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不謹慎な暇潰し

作者: 青野菜穂

「そうだ。聞いてくださいよ。数日前に私、人を殺したんです」

「は?」

「ですから、人を殺したんです。えっと、キルしたんです」

「何かのゲームですか?」

「うーん、そうじゃないんですけど。まあ、とりあえず聞いてください」

「冗談ならいいんですよ。不謹慎だとは思いますけど」

「とりあえず聞いてくださいってば」

「はいはい」

「相手は知り合いです。年齢は二十代、性別は男性で、容姿はそこそこ良い感じ。でも性格はあまりよろしくありませんでした」

「……」

「なんと言いますか、女性泣かせの人だったんです。良い容姿と甘い囁きで女性を堕としては捨てを繰り返して、でもそつなく立ち回るから表立っては恨まれない、酷い人です」

「……」

「相槌くらいはうってもらって構いませんよ?」

「あ、いいんですね?」

「そうしないと話を聞いてもらう張り合いないじゃないですか。えっと、はい、その男性はあまりよろしくない人だったんです」

「なるほど」

「その調子でお願いします。で、その男性はどういうわけか私に目をつけました。ただ恋の駆け引きを楽しむくらいならまあよかったんですが、いやそれもそれで嫌なんですけどね、それよりも何か悪どいことをするために利用しようとしたんです」

「それは物騒ですね」

「ええ、本当に。お陰様で命の危険があったので、私はなんとかしようと頑張りました」

「命の危険があるのは怖いですね」

「はい、なので頑張って殺しました」

「その方向に頑張っちゃったんですか」

「はい」

「……」

「……」

「えっと、それから?」

「……? どうかしました?」

「お話終わりですか? もう少し何かあるでしょう」

「え、そうですね。えっと、じゃあ、殺害方法について」

「お、気になりますね」

「まず、おびき寄せます。私を利用しようとしているその人は私を常に監視していました。多分家の中までは無理だったと思いますが、外に出てからの一切合切は見張られていたと思います。トイレとかまでは流石に大丈夫だったと信じたいです」

「そこはまあ置いておいて」

「ですね。なので、私を餌におびき寄せるのは簡単でした。わざと人気のないところに行けば一発です」

「自分を危険に晒すのは関心しませんよ」

「ごもっともです。まあ、私も流石に一発で引っかかるとは思わなかったので驚きでした。でもその驚きのお陰か、相手は不自然に思わなかったみたいです。相手の、多分ずっと考えていた計画がまずは始まりました」

「なるほど」

「声をかけられました。私とその人は知り合いですから、至って普通な感じで。人気のない場所といっても、別に山奥や無人島といった僻地ではありませんでしたから。こんなところで何してるの、奇遇だね、みたいな感じです」

「ふむ」

「私は普通に返事をして、それから世間話が始まりました。まあ、普通といっても私は驚いていましたし、これから自分がうまくできるか不安でしたし、逆に相手に一枚上をいかれる可能性もありましたから、普通ではなかったかもしれません。でも、人気のない場所でいきなり話しかけられてちょっと警戒してる風に相手は取ったらしく、逆にうまくいきました」

「それは何よりですね」

「はい、本当に。相手からうまい具合に誘われました。ここは何だから場所を変えないか、よかったらお茶でもしないか、なんてスマートに。流石はプレーボーイです。とてもお上手でした」

「ほお」

「それで、その誘いに乗って、カフェでお茶することにしたんです。そこのカフェで、私はやったわけです」

「やったと言いますと」

「殺しました」

「……人目のある場所で?」

「そうですね。確かにあまり良くない場所でしたけど、私はしたんです。相手が席を外したタイミングで飲み物に毒を入れました。戻ってきた彼は何も気づかずに飲んで笑ってました」

「……」

「それから、普通に談笑して、普通に解散しました。毒は遅効性があるので私と別れてから効いたと思います。こうやって私は人を殺しました」

「いくつか質問しても?」

「はい、話したいことは話せたからいいですよ」

「ありがとうございます。まず、その人は確実に死んだんですか?」

「はい」

「確認できたんですか?」

「はい」

「その人は具体的にどこで」

「うーん、多分帰り道のどこか、ですね」

「詳しくは知らないんですね」

「はい」

「……毒の入手経路は」

「不思議と持っていました。やるぞって思って、実際に彼を嵌めたときにはこの手に」

「不思議と、ですか」

「はい、不思議と」

「二人で入ったカフェは」

「あ、前に話題に出したカフェです。覚えてますかね」

「はあ」

「えっと、ケーキがすごく大きくて、ドリンクも凝ってて紅茶が何百種類もあって、お値段の張る」

「ああ、あの外国の!」

「そうですそうです、確かイギリスだったかな。内装もおしゃれですごく人気で、人生で一回はああいうところ行ってみたいですよね」

「あー、えっと、確か外国に行ったことなかったですよね?」

「はい、一歩も。ここ最近は特に外出もしてないですね。ずっと家で過ごしてます」

「なるほど。最近見た夢の話なんですね」

「そうです! 数日前にうたた寝してるときに見ました」

「はあ」

「どうでしたか?」

「はい?」

「私の話」

「あまりうまくはないですね」

「ですか……」

「罪の告白から始めて興味を持たせるのはいいんですけどオチが夢ですし、夢の話なので不自然な展開ばかりですし」

「確かに」

「それに殺人を話題にするのはあまりよろしくないですよ。言いましたが不謹慎です」

「あ……考えなしに話してすみませんでした」

「……まあ、暇潰しにはなりましたよ。気を遣ってくださったんですよね。ありがとうございます」

「優しい……」

「さあ、ちょうど良く時間が経ちましたし、気分転換も十分できましたね。もう少し頑張りましょう」

「はい!」

「これ、もう要らないので捨ててきてください。ついでに段ボール箱もう一つ持ってきてくれますか」

「了解です!」

「急がなくていいので、気をつけて」

「はい! ありがとうございます!」





「はあ。全く、立つ鳥跡を濁さず、でお願いしたかったですね。全然関係のない子が変な夢見てるじゃないですか。可哀想に」


「話題選び失敗しちゃったなあ。カフェの話にすればよかったかな。いや、あー、それも駄目だったかも。うーん、やっぱり天気の話が一番かな」




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