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第21話 商人ギルドの来訪と、新たな産業

# 第21話 商人ギルドの来訪と、新たな産業


 あれから数日、いつものように訓練を続けていると、見慣れない馬車の列が村に入ってきた。


 商人ギルドのキャラバンだ。護衛の傭兵たちを引き連れ、大型の荷馬車が5台も連なっている。


「レオン様!」


 先頭の商人が、満面の笑みで近づいてきた。


「お待ちしておりました!」


 そう言うと、商人は金貨が詰まった革袋を差し出してきた。ずしりと重い。


「これは……?」


「水晶の前払い金です。それでは、積み込みを始めさせていただきます」


 商人たちが荷馬車から降りて、倉庫に向かおうとする。


「待て! 勝手に持って行くな!」


 俺は慌てて制止した。


「契約なんてしていないぞ」


「な、何を言っているんだ!?」


 商人が目を丸くする。


「騎士団経由で、あちこちの商人に売るんじゃなかったのか? もう運賃も代金ももらってるぞ!」


 商人は懐から羊皮紙を取り出した。確かに契約書のようだ。


「ほら、ここにメリル様の署名が」


「メリル様!?」


 契約書を確認すると、確かにメリルの名前がある。しかも、騎士団の印まで押されていた。


「あと、薬などの日常品とか、メリル様ご指定の本や漫画、アイスクリームも運んできました」


 商人が別の荷馬車を指差す。


「アイスクリーム……」


「特別な魔法保冷箱入りです。メリル様のご注文でしたので」


「……少し待ってくれ」


 俺は頭を抱えながら、メリルを探しに行った。


---


「レオンちゃ~ん!」


 メリルが満面の笑みで駆け寄ってきた。その手には、早速アイスクリームが握られている。


「見て見て~! ちゃんと商人さんたちが来たでしょ~?」


「メリルさん、これはどういうことですか?」


「レオンちゃんが忙しそうだから、私がやっておいたの~」


 メリルが自慢げに胸を張る。


「こう見えても、私って顔が利くのよ~」


 そりゃ、世界最強の騎士団長の母親なんだから当然だ。


「でも、勝手に契約を……」


「ほら、見て~」


 メリルが契約書を広げる。


 内容を確認すると、確かにこちら側にかなり有利な条件だった。水晶の買取価格は相場の1.5倍、運送費は商人ギルド持ち、定期的な物資の供給も保証されている。


 リーンハルト領の時と比べたら、商人ギルドや騎士団の取り分は多いが、まあ、運賃や護衛費などの手数料を考えれば、この程度は許容範囲、手数料はあいつらの聖域だろう。文句を言ってもしょうがない。


「具体的には、どうやったんですか?」


「そりゃあ、チョコちゃんに……」


 メリルが言いかけて、慌てて口を押さえる。


「チョコちゃんと一緒に頑張ったの~! 私だって、いくつか発注したんだから~」


「もう村のお金で漫画とアイスを買わないでください」


「私のおかげで得したんだから、いいでしょ~?」


「そういう問題じゃないんです」


 俺はため息をついた。


 でも、確かにメリルと……チココのおかげで販路は確保できた。あとは、どうやって発展させるかを考えないと。


---


 商人たちが水晶を積み込んでいる間、俺は村の現状を改めて考えた。


 問題なのは、特産品が水晶ぐらいしかないことだ。


 さらに、ここの人たちは生き残るだけで必死だったから、教育を受けられていない。リーンハルト領みたいに接客をさせられないな。


 なにより、こんな辺境の地、誰も観光に来たがらないだろう。


 メリルから借りたスマホを流し読みしながら、何か良いアイデアはないかと考える。


「養蜂……」


 画面に表示された情報に目が止まった。


 蜂蜜は保存が効き、軽くて運びやすい。蜜蝋も様々な用途がある。何より、広大な森があるこの土地なら、蜜源には困らない。


 そうだ、養蜂を始めよう。


---


 翌日、俺はモリビトの集落を訪れた。


「養蜂ですか」


 長老が興味深そうに頷く。


「実は、森の奥に特別な蜂がいるのです」


「特別な?」


「黄金蜂と呼ばれる種です。普通の蜂より大きく、作る蜜も格別に美味い」


 長老が地図を広げる。


「ただし、かなり獰猛で、巣に近づく者は容赦なく襲われます」


「場所を教えていただけませんか?」


「ふむ……」


 長老が考え込む。


「金貨20枚。それで情報をお教えしましょう」


「分かりました」


 商人ギルドから受け取った前払い金の一部を使い、取引が成立した。俺は黄金蜂の巣の場所を聞き出した。


---


 翌朝、俺は村人数名と共に、森の奥へと向かった。メリルも興味があるらしく、ついてきている。


「ここか……」


 巨大な古木の上部に、人の頭ほどもある巨大な蜂の巣があった。黄金色に輝く蜂たちが、忙しく飛び回っている。


「でかいな」


 村人の一人が震え声で言う。


「あんなのに刺されたら、死ぬぞ」


「メリルさん」


 俺は振り返った。


「防御魔法をお願いできますか?」


「はいは~い」


 メリルが手を振ると、俺たちの体が薄い光に包まれた。


「これで、蜂の針くらいなら通らないわよ~」


 防御バフのおかげで、俺たちは安心して巣に近づけた。蜂たちは激しく攻撃してくるが、針は魔法の障壁に阻まれて届かない。


「よし、巣ごと回収するぞ」


 慎重に巣を切り離し、用意してきた大きな木箱に収める。怒り狂う蜂たちも一緒に捕獲した。


 村に戻ってから、俺は養蜂場の準備を始めた。


「メリルさん、もう一つお願いがあります」


「なあに~?」


「鑑定スキルを強化してもらえませんか? 花の毒性とか、蜜への影響を調べたいんです」


「いいわよ~」


 パン!


 背中を叩かれ、新たなスキルが流れ込む。


【スキル習得】

・植物鑑定 LV.10

・毒性分析 LV.9

・品質管理 LV.8


「これで完璧~」


 早速、養蜂場周辺の植物を鑑定していく。


「この紫の花は……微量の麻痺毒がある。除去だな」


「こっちの白い花は、蜜の保存性を高める効果が」


「赤い花は、独特の芳香を蜜に与える」


 有害な植物を取り除き、有用な花を移植する。数日かけて、理想的な蜜源環境を整えた。


---


 2週間後、最初の採蜜を行った。


 巣箱から取り出した巣板は、黄金色の蜜でずっしりと重い。


「すごい量だ……」


 村人たちが感嘆の声を上げる。


 遠心分離機の代わりに、布で濾して蜜を集める。原始的だが、純度の高い蜜が採れた。


「味見してみよう」


 スプーンですくって口に含むと、濃厚な甘みと花の香りが広がった。


「美味い!」


 これなら、高値で売れるはずだ。


 さらに、巣から蜜蝋も採取できた。これでろうそくや、防水剤も作れる。


 その時、ちょうど商人ギルドのキャラバンが定期便でやってきた。


「今月の水晶を受け取りに参りました」


 商人が倉庫へ向かう。


「そうだ、これを試してみてください」


 俺は小瓶に入れた蜂蜜を差し出した。


「これは?」


「新しく始めた養蜂の蜂蜜です。よかったら王都で評価してもらえませんか」


 商人が味見をすると、目を見開いて驚いた。


「こ、これは素晴らしい!」


「本当ですか?」


「森の花の香りが素晴らしい。しかも、不純物が全くない」


 商人が興奮気味に続ける。


「王都の仲間に見せてきます。きっと買い手がつくはずです!」


---


 一週間後、商人が慌てた様子で戻ってきた。


「レオン様! あの蜂蜜の件で!」


「どうしました?」


「王都で大評判です! 高級料理店や貴族たちが、ぜひ買いたいと」


 商人が契約書を取り出す。


「定期購入の契約をお願いします。一瓶につき金貨10枚でいかがでしょう」


「金貨10枚!?」


「王都では、この倍の値段でも売れます。ぜひ、月に30瓶は確保したいのですが」


 水晶に次ぐ、第二の特産品が生まれた瞬間だった。


「分かりました。契約しましょう」


 商談が成立し、村に新たな収入源ができた。


 その夜、祝いの宴が開かれた。


「養蜂なら、俺たちにもできる!」


「巣箱を増やして、もっと生産しよう」


 村人たちの顔に、希望の光が宿っていた。


 水晶と蜂蜜。二つの特産品で、村の経済は安定し始めた。


 騎士団を裏切った俺たちでも、こうして生きていける。


 メリルがアイスを舐めながら、満足そうに微笑んでいる。


「レオンちゃん、すごいわね~。また新しいことを始めたのね~」


「メリルさんのおかげです」


 本当に、彼女なしでは実現できなかった。


 防御魔法も、鑑定スキルも、そして何より販路の確保も。


 万年Fランクだった俺が、今、村の産業を作り出している。


 不思議な人生だが、これも悪くない。


 星空の下、俺は明日の養蜂作業の計画を立て始めた。

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