17話
週末。
休日を利用して、僕は伶桜と一緒に大きな街へ買い物にやって来た。
コンテストで着る服を選ぶ為に来たは良いけど――人混みで酔った……。
なんか、身体がソワソワとする。
「こんなオシャレな街に、僕みたいに地味な男が居て良いのかな……。景観を損ねてない?」
「その自己肯定感の低さ、なんとかならないのか? 良いに決まってんだろ。しかし、メガネは、まだコンタクトが無いから兎も角……。その顔を隠すようなデカいマスクに言動、ちょっとイラつくぞ?」
「……人格を形成する思春期に歪んだ結果だよ。身長も何もかも、努力しても追い抜かれ虐げられ……皆が僕から去って1人になる。そうしたら自信も喪失するし、部屋から出たくも無くなるよ」
思い出すと心が痛くなる。
身長は何をしても伸びないし、筋肉も付かない。
幼少期から無駄に勝ち気だったから、イジりを笑って流す事も出来ない。
結果、イジメられる。……そんな日々で、本当に歪んだよなぁ。
「まぁ……小学校高学年からは背の順で並ぶと先頭だったしな。言われて見たら、中学から薫が誰かにイジられてる以外の会話は聞いた事ないわ」
「でしょ?」
「昔はいっつも人の輪の中心に居たのに……。なんでそうなった?」
「……自分が悪いんだけどさ、努力しても追い抜かれて虐げられて、陰気になったんだよ。気が付けば、この通り。1人で外に出るのも嫌になってたんだ」
「そんな薫が都会のオシャレな店に来る日が来るとは、感動ものだな」
わざとらしく目頭を押さえ、伶桜がしみじみとそう呟く。
本当に感動しているなら、もっと心を込めて言って欲しいよ。
そんなクールな声音で言われても、煽られてるとしか思えない。
「やっぱり、僕をバカにしているよね」
「そんな事はない。部屋に籠もってゲームばっかりしている薫が街に出て、生まれ変わろうとしてるんだ。俺は結構感動してる。部活が終わって部屋に帰ると、いつも隣の部屋からゲームの音が聞こえてたからな。騒音のイライラより、心配が勝ってた」
「伶桜は僕の母さんなの? まるで引きこもりニートが就活を始めたみたいに言うの止めてよ。心に刺さる」
「腐れ縁でも俺たちは16年一緒の幼馴染みだ。もしかしたら、保護者と似た感情なのかもな」
「そうだとしたら今まで家庭崩壊してたね。4年間会話も無し、互いに興味関心もない保護者と子供とか、キツいよ」
「……俺の責任みたく言うな。薫の方から遠ざかって行ったんだろ」
それはそうなんだけどさ……。
仕方ないじゃないか。
女子といると周囲が囃したてイジって来るのは勿論だけど……。
格好良くなって行く伶桜といると、自分が情けなくなくて潰れそうになるんだから。
負けてられないって筋トレをしても、身長が伸びるとされる事を全てやっても、どうにもならなかったんだ。
あのまま隣に居たら、僕は劣等感でメンタルが今よりボロボロになっていた。
今もショップに向かって歩いてる間、周囲の視線は伶桜に向いていて――次に隣を歩く僕を見て、ヒソヒソと小声で何か言われてるんだから。
聞こえなくても分かるよ。
不釣り合いって言いたいんだろってさ。
そんな事、小学校高学年頃から毎日言われ続けてるよ……伶桜に対する劣等感に苛まれて、卑屈に歪む僕の気持ちも分かって欲しいなぁ。
「そうだっけ?――あ、一件目のお店に着いた。ここだよ、僕が行きたかった格好良いセレクトショップ」
「……話題から逃げやがったな」
逃げた訳じゃない。
口にすると余計に情けなくなるから、敢えて何も言わなかっただけだ。
僕は伶桜の一歩後ろをついて歩き、店内へと入る。
「あ、これ格好良い」
そして格好良い黒テーラードジャケットを手に取り、伶桜にかざしてみる。……うん、良く似合ってて格好良い。
でも伶桜は手足が長くてスレンダーだから、アイドルがコンサートで着るような華やか系の服も似合うだろうしな……。
結論、イケメン女子はなんでも似合う。
「どれどれ……は?」
僕の持っていたジャケットを手に取り、値札を目にした伶桜が目を剥く。……まぁ、そんな反応になるよね。
「10万円越え!? おい、桁が1つ間違って無いか!?」
伶桜が慌ててジャケットをそっと戻す。
「薫……。やってくれたな」
「何が?」
「ここ、特別高い店なんだろ?」
「う~ん。確かに、ブランドのセレクトショップだから高いけど……。ジャケット一着で数万円は、他の店でも余裕で飛ぶよ?」
「……は?」
伶桜の目が見開かれ、口がポカンと広がった。
ちょっと見てて面白い顔になったな。
「ほら、メンズ服のショップ公式HPを調べてスクショしたんだけど……」
僕が差しだしたスマホをスクロールし、伶桜は悩まし気にこめかみを押さえた。
「……メンズ服って、こんなに高いのか? レディースなら、この半額以下だぞ……」
「一説によると、レディース服より需要が無いから、一着の単価が高くなるとか……」
「……俺の金、ピンチかもしれない」
だから伶桜に着て欲しい服の代金は僕が出すって言ったのに。……とは言え、僕も流石に10万とかする服を買うつもりはない。
バイトに精を出していると言っても、そこまでの余裕は無い。
「ごめん、ちょっと揶揄った。冷やかしって訳じゃないけど……ここのハイブランド服を伶桜が着たらどうなるか、試着だけでも見たくてさ」
「……なら、仕方ねぇか。着せ替え人形にしたいのは、お互い様だしな。次は高校生が着るようなレベルで頼む」
「うん、トータルコーディネートで5万円以下を目指すよ」
「それでも5万円か……」
ゲンナリとした声音で、伶桜はボソッ漏らした。
「あ、腕時計は別口だから……。それを入れたら10万円は行くかも?」
「……嘘、だろ?」
「これはマジ。ほら僕がスクショしてる腕時計コレクション見てよ。これとか、ハリウッド俳優が映画で着けてたんだけどね、時計1本で30万円はするよ?」
時計や服は値段もピンからキリまである。
カジュアルなコーディネートなら兎も角、格好良く上品なファッションをすれば余裕でそれぐらいの金額は飛ぶ。
僕の中での格好良いファッションとは、キレイめで上品か、荒々しいかの二択。
荒々しい服装は髭が生えた渋い人の方が似合うし、僕が着て欲しいのはキレイめで上品なスタイル。
本革のレザージャケット一着で数十万円が飛ぶ荒々しいファッションよりはマシだと思うんだ。
「早まったかな……」
後悔するように囁く伶桜に、若干の申し訳なさを覚える。
やっぱり、高校生でも出来るレベルのオシャレを目指そう。
それに色々と見たいだけで……実はミスターコンテストで伶桜に着て欲しい衣装は、僕の中では決まっている。
何セットか買って、伶桜に最終判断はしてもらいたいけどね。
メンズ服の金額に衝撃を受けたのか、伶桜はショップをトボトボ歩いて出て行く。
僕もそれに続いて、ゴメンと謝る。
すると「傷ついた。次から暫く俺の番な」と、伶桜はクールな瞳を僕に向けて来た。
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