5話
マンションの隣の部屋に住む隣人――花崎家の1人娘、伶桜の気配を感じた僕はベランダから自室へと戻る。
伶桜とは腐れ縁。幼い頃から兄妹同然に育って来た。
地味なチビで、いじられっ子でインドア好きな癖に、気だけは強い幼少期を過ごして来た僕。
対して伶桜は、幼い頃から身体も大きくバスケも上手い。
中学校1年までは毎日のように一緒にいて、殴り合いの喧嘩も頻繁にした。
身体が成長する前なんて、男女の筋力差も少ない。
唯でさえ身長の高い彼女に、もやしっ子の僕はいつも痛みと悔しさで咽び泣くほどボコボコにされていた。
思春期で男女が仲良く過ごす事で揶揄われるようになってからは、学校で一緒に過ごす事もなくなる。
そうして一度距離を取り始めると、お互いに溝が生まれた。
「別に伶桜の事が嫌いじゃない。……でも――苦手だ」
苦手意識、いや……。
いつしか醜い嫉妬や、羨望の反動から生じる劣等感を抱くようになった。
僕がもし、伶桜だったら。
そう思わずにはいられない。
そうして人格を形成する中学生の間、鬱屈した強い劣等感を抱きつつ、イジメられながら成長した僕は――歪んだ。
自信を失い、鬱々とした日々を過ごす中で、どうしようもなく自分が嫌いになってしまった。
鏡を見る度に、ヒョロヒョロで細い身体をした自分を見て、目が死んでいくのが自覚出来た。
悔しくて一生懸命に牛乳を飲んだり筋トレだってしたけど……効果はなかったなぁ。
「……身長は伸びない、筋肉は付かない。……お医者さんに言われたのは、『骨が丈夫そうですねぇ』だもんなぁ……」
僕の努力の結果、どうやら骨は長く伸びずに、中身がギッシリと詰まる成長を遂げたらしい。
そんな成長は望んでいなかったんだけどね。
気が付けば僕は、学年で1番背が小さかった。
自然に笑えないぐらいの劣等感に苛み、日に日に陰気になっていく。
そんな僕に新たな友達が出来る訳もなく、小学校から一緒だった人たちも次々と離れて行き――ついには誰もいなくなった。
そんな現実を直視したくなくて、髪も前が見えないぐらいに伸ばした。
本を読んだりゲームばっかりしていて、気が付けば視力まで落ちメガネが必要になって……。
完全な地味キャラの出来上がり。
「僕がなりたかった、男らしくて格好良い人間とは大違いだな……」
ベッドへ横になり自分の頬を触りながら、ついつい心の声が漏れ出てしまう。
「……でも今日は、山吹さんと話せて嬉しかったなぁ」
高校生になった入学式の日。
入学式が終わっても、僕は席で1人ぼっちだった。
そんな僕に「クラスのグループへ招待するから」と声をかけてきてくれた陽気な女性。それが山吹美園さんだった。
初対面の印象は――見るからに陽気で、自分のように陰気な男に話しかけるタイプとは真逆の人生を送ってそうな可愛い子。
初めは住む世界が違う、スクールカースト上位の存在怖いなぁって感情が先行したけど……。
怖く思えた彼女に優しく接してもらえるのが嬉しくて、ドキドキしてしまった。
そのドキドキが、もしかしたら好意なんじゃないか? 一目惚れなんじゃないか? そう思うようになってから――もう半年だ。
気持ちを確かめようにも、鬱屈とした思春期ですっかり自信を失い、気弱になった僕は声をかける事が出来ないでいた。
見かける度に自分から声もかけられない、そんな勇気のない自分がもどかしい。
毎夜のように部屋で思い悩み、そもそもこれは恋なのか。
恋ってなんなんだ。
そう悩み続ける日々だ。
「あ~もう! 僕には分からないよぉ!」
枕を抱きながら、ベッドの上をゴロゴロと転がると――。
「――ヒッ! ご、ごめん伶桜!」
ドンッと、壁から強い衝撃が響いて来る。
思わずベッドの上で身を跳ねさせ驚いてしまった。
このマンションは壁が薄くて、声も響く。
ましてや晩夏で網戸にしていれば、隣の部屋に住む伶桜には良く声が聞こえるだろう。
僕も偶に伶桜の声が聞こえるけど……。
こんな気持ち悪い事を叫んでたら、壁ドンくらいされて当然だよね。
「はぁ……。母さんが帰って来るまでにお菓子を作って、筋トレもしないと……」
仕事を終え帰って来た時に美味しいお菓子が無いと、母さんは凄く不機嫌になるからなぁ。
僕にプロレス技をかけて上司へのストレスを発散するのは勘弁して欲しい。
幼い頃に離婚してから1人で育ててくれて、毎日遅くまで働きながら養ってくれてるのには感謝しているけどさ。
筋トレも腹筋スタンドにダンベルと一通り揃えて、もう4年ぐらい毎日やっているけど……。
僕はヒョロヒョロのまま。
長年努力しても、効果が得られない。
理想の格好良い肉体になれなければ、心だって腐るよ……。
「不平等だよね……。筋肉が付きやすい人が居れば、付きにくい人も居る」
本作をお読みいただきありがとうございます┏○ペコッ
この物語に少しでもご興味を持って頂けたら……どうか!
広告の下にある☆☆☆☆☆でご評価や感想を頂けると、著者が元気になります。
また、ブックマークなどもしていただけますと読んで下さる方がいるんだと創作意欲にも繋がります。
どうか、応援とご協力お願いします┏○ペコッ