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短編小説

夏に溺れた私たちの記憶

作者: 雨宮雨霧

夏。

毎日のように暑く、テレビで流れる映像も暑苦しく。

セミもバテてしまったのかあまり鳴かず。

それでも笑顔がはじける君、夏木爽(なつきそう)

今日も名前の通り爽やかだ。

冬夏(とうか)、早く行こ!」

「ちょっと待ってよ。」

セーラー服が泥まみれになるくらいには騒がしい子だが、優しくて学校でも人気がある。

爽と反して私はいつも空気と化している。

クラスでの人気?あるはずがない。

何なら嫌われている。

そんな私たちの記憶をここに書き残していこうと思う。


涼宮冬夏 高校2年16歳

夏木爽  高校1年16歳


暑い夏に起こった出来事。

クラス内でいじめが始まった。

標的はもちろん私だ。

理由は知らないが、きっと鬱憤晴らし。

いじめて何が楽しいのかさっぱり分からないけれど、クラスの人たちは私を見て笑っている。

机に書かれた暴言。

椅子に刺された釘。

下駄箱に入れられたゴミ。

上靴の底に開けられた穴。

器物損壊だ。

学校の備品を傷つけるのはどうかと思う。

泣きもしない私が面白くないのか、机の上に一輪の白百合が置かれ始めた。

「死者に捧げる」

死んでから置いてほしいものだ。

私はまだ死んでないっつーの。

いじめが始まって一週間。

爽が何かに気付いたらしい。

「ねぇ、冬夏。いじめられてるでしょ。」

「なんでそう思うの?」

「私見たもん。」

「なにを。」

「誰かが冬夏の机に落書きしてるところ見たよ。」

爽はいじめなど許さない。

正義感の強いいい子だ。

「先生に言ったから。」

「また余計なことしたね、言わなくてよかったのに。」

先生に言ったら許さないから、というのは定番だろう。

その定番が実際に起こるのだ。

「余計じゃないし、冬夏は苦しみたいの?」

「爽は綺麗な景色だけ見ておきなさい。」

気付けば私より背が高くなった爽。

背伸びして頭を撫でる。

「勝手に死んだら許さないから。」

「こんなにかわいい爽を残して死ねるわけないでしょ。ほら、帰ろ。」

あーあ、明日からどうなるんだろう。

生きて帰れないかもしれない。


「おい、あれほど言うなって言ったよな?どうなるか分かってんの?」

「言ったのは私じゃない。」

「お前以外に誰が居るっつーの?バカにするなよ。」

コンパスの先が私にめがけて降ってくる。

そのままお腹に刺さる。セーラー服は白から赤に変わっていった。

ジリジリと熱く痛む腹部。

何度も降ってくるコンパスの先。

助けて、と心の中で言ったら助けが来るとか、そんなドラマのようなことはない。

現実は甘くなかった。

「汚、もういいや、行こ。」

意識が遠のき始めたところで刺すのをやめた臆病者たち。

どうせなら殺せばいいのに。

授業が始まるチャイムが鳴った。

学校に居るのに授業に出れず、痛みで動けず。

ハンカチで傷口を抑えても血は止まらない。

使われていない校舎の4階なんて誰も来るはずがない。

そろそろ助けてほしい。

本当に死んでしまう気がする。

暑い蒸し風呂のような教室で一人、血を流しながら死ぬとか大分無理だ。

爽、たすけて。

「え、え、待って、冬夏?!どうしたの、血やばいよ?!てか生きてる?!」

「爽、落ち着いて。とりあえず保健室の先生呼んできて。」

「分かった、早く戻るから。」

なんで授業が始まっているのにここに来たんだろう。

爽のことだからサボったんだろう。

とりあえず死ななくて済みそうだ。

爽、サボってくれてありがとう。

「涼宮さん分かる?聞こえる?」

意識はギリギリあるものの、もう反応することができない。

「救急車呼んでるからね、ちょっとお腹見るね。」

「先生、あいつらだよ。あいつらが冬夏のこと滅多刺しにしたんだ。」

爽の泣き声と先生たちの騒がしい声。

ここで私の意識はなくなった。

よくここまで意識が残っていたものだ。


目が覚めると部屋に居た人たちが誰かを呼びに行った。

「涼宮さん、分かりますか?」

とりあえず頷いておく。

知らない場所に知らない人間。

病室だと気付くのに時間がかかった。

「冬夏!やっと起きた、3日寝てたんだよあんた!」

号泣している爽。

号泣して怒っている。かわいい。

「あいつら全員退学だから安心してね。警察沙汰にするのは学校が隠蔽しようとしてるの、ごめんね。守れなくて。」

「大丈夫だよ、ありがとう。」

しばらく入院して、8月に退院できた。

1学期が知らない間に終わってしまった。

勉強しなきゃな。

「冬夏、宿題に自習とか偉すぎるね。私何もやってないんだけど。」

「爽はやったほうがいいよ。留年したくないでしょ?」

「そりゃしたくないよ。」

甘いラムネを飲みながら二人で勉強をする。

窓の外は夏の空が広がっていてとても綺麗だ。

気付けば何時間も経っていて、もう夕暮れ時になっていた。

「私そろそろ帰るね、冬夏はゆっくりするんだよ。」

「うん、ありがとう。」

爽が家に帰ろうと玄関のドアを開ける。

すると見覚えのある顔が複数あった。

「冬夏逃げて!お前らなにしてんだ!」

爽が必死に庇おうとしてくれるが、刃物を持った彼女たちには流石に怯んでしまう。

気付けば背後に誰かが居る。

そして首を強く絞められた。

「冬夏!お前らやめろ!!」

泣き叫ぶ爽の声。

目の前で殺されている私を見るだなんて。

爽にトラウマを植え付けるわけにはいかないのに。

数分もすると爽の声も消えてしまった。

あぁ、私たちはなんで殺されないといけなかったんだろう。


夏。

爽とともに甘いラムネに溺れる夢を見た。

ラムネのA玉が転がる音、炭酸のはじける音。

短い夏を二人で終えた。

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