第八半話 ゴキジェットでイチコロさ!!
みくろ過去編です。八話の続きです。大分ハードです。
決心したはいいものの、今の姉御を殺す気概なんて待ち合わせていなかった。
でも今の姉御を見ているといたたまれないのだ…。
「じゃあ店閉めるぞ。」
23時。
周りに人っけはない。
***
私は今もこうして飯を作って妹たちを養っている。
補償金だけじゃ食べていけない。
採ってきた雑草を炒めた炒飯。
悲しいときも辛いときももやしの値段はかわらない。
極貧か、と言われればそうでないかもしれない。
屋根があり、水が使えて、風呂も入れる。
この店は叔父を名乗る男からもらった唯一の拠り所。
ボロっちくて、古臭くて、立地も悪い。
でも若く純粋だったときの思い出場所。
『オレはこっから一発デカいの当ててやんのよ。』
平成レトロと呼ばれるメイドキッサ。
知り合いを集めて、小さいながらも繁盛していたんだと思う。
叔父はいつだって夢を追って目に輝きを持つ、今思えば大分危なっかしい人だった。
でも、心優しい人だった。
任侠?それとも仁義?
時代にそぐわない古風な人。
そして、両親から捨てられた私を拾ってくれた人。
『ああ、今日からオレが父親代わりだ!』
当時中学生だった私には、本当に嫌で仕方なかった。
『近づくんじゃねえよ、クソジジイ!!』
彼に抱いていた感情は憎悪。
鬱憤の捌け口。
全部彼は関係ない。
捨てた両親に向けるべきもの。
…本当にひどいことをしたって思う。
でも幼い妹たちとも遊んでくれたし、休日はよく出かけた。
もちろん、彼も素寒貧だったため遊園地にはいけなかったけど。
でも奥底では彼を認められなかった。
一度も「お父さん」と呼ぶことはなかった。
結局ニセモノなんだから。
だからだろうか、胸に突き刺さったトゲはいつまでもそこにある。
『この…クソ野郎ッ!!』
中学から家へ帰ると、叔父は殴られていた。
店の前で。
『お。よお、嬢ちゃん。…ちょっと聞きたいんだけどさぁコイツの娘?』
怖かった。
ヤンキーなんて目じゃない、ホンモノの怖さ。
チガウ。
発した三文字、心に突き刺さるトゲがさらに食い込む。
『ま、コイツが子ども作れるわけねぇよなぁ!!』
『女一人話しかけるのに二時間も使ったコイツがな、ガハハ!!』
叔父はハニートラップにかかったのだという。
どよめくこの商店街。
シマの中で現れた好機。
なのに、頑なに首をふらない叔父。
だが女の色香に当てられて、カタに嵌められた。
みかじめを払わなければ、殺される。
プライドを捨て、心を売ればよかったんだよきっと。
『テメェらみてぇなクソヤクザに渡すもんはねぇよ。』
叔父の啖呵。
呆れた顔でコワモテの男たちは叔父を連れて行った。
妹たちは遅れて帰ってきた。
聞けば、友達と遊んでいて日が暮れるまで駆け回っていたらしい。
頼れる人はいなくなった。
キャストたちはオーナーが攫われたと知るとたちどころに消えて行った。
教えてもらった数々。英語や漢字、お酒にタバコ。みんな親身だったはずなのに。
数日が経ち、彼らはまた来た。
突きつけたのは廃人となり奴隷のように働かされる彼。
『ったく。せっかくのビジネスチャンスだったのにさ。』
『そ。だから君がさ。金稼いでよ。肩代わり、オレらの損失のさぁ。』
暴論。
『私、何もできません。グズだし…。』
『仕事は回すよ。ちょうど鉄砲玉が欲しかった。』
『女でもできるさ。ウチはジェンダーレス目指してるからよぉ。それとも妹ちゃんたちに肩代わりしてもらおっか?』
叔父から聞いた話。
母はモデルだった。父は身長こそ小さかったが有名なチャンプだった。今彼らは記憶を捨てて第二の人生を送っている、と。
妹たちは母親譲りの身体つきだった。
まだ小学生なのに身長は160を超え、胸の膨らみもあった。
…そういうことだった。
妹にヨゴレさせるわけにはいかない。
『私が…やります。やらせてください。』
地獄のような日々。握るのは拳銃。
もう覚えていないけれど、何度死に、何度殺したのだろうか。
高校生になっても続いたんだと思う。
義務教育が伸びた影響。
完全に黒い社会に落ちることがなかったのはそれのおかげかもしれない。
彼女が輝いて見えた。
喧嘩負けなしだった私はヤクザどもとの鬱憤を晴らすために殴り、殺して、気づけば頂点に立っていた。
(んなことしても、暗い現実が変わるわけじゃないのになぁ。)
『こ、クソ…。』
いつもの事務所から銃声が響く。
内輪揉めだろうか。
ドアを開けると二人の少女が立っていた。
『やあ、お嬢さん。私はしがない学生さ!!』
『さっき教えた挨拶使ってよ!!』
むしろとうつろとの出会い。あーだこーだ言ってる後ろでは全滅したヤクザどもの骸の数々。
『え?これ、ユメ?』
私は信じられなかった。
いくらケンカが強くなったと言っても、大人に勝てる気なんてしなかったから。
『ゴキジェットでイチコロさ!!』
はにかむむしろは、血みどろになりながらもあどけない表情を見せる。
『で、でも。今の世の中じゃ、こんな。コイツらでも蘇るんだよなぁ…?』
私は一生コイツらの奴隷。その根性からは抜け出せなかった。
『いや。私は人の記憶を消せる。蘇ってもあなたに危害は加えさせないわ。』
うつろがサラッと。
『な、なんでこんなことして…んすか。』
気づけば敬語になっていた。
理由は恐怖から。
『だって…いらないだろ。この街に。』
『そうだね。死亡実験のリスクとなる障壁は駆除しないと。』
二人はさも平然と、日常のように言葉を交わした。
目に焼きついていたのはむしろが銃を撃つ姿。
ガス、ガス、ガス。撒くうつろ。
『じゃあ、君は解放されたってわけだね!』
むしろ、いや姉御はにこやかにそう言った。
そう重なった。叔父と。
軽やかな言動が、表情が、そのぶっきらぼうな性格が。
『…じゃあむしろちゃん、その娘抑えてて今殺して記憶を…』
うつろが物騒なことを言う前に姉御は私の手を握った。
『部活に入ってくれないか。』
その手は温かく、血で濡れていた。
『イイっすよ』
即座に返事していた。
なんと言うか当てられていたのだ。
救われた、という気持ちに。
『…むしろちゃん。』
若干苦い顔をするうつろ。
『だって、同じ学校でしょ。その制服。ほら同じ学生のリボン。』
『それに、部活って認定されるためにはあと一人必要だっただろ?』
グダグダしていた二人の狭間で私は…。
多分、恋だった。
女子同士だとか、どうでもいい。
姉御と一緒にいれるなら…。
『姉御がいうことならなんでもやりますッ!!』
結構なボリュームだった。
姉御は一瞬驚き。
『やっぱり面白い。』
そういって部活の説明をしてくれた。
『私を、殺して。』
そう言ったのは覚えている。
その後、イヤイヤながらもうつろに記憶の除去を行ってもらった。
『本当に叔父さんとの思い出残すのね。結びついているからヤクザとの記憶もちょっと残るけど…』
『ああ、頼む。思い切ってやってくれ!!』
姉御はどんどんと自分らのノイズとなる壁を破壊していった。
やがて学園内外で恐れられつつも尊敬されるカリスマが誕生した。
叔父と似ているこの人の夢を叶えたいって本気で思ったんだ。
『…ちょっと聞きたいんだけれど、あなたたちって…誰でしたっけ…?』
だから絶望に相応しかった。
冗談かと思った。
しかし、どうやらマジらしい。
ちゃん、をつけられた。
違和感を語るのにそれで十分だった。
***
私は寝ついた二人を眺めながら期限切れのコーヒーを口にする。
もう一度、言葉交わしたい。
この切なさが、今の姉御を殺す動機には足りていないだろうか。
それとも、全く性格も異なるガワだけの別人に情がわいているのだろうか。
「…それとも恩人を殺すことをためらっているのか…。」
それは、交わした約束。夢の否定に他ならない。
複雑な思いを抱えながら世が更けていく。




