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第十五話 そんな殺生なぁ〜

帰ってからというものの、今後の身の振る舞い方だとか、記憶のナゾだとかいろんなことを考えていた。


腹の虫がなったので今日もカップラーメンを作る。

今日は醤油にしようかな。


「あ、お姉ちゃん。またカップラーメン作ろうとしてる!!」

ぐ、こゝろにバレてしまった。


彼女はプリプリと怒りながらも台所に立つ。


お湯ができるよりも早く、そして丁寧に。

「できた!!」


目の目に彩られたのは絵の具から捻り出されたような、春を詰め込んだような鮮やかな黄色。

そうオムライスだった。


ポッドがカチッと音を鳴らす。

その選択肢は彼方へ消え去った。


「半分こ。」

我が家の天使は大きな皿を差し出した。


うっひょー!!

蓋を開けたカップ麺を忘れて、かぶりついた。


素晴らしい。家庭の温かみを感じる。

使ってなかった部分の臓器がポカポカする。


「どう、上達したかな?冷凍のエビも入れてみたんだけれど。」

「ちょうおいしい!!」


二人で暮らす普通の家族生活は、前からあったかのようになじみ始めた。


皿洗い。

洗剤が泡立たず、何度もスポンジに液を垂らす。

うわ、もこもこになっちゃった。


「お姉ちゃん、明日は楽しい日にしようね。」

「明日?何か特別な日だっけ。」

「お姉ちゃんの誕生日でしょ!?」


そう、私の誕生日だった。

忘れてはいたのだけれど、そもそも実感がなかった。

祝ってくれる人なんていなかったから。


「そっか。おいしいものいっぱい食べようね、こゝろ。」

「もちろん。いっぱい楽しもうね!」


妹は隣の部屋に帰ってしまった。

同棲とは違うようだ。

まあ国からもらったアパートの一室じゃ狭いから仕方ないね。


目を閉じれば死活部の日常が浮かぶ。

(WION楽しかったな…)


体の疲れを癒すように、ゆっくり目を閉じる。


***


朝起きると、めいろからの着信があった。

要件はなんだろう。


掛け直す。


「もーしもし!!」

電話に出たのはめいろではなかった。


「誰です!?」

「イヤだな〜そぞろだよ〜。めろめろから聞いたよ。記憶なくなっちゃったんだって〜?」


めろめろ?めいろのこと?

起き抜けで頭の痛さを抑えながら、言葉を綴るのだ。

「そうだよ。昨日以前の記憶がなくってさ。」

「ああ、じゃあ花火大会もラウ◯ン行ったことも忘れちゃったの!!」


ぐぬぬ、前の私よ。普通の青春を過ごしやがって…。


「あはは。ソーナノ…。」

「そっか…。じゃあさ明日あそぼ!!新しい思い出つくっちゃお!!」


!!

これが…光か。

電話越しから伝わるいたわりの心は柔らかく、そして確実に私の悩みを吹き飛ばした。 


(この子めっちゃいい人じゃん…)

しばらくその余韻に浸ることとなる。


「ヤバめろめろ、そろそろ起きそう!!切るね〜あとハピバ〜!!」

「うん!ありがと!!バイバーイ…ん?」

そうだ、私はめいろの着信を折り返したのにどうしてそぞろが出たんだろう。


明日聞こ。


「お姉ちゃん、起きてたの?」

こゝろが起きてきた。

ねぐせがついてる。

今日もカワイイなあ我が妹は。

私はまた、見入ってしまった。


「お姉ちゃん!!寝ぼけてないで。ちゃきちゃき準備して!!」こゝろは洗面台へと向かいながらも、パンをオーブンへ。


そう忙しない朝を終えて…

一時間もたたないうちに、二人とも支度が済んだわけだ。


***

「見て見て!!あれってバニラだよ!!」

「こら、指ささないの。」


人通り激しいこの国の都市。

いっぱいの人に揺られながらようやくここまでやってきた。


目当ては…


「あそこ、あそこ!!人いっぱい!!ねえ早く行こ!!」

こゝろのやる気はフルスロットル。


そう映画「あなたと雪降る世界にて」通称あなセカ、のポップアップストア。

ラブストーリーにしては珍しく男性人気も獲得して、老若男女に愛される名作となった。


(まあその次作もその次もやや滑りしてたけど…)

私は夏休みの間に行きたい旨を伝えていたらしい。


「ならぼならぼ!!」

列に並ぶことを楽しみにする15歳がいるだろうか。

私による観測史上初というわけだ。


ポップアップストアは若い女性だけでなく、カップルの子もたくさん来ていた。

(男の子か…)


私は恋人なんていらないと思っていた。

ある時までは。


好き、その言葉に眠れない夜があった。


だがその相手はもういない。

おそらく消されているはずだから。


【上書きされた記憶は戻らない】


残酷な現実。うつろが語った真実。

記憶装置のデータを無理やりいじって、前のデータで強制上書きするというもの。


でももしもう一度会うことができたなら…


物思いに耽っていると

「お姉ちゃん次は次は!!」

急かすのは目を輝かせた妹。


今日一日中、こゝろに振り回されて、姉心を味わうのだった。

まあこんな誕生日も悪くないね。


帰りの電車はグリーン車をつかった。

こゝろはすぐに寝てしまった。


(疲れたよね。)


…初めて家族と過ごした。

もしかしたら恋人も家族のように安心できる存在なのかもしれない。


そんなことを考えていた。

だからだろうか。


もう一度会ってしまったのは…。


駅のホームを出ると誰かを待っている女子がいた。


男子とも遜色ない遥かな高身長。

しかしその存在感を示す女性らしさ。

スタイルがいい美人。


「やあ、おでかけかい?木上くん。」

てきろだった。


もしかしたら記憶が…

そう期待したのが間違いだったのかも。


「私、あの返事を……。え、木上…くん?」

ささいな、しかし決定的な違和感。

「ああ、同じクラスの仲間だろう。長い休暇で私のことを忘れてしまったかい?」


彼女にとって私はただのクラスメイト。

うつろは抜かりない。

捕まる前に最低限の仕事はしたらしい。


「そんなに見つめられちゃ緊張しちゃうじゃないか!!いやもっと見てくれたまえ、私の栄光を浴びて生きる活力にしてほしいからさ!!」


記憶をなくしても、てきろはそのままだった。

結局胸に秘めた五文字の言葉は行き場を失った。

仕方ない、そう、仕方ないんだ。


「ま、また来週学校でね。」

無理やり笑って、立ち去る。

こゝろの手を取りながら。


「待って!!」




私は…!!




「その子君の妹かい。名前はなんていうのかな?」

え?


「その、彼女の、ほ、ほっぺを触らせてくれないか…?」

少しばかり顔を赤らめていた。


私の顔はその真逆だっただろう。

知りたくなかった。てきろが、ロリコンだったなんて。


「ダメぇ!!」

「そ、そんな殺生なぁ〜!!」

そう言って私は温かい手をしたこゝろを引き連れて全力疾走したのだった。


「もう恋なんてしないんだからぁ〜〜!!!!」

こうして多分、私の初恋は終わったのだと思う。

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