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第17話 蛮族の脅威と、痛みの抑止力

# 第17話 蛮族の脅威と、痛みの抑止力


 モリビトとの同盟から三日後、廃村の生活は劇的に改善していた。


 朝食のテーブルには、野生の芋を蒸したもの、モリビトから分けてもらった乾燥肉、森で採れた木の実、そして薬草茶が並んでいる。


「美味しい!」


 リリアナが嬉しそうに芋を頬張る。


「こんなにバランスの良い食事ができるなんて」


 シルフィも満足そうだ。モリビトの長老が教えてくれた調理法のおかげで、限られた食材でも栄養バランスの取れた食事が作れるようになった。


 特に重要だったのは、保存食の作り方だ。燻製、塩漬け、乾燥。これらの技術により、食料を無駄なく活用できるようになった。


「そういえば」


 食事中、昨日モリビトの集落を訪れた時の話を思い出した。


「この廃村について、興味深い話を聞いたんだ」


 みんなの視線が俺に集まる。


「ここは元々、『水晶の村』と呼ばれていたらしい。近くに水晶鉱脈があって、それなりに栄えていたそうだ」


「それが、なぜ廃村に?」


 ルーナが尋ねる。


「5年前、北から来た蛮族に襲われたんだ。村人は皆殺しにされるか、奴隷として連れ去られた」


 重い沈黙が流れる。


「蛮族は定期的に南下してきて、弱い村を襲うらしい。モリビトが森の奥深くに隠れ住んでいるのも、そのためだ」


「じゃあ、私たちも……」


 リリアナが不安そうに呟く。


「そうなる可能性は高い」


 俺が正直に答えると、メリルが突然立ち上がった。


「ふーん、じゃあ先手必勝ってことで、先に滅ぼしに行くわ〜」


「え!?」


 みんなが驚く中、メリルは続ける。


「レオンちゃんは対人経験ないんでしょ〜? こんなどうでもいいところで苦労してるレオンちゃんを見ててもつまらないから、倒してくるわ〜」


「待ってください!」


 俺は慌ててメリルを止めた。


「蛮族だって、好きで襲ってるわけじゃないんです」


「え〜?」


 メリルが不思議そうに首を傾げる。


「大抵の場合は、暴力が最も効率がいい解決法になってるから暴力に頼るんです。彼らにとって、略奪は生きるための手段。蛮族のルールで叩き潰したところで、次の蛮族が生まれるだけです」


「あら〜」


 メリルが少し驚いたような顔をする。


「チョコちゃんと同じこと言うのね〜」


 そして、興味深そうに俺を見つめる。


「なら、どうするの〜?」


「暴力の結果をマイナスにしてやればいいんです」


 俺はスマホを取り出しながら説明した。


「異界では、ベトナム戦争というものがありました。世界最強の軍隊を、文明が遅れる弱小国家が破ったんです」


「え!?」


 メリルの目が輝いた。


「向こうにも私やパンナみたいな一騎当千の大英雄がいたの!? 手合わせしたかったわ〜」


「……違います」


 俺は苦笑いを浮かべながら続けた。


「強烈なトラウマになるような罠を使ったんです。原初的で効率は悪いけど、記憶に残る『痛み』を与える罠を」


 スマホの画面を見せながら説明する。


「その結果、最強の軍隊は進軍を怖がるようになりました。どこに罠があるか分からない恐怖。仲間が苦しむ姿を見る恐怖。それが、物理的な戦力差を覆したんです」


「……うん、チョコちゃんと違うのね〜」


 メリルが考え込むような表情を見せる。


「チョコちゃんは、圧倒的な世界最強の軍隊や武器を作れば世界は平和になるって言って、まあ……ほとんど実現してるわね〜」


 メリルが窓の外を眺めながら続ける。


「歯向かおうなんて夢にも思わない最強の騎士団を作り上げたのよ〜。まあ、非協力的なギルドや企業が集まって企業連合作っちゃったけど〜」


「……世界統一を手伝ってあげればいいじゃないですか」


 俺の提案に、メリルは首を振った。


「いや〜、企業連合には戦闘狂のパンナがいるのよ〜」


「パンナ?」


「同じ魔王討伐パーティーの生き残りなんだけど〜、あの子は対単体特化で、私は対多数特化だから勝てないの〜」


 メリルがため息をつく。


「なにより、世界の方が先に壊れるらしいわ〜。腐海の無人島で年1で遊んでるけど、1回目から滅茶苦茶になってたからね〜」


「ライバル国って聞いてたのに、仲いいんですね……」


 俺が驚くと、メリルはけろっとした顔で答えた。


「仕事と遊びは別よ〜。お正月には、私とチョコちゃん、パンナとその娘で毎年おせち食べたり、モノポリーやってるからね〜」


「え……」


「パンナの娘はチルベリーちゃんって言うんだけど〜、ここ数百年大統領やり続けてるぐらいには国民に愛されてるよ〜。あと運もいいから、強力なライバルが出ても交通事故とかで死んじゃうらしいわ〜」


「……もう……すごいですね」


 俺は頭を振って、話を本題に戻した。


「話を戻して、罠を作っていきましょう。錬金術のスキルをもらえますか?」


「はいは〜い」


 パン!


 背中を叩かれ、新たなスキルが流れ込む。


【スキル習得】

・錬金術 LV.10

・素材分析 LV.9

・合成知識 LV.8

・罠作成 LV.7


---


 その日の午後、俺は作業場で罠の製作を始めた。


 スマホでベトナム戦争の罠について調べながら、この世界の素材で再現できるものを選んでいく。


「まず、これから」


 俺が最初に作ったのは、落とし穴だった。ただし、底に尖った竹槍を仕込む。


「これは原始的だけど、効果的だ」


 次に、錬金術を使って作ったのは『痒み粉』だった。


「これを袋に入れて、木の上に仕掛ける。誰かが通ると袋が破れて……」


 デモンストレーションで少量を撒くと、見ていたルーナが慌てて後ずさった。


「これは……ひどいですね」


「命は奪わない。でも、強烈な不快感は残る」


 さらに、音響爆弾も作った。特殊な薬草を調合し、衝撃を与えると大音響を発する仕組みだ。


「鼓膜が破れるほどじゃないけど、しばらく耳鳴りが続く」


 他にも、足に絡みつく蔦の罠、目潰しの煙幕、悪臭を放つ液体など、様々な非致死性の罠を作っていく。


「レオンちゃん、えげつないわね〜」


 メリルが感心したような、呆れたような声を上げる。


「でも、確かに効果的かも〜。死なないけど、二度と来たくなくなるわね〜」


---


 翌日、完成した罠の一部を持って、モリビトの集落を訪れた。


「これは……罠か?」


 長老が興味深そうに見つめる。


「はい。蛮族対策として開発しました」


 俺は罠の仕組みと効果を説明した。


「命は奪わないが、強烈な記憶を残す。これを集落の周りに仕掛ければ……」


「なるほど!」


 若い戦士が目を輝かせる。


「蛮族どもに、この森は危険だと思わせるのか!」


「その通りです」


 俺は設置方法も含めて、詳しく説明した。


「ただし、味方が引っかからないよう、目印を決めておく必要があります」


 モリビトたちは、これらの罠を高く評価してくれた。


「素晴らしい! これなら、戦わずして敵を退けられる」


 長老が深く頷く。


「我々も、できるだけ戦いは避けたいのだ。これは理想的な解決法だ」


 罠と引き換えに、モリビトからは貴重な薬草や、保存の効く干し肉をたくさん分けてもらった。


「レオン殿は、本当に知恵者だ」


 長老が感謝の言葉を述べる。


「アカツキタケの件といい、今回の罠といい、我が部族に多大な貢献をしてくれた」


「いえ、お互い様です」


 実際、モリビトとの交易のおかげで、廃村の生活は格段に向上していた。


---


 夕方、廃村に戻ると、俺は仲間たちを集めて会議を開いた。


「村の周囲に、罠を設置していく」


 地図を広げて、配置計画を説明する。


「ただし、これは時間稼ぎに過ぎない。本当の解決は、蛮族との対話か、あるいは……」


「でも、まずは守りを固めることが大切ですね」


 シルフィが頷く。


「私たちエルフの魔法も、罠の設置に使えます」


「俺の炎も役立つかな」


 ルーナも協力を申し出る。


 みんなで協力して、廃村の防衛線を構築していく。


 その夜、俺は星空を見上げながら考えていた。


 チココのような圧倒的な力による平和。


 俺が目指す、恐怖と痛みによる抑止。


 どちらが正しいのか、分からない。


 でも、今の俺にできるのは、この小さな村と仲間たちを守ることだけだ。


「レオンちゃん」


 メリルが隣に座った。


「さっきの話、面白かったわ〜。チョコちゃんとは違うアプローチね〜」


「どちらがいいんでしょうね」


「分からないわ〜。でも、選択肢があるのはいいことよ〜」


 メリルが優しく微笑む。


「チョコちゃんは騎士団で頑張ってる。レオンちゃんは、ここで頑張ってる。それでいいんじゃない〜?」


 その言葉に、少し気が楽になった。


 万年Fランクだった俺が、今、新しい道を切り開いている。


 それは、誰かの真似じゃない、俺自身の道だ。


 蛮族の脅威は確かに存在する。


 でも、知恵と工夫で、きっと乗り越えていける。


 そう信じて、俺は新しい一日に備えた。

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