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クレオパトラ

作者: 羽生河四ノ

 エジプトにアレクサンドリア (アレキサンドリア) という都市があります。エジプト第二の都市と言われています。カイロに次いで人口が多いのです。アレクサンドリアは地中海に面しています。また、本当かどうか知りませんが、このアレクサンドリアはクレオパトラ (クレオパトラ7世) の故郷でもあったそうです。

 その当時、アレクサンドリアにはアレクサンドリア図書館というものがありました。これは世界最古の図書館という事で、現代にも名を残しています。そこに納められていた蔵書は七十万冊とも言われていたそうです。

 ちなみに、その当時の記録媒体というのは紙ではなくパピルス (体にピースのやつではない) というものでした。パピルスはなんかの草かなんかを叩いて平たくして作られていたそうです。ペーパーの語源とも言われています。

 このアレクサンドリア図書館をその当時、クレオパトラもすごく誇りに思っていたそうです。世界最古だし、蔵書七十万冊だし、パピルスを作るのだって結構エジプトの専売特許みたいな感じだったそうです。他国にもまあ、図書館というようなものはありましたが、蔵書数はこのアレクサンドリア図書館には遠く及びませんでしたし、他の図書館でも記録媒体として使っているのはこの、エジプトのパピルスであり、故に高値で輸出していました。パピルスを求める所はたくさんありました。つまりまあ作ったら作っただけ黒字だった訳です。

 現代で言えば、国立国会図書館と町の図書館くらいの違いがあったのかもしれません。町の図書館はあまりにもかな。県立図書館くらいでしょうか。

 蔵書の多さは、豊かさや知性とイコールだったのでしょうか。クレオパトラはもう、それはもうこの図書館、アレクサンドリア図書館を誇りに思ってました。七十万冊を誇りにしていました。誇りに思っていたそうです。

 そんなある時、彼女は嫌な噂を耳にしました。

 地中海、海を渡って向こうにあるペルガモン (現在のトルコ) に新しく図書館が建てられて、そこの蔵書が我がアレクサンドリア図書館の蔵書数を凌駕しそうな勢いなのだと。

 その様な噂です。

「ふざけんなよ、こらあ」

 クレオパトラはそんな噂を聞いて、腹立たしく思いました。舐めやがって、こらあ。そう思いました。うちのアレクサンドリア図書館の七十万冊を超えるとか、マ? マジか。マジありえないんですけど。そんなの許せないんですけど。そんなの許せなくない? 許さないんですけど。やったんぞこらあ。マジやったんぞ。

 クレオパトラは恋人のアントニウス (マルクス・アントニウス) にお願いしました。

「ねえぇ、海の向こうのなんとかって国がぁ、生意気なんだけどぉ。図書館の蔵書の数とかがぁ、マジ破竹でぇ。ねえぇ。なんとかしてぇ、アントニー」

「それはあれだねえ。良くないねえ。そこの蔵書もそのうち全部うちの図書館に納めようねえ」

 アントニーこと、アントニウスはクレオパトラにメロメロでした。メロってました。ちゅっちゅちゅっちゅしてました。

「マ?」

「マだよ」

「約束だからね。アントニー。マジで」

「わかったよ子猫ちゃん」

 その後、調べたところによるとペルガモンの図書館でも、パピルス。エジプト産のパピルスが使われていたそうです。そこで、

「あ、じゃあ輸出を禁止したらいいじゃん」

 という事になったそうです。

「パピルス無かったらもう蔵書増えないっしょ、楽勝楽勝」

「さすがアントニーじゃん。素敵ぃー」

「うははははは」

「まじアントニーしごできじゃーん」

 これによって困ったのはペルガモンです。当時ペルガモンの側にどういう想いがあったのか、それは今となってはもうわかりません。アレクサンドリア図書館よりも蔵書が多くすることに注力していたのか、あるいはただ知識、知性を求めていたのか。

 とはいえもうパピルスは入ってきませんし、困りました。ものすごく困りました。

「どうしたもんだべなあ」

「ほんとだすなあ」

 ただ、そうは言っても蔵書は増やしたいのです。パピルスは無いけど、でも蔵書は増やしたいのです。止まってられないのです。こんな事で。こんな事なんてそんな風に言っていい事ではないかもしれません。一大事です。でも、とにかく増やしたいのです。その欲求は止められません。

「んだば代わりになんかねがな」

「代わりだすか」

「んだ、パピルスの代わりさなるもんねがな」

 こうしてペルガモンの図書館の人達は苦心して、そしてそれがやがて実を結ぶことになりました。

 パピルスの代わりに羊の羊皮紙、羊の皮をなめしたものを作り出したのです。

 羊の羊皮紙はパピルスよりも高価ではありましたが、知識、知性、図書館の蔵書を集める、増やす欲求にはかないませんでした。

 それに作ってみると、使って見ると羊皮紙はパピルスよりもはるかに記録用具として優れていました。

 これ以降の時代、人類の記録は羊皮紙によって残されることになりました。パピルスだけでは後世まで多くの記録が残る事は難しかっただろうと言われているそうです。

 それもこれも元をたどれば、クレオパトラのおかげです。

 彼女がアントニーにお願いして、ペルガモンにパピルスの輸出が禁止されたからです。

 つまり分水嶺と言えます。

 当時もしもプロジェクトXがあったとしたら、ペルガモンのこの羊皮紙の回は間違いなく作られるでしょう。

 オープニングで中島みゆきさんの地上の星が流れて、エンディングでヘッドライト・テールライトが流れて感動して涙するでしょう。

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― 新着の感想 ―
お現代への示唆に富んだお話を楽しませてもらいました。 話を読んで、輸出を止めて駄目になる国(旧ソ連)と、それを乗り越えて自力で供給できるようになって禁輸した国が結果的に損をする国(中国)を直ぐに思い…
クレオパトラの言葉遣いが悪くて笑えましたw。お気に入りは『ふざけんなよ、こらあ』!! 彼氏なアントニオにおねだりするときのしゃべり方もグッド。彼らユニークですのね┐('~`;)┌ 歴史に名を残すキャラ…
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