6話
キッチンへと移動し、愚痴を吐きつつお菓子作りの準備をする。
冷蔵庫の中身的に、今日は簡単な材料で作れるベイクドチーズケーキかな……。
頂き物のビスケットもかなり余ってるし、唯ビスケットとして食べ続けるより土台のボトムとして使った方が飽きないよね。
「砂糖に卵、クリームチーズっと。……あ、今日はバター多めにしようかな~」
ベイクドチーズケーキは土台の食感と味でかなり変わるしね。
ビスケットを砕き、気持ち多めに溶かしたバターで土台を作る。
「型枠は……5号で良いか」
直径15センチメートルぐらいの丸型。
2人で食べるには多いけど、材料を丁度良く使うにはこれぐらいのサイズだろうな。
変にレシピから材料を減らしたら、オーブンで焼く時間とかも調節しなきゃいけなくて大変だし。
生地をちゃちゃっと作り終え170度に設定したオーブンへと突っ込む。
後は40分ぐらい焼けば完成。
その40分間で、僕は日課の筋トレをする。
体幹、腕、足……。
脳内に理想とするマッチョを思い浮かべながらやってるけど……。
段々、虚しくなって来たな。
「……鏡に映る僕の姿、変わらないなぁ」
クローゼットの中に置いてある姿見に映る自分は――もやしだ。
女の子より筋肉が無いかもしれない。
それぐらい細くて頼りない肉体だ。
「……僕のなりたい格好良い姿は、もう諦めた方が良いのかも。4年間も続けて、これだもんな……」
なんだか……涙が滲んで来た。
一旦メガネを外し、目元を擦る。
オーブンを見に行くと、まだ焼き上がるまで15分ぐらい時間があった。
「……気晴らしにFPSでもやるか」
銃でバトルロワイヤルするゲームを一戦やれば、丁度良いぐらいの時間だ。
また自室に戻り、充電していたゲーム機を手に取って起動する。
画面に映るのは、現実の自分に対する不満――正反対の筋肉が浮き出てスタイルの良い屈強な男性キャラだ。
野良として知らない人とパーティを組み、バトルロワイヤルへと参加する。
「……なんだ、コイツら。全然僕と協力してくれないじゃん」
仲間内でやってるのかな? 僕なんかいないかのように、勝手気ままにプレイしている。
「あ……。味方がやられた。救援を求めてるし……。居るよなぁ、協力プレイはしないのに、自分がやられたら復活の協力だけ求める人って」
自分以外の味方が敵のパーティにやられ、回復をしてくれとチャットが飛んで来る。
敵は味方に置いていかれ離れた位置にいる僕には気が付いていないのか、固まっている。
それなら――僕が敵を一掃して味方を救うヒーローになってやろうじゃないか。
「グレネードくらえ! ……ハハッ。殲滅完了。味方も助けられたし……僕、頼られてるなぁ」
僕は昔、イケメンヒーローのような男に憧れていた。
こうなりたいと、心から思っていたんだ。
好きな人がピンチに陥った時に格好良く助けられる、まるで漫画に出て来るイケメンヒーローのような男らしい男に。
その目標が――ゲームの中でだけは達成出来た気がする。
その後、何組かのパーティと遭遇し、味方部隊は壊滅。
僕の操作している屈強な格好良いキャラもやられてしまった。
画面が暗転すると――屈強なキャラとは正反対な、もっさり頭にメガネをかけた地味な自分の顔が映る。
思い描く理想のイケメンとは真逆の、パッとしない陰気な男がそこには映っていた。
これはイジメられるよなぁ……。
弱肉強食の世界だったら、どう考えても狙われそうな程に弱々しい見た目だ。
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