくよ♡」
そぞろの応援。
死ぬ前にやりたいことができてしまった。
うつろは許してくれるだろうか。




