16話
「オッケー。とは言っても、俺も小遣いに限界があるからな。あんまり高いのは無理だぞ?」
「え? 伶桜がお金出してくれるの?」
「俺がやってくれって頼んだんだ。当たり前だろ」
サラッと言ってるけど、伶桜は僕と違ってバイトもしてないはずだ。
お財布、キツイんじゃないかな?
「……いや、自分の着る分は自分で出すよ」
「別に良いって」
「大丈夫だよ、僕はバイトしてるからね」
「カツアゲされてるのに、平気か?」
う……。
痛いところを突いてくる。
「そんな高額を請求されてないから。……癪だけどさ、僕の理想的な格好良い男を伶桜が代わりに見せてくれるのなら、安い代価だと思うよ」
「それは、俺のセリフだよ。……ありがとうな、薫。それなら、俺は自分が男装するのに必要な金を出す」
「え? 良いの?」
「ああ、お互い様だろ。こういう金が絡むもんは、対等でなきゃダメだ」
暫し2人で見つめ合う。
僕にとってなりたい理想の男性像は、伶桜だ。
伶桜が言うには――なりたい理想の女性像は僕。
「俺は、薫みたいに可愛くなりたかった」
「僕は、伶桜みたいに格好良くなりかったよ」
幼馴染み2人で、自分の理想を相手で体現している。
それは端から見ると歪な関係なのかもしれない。
それでも……2人して億劫な日々を腐りながら過ごすより、よっぽど楽しい日々だと思える。
「……じゃあ、今日はこれで終わりね」
2人して衣装を脱ぎ、元々着ていた服へ着替えた。
こうして見ると、見知った幼馴染みなのにな……。
「あ、化粧ってどうすれば取れるの?」
「普通に洗顔フォームで落ちるぞ。またスマホに連絡入れっから」
その言葉を最後に、伶桜は帰って行った。……と言っても、壁1枚隔てた向こうに居るんだろうけどね。
それにしても、凄い時間だったなぁ。
ドキドキした。
そう思いながら、伶桜のいなくなった部屋を見渡し――。
「――あ。……ベイクドチーズケーキ、生温くなっちゃってる!? ヤバい!」
急いで冷蔵庫に入れようとした所で――母さんが帰って来た。
その夜、僕は母さんにかけられたプロレス技で関節が痛む中、ベッドで呻き続ける羽目となった。
夜中、何度も『うるせぇ』と伶桜から壁ドンされ……。
翌朝は2人して寝不足で学校へと行く羽目になった――。
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