15話
「オッケー……。ぇ、えぇ……」
そこには――僕の見知らぬ幼馴染みが居た。
いや、誰? こんな人、知らないです。――いや、顔は同じなんだけどさ。……でも、こんなに変わるの?
雑誌で見ているモデルより、更に僕が理想としていた格好良い男の理想像そのままで……思わず言葉を失ってしまった。
「どうだ? どうせイケメンなんだろ?」
「う、うん……。その物言いは腹立つけど……。凄く、その……。格好良い。僕の理想の男だよ」
「そ、そんなにか?」
そう言って、伶桜はクローゼットにある姿見鏡を覗き込む。
目を見開き、唖然としていた。
「え……。今まで出会って来た中で、1番イケメンなんだけど……」
「鏡に映る自分にそう言える自信って、凄いよね。伶桜じゃなければ叩いてるよ」
自画自賛しても許されるほどに格好良いから、仕方が無いけどさ。
「こんな男に告白されたなら、俺もオッケーするかも……。今まで出会って来た男だと、俺が1番のイケメンだったし」
「あ、だから男から告白されても断ってたんだ。女の子にも男にも興味ないと僕は思ってたよ」
「俺は異性に興味があるぞ。まぁ、その……。今日、少し自信を無くしたけどさ。……俺、女の子の方が好きなのかな? でも、中身は男で……あれ? これ、どういう事だ?」
しどろもどろになっている伶桜に、首を傾げずには居られない。
それにしても、だ。
僕は伶桜に近づき、マジマジと姿を見つめる。
「な、なんだよ。距離、ちけぇぞ?」
立っている伶桜との身長差は、ヒールもあっておよそ15センチメートル。
少し膝を曲げれば、伶桜の胸元が目の前に入る。
「良いなぁ……。――胸板が適度にあるから、白のニットが映える」
「――この膨らみは板じゃねぇよ。殴るぞ?」
「痛い痛い! 頭を握らないで! 唯でさえウィッグがチクチクするんだから!」
抵抗すると、伶桜は素直に手を離してくれた。
バスケ部の力を舐めていた……。
握力って、バスケに関係あるのかな?
頭がマッチョに握られたリンゴみたいに破裂するかと思った。
チラッと視線を横に向けた伶桜に釣られ、僕も視線を横に向ける。
そこには姿見鏡があり――女装をした僕と、男装をした伶桜を映していた。
2人とも、子供の頃からの幼馴染みなのに――全く見知らぬ人に見える。
でも……格好良くて綺麗な伶桜に、可愛いって言われた。
しかも本音で。
それは……何にも自信が持てなくなり腐っていた僕には、凄く嬉しい事だ。
女装をしなければ、決して体験出来なかった。
複雑な気分だけど、前向きになれる良い刺激だなぁ……。
「なぁ、薫。提案なんだが……今日みたいな間に合わせじゃなくてさ、本格的にやらないか? ウィッグじゃなくて、美容室でカットもしてさ」
新たな目覚めなのかと僕が戸惑っている中、伶桜が首元を掻きながら話を切り出して来た。
「び、美容室!? あのオシャレな店構えに、僕みたいなのが入るの!?」
場違いも良い所だ!
怖いし、緊張してプルプルしちゃう!
「俺も付いて行ってやるからさ。顔の半分以上が隠れてるようなボサボサの頭を整えて可愛くなろうぜ」
「……わ、分かったよ」
本当になりたいのは、格好良い男なんだけど……。
目の前の最上級イケメンを前に、そんな身の程知らずな言葉は口に出来ないなぁ。
「服もトータルコーディネートして、気合い入れてさ。コンタクト買って、可愛い仕草も練習して……。優勝、取りに行こうぜ。俺もミスターコンで優勝取りに行くからさ。……半端は嫌だろう?」
あ、そうだった。
色々とあって半分ぐらい忘れていたけど……。
僕が女装した目的は、文化祭のミスコンで優勝して、テーマパークのチケットを手に入れる事だった。
見た目を皆に認められた実績と自信をエネルギーに、山吹美園さんを誘う。
そして――この胸にわだかまる気持ちをハッキリとさせる事だったな。
もう既に、1歩を踏み出してしまった。
憧れていた格好良いイケメンヒーローのような伶桜も認めてくれるんだ。
それなら……僕は諦めたくない。
ちゃんと皆に認めてもらって、自分が大嫌いで息苦しい日々から脱却したい。
「……そうだね、やるからには全力でやりたい。それで生まれ変われるなら……僕、頑張るよ」
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