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メイクアップ! 見知らぬ幼馴染との逆転関係  作者: 長久
1章 嫌いな自分たちに、好きな自分たち
13/64

13話

「え? 今から?」 




「ああ、善は急げだろ。家から持って来るから、準備しとけよ。――薫のセンス、俺が見てやる」




 意地の悪い笑みを浮かべながら、伶桜は立ちあがり出て行った。……どうしよう。


 軽々に引き受けたし、着てくれって提案したけど……。


 これは無いって言われたら、立ち直れないよ。




 一先ず、クローゼットから一式を取り出し、眺める。……うん、多分だけど、似合うと思うんだよなぁ。


 残暑が残る時期に着てもらうのはキツい厚着だけどさ……。




 数分とかからずに、伶桜は部屋へと戻って着た。


 ショップの紙袋を手に、目をキラキラと輝かせて。


 なんなの、その子供みたいに無垢な瞳は?




「待たせたな」




「いや、むしろ相当早いでしょ」




「この服が日の目を見ると思うと、つい……な」




 紙袋から取り出したのは……3点の服と白いヒールサンダル、それに黒いロングのウィッグに、化粧品セットだった。




「まずはこの服を着てみてくれ。それからウィッグと化粧だ」 




「……待ちきれない子供なの? ワクワクし過ぎじゃない?」




「当たり前だ。ああ、ちなみに説明しておくと、この白キャミソールにライトブルーのボレロカーディガンを着るんだが、リボン結びした部分が前に来るようにな?」




「成る程? スポッって被るんじゃないんだ。結び目は後ろだと思ってた」


 


 女子の服って、複雑なんだな。


 こんなの、間違えた着方をする人もいるんじゃない?




「やりがちなミスだからな。後、俺が着るのを想定したからサイズはデカいけど……」




「……嫌味?」




 ちょいちょい、僕を傷付けずにいられない病気なの?


 そのうち声上げて泣くよ?




「ちげぇよ。オーバーサイズも流行だし、デニムワイドパンツは多少丈が長くても、ヒールが高いから誤魔化せるなって。そう思っただけだ」




「本当かなぁ?……まぁ良いや。ちょっと着てみるから、あっち向いてて」




「分かった」




 女装……。


 やると決めたとは言え、抵抗があるなぁ……。


 でも、やるしかない。


 約束しちゃったんだし……着るしかない。覚悟を決めよう!




 伶桜が背を向けたのを確認して、僕は渡された衣服に袖を通していく。




 うわぁ……。


 このキャミソールとか、胸しかかくしてないじゃん。露出多いな。


 カーディガンの生地も柔らかくて薄いし……。




 この服を伶桜が着ようとしていたのか。


 普通に似合うと思うんだけど……。


 自分で着てみたら、イメージと違ったのかな? ……というか僕、本当にレディース服一式を着ちゃってるよ。


 初めてだけど……。


 どうせ僕みたいに地味なヤツじゃあ気持ち悪くなるんだろうな。


 ウィッグしても地味な顔はどうにもならないしさぁ……。 




「……着るの、終わったよ」




 今更ながら後悔しつつあったけど、約束は約束。


 姿見鏡も見ずに声をかけた。


 自分で鏡を見て、気持ち悪くなって約束を破る事になるのが嫌だから。


 そうなる前に、思い切って声をかけた。




「おお……。意外にサイズは合ってるな。首から上は、アレだけど」




「アレで濁しても、傷つくからね? 顔がアレなのは、僕が1番分かってるよ……。メガネで頭もボサボサだし、冴えないから気味悪いって言いたいんでしょ? もう脱ごうか?」




「そう怒るな。首から上は、これからメイクとウィッグをするんだから良いんだよ」




 苦笑しながら言うと、伶桜は屈み――僕の腹筋を指でなぞった。……なんかゾクゾクって来たんだけど。え? セクハラ?




「腹筋に、綺麗な縦線が入ってるな。……機材もあるし、筋トレしてたのか?」




 あ、そう言う事か……。


 露出が多い服装だし、そこが気になったんだね。




「うん、この4年間は毎日」




「ま、毎日? 凄いな……」 




 本当に感心したような声を漏らしながら、伶桜が僕の腹筋をペタペタと触る。


 確かに、自分でお腹を見ても、縦線は良く見える。……でも横線は見えない。


 6パックなんて、夢のまた夢だ。




「……僕が望んだような、格好良い肉体美は手に入らなかったけどね。結局、無駄な努力だったよ」




 改めて虚しくなる。


 結構、頑張ったんだけどな……。


 汗だくになって、毎日毎日続けてさ……。




「無駄じゃねぇよ」




「え?」




「薫が頑張って来たから、服も喜んでる。こんなに服を魅力的に着こなせるのは、薫の努力の成果だ」




「…………」




「自分のして来た努力を、無駄なんて言ってやるな。誇れよ」




 初めてかもしれない。


 僕が理想の格好良い男を目指して努力して来たのを、こんな風に認めてくれたのは。




 思っていたのとは違ったけど……こうして褒めてもらえるなら、筋トレも女装も、やって良かったなぁ。


 そう思えるのは……伶桜のお陰かも? なんか……目頭がジンと熱くなって来たよ。




「くびれも綺麗だしな」




「男の身体に、くびれは出来ないんだわ」




「現にあるぞ?」




 ペタペタ触りながら、真剣な瞳を浮かべないで。頭をハタきたくなる。




「単純にガリガリだから、骨盤が浮いてるだけだよ。やっぱり、僕に喧嘩売ってる?」 




「誇れよ」




「誇れないよ。さっき同じ言葉で感動した僕の純情を返してくれるかな?」




 一瞬で泣きそうだった喜びが消えたよ。


 伶桜は純情をぶち壊さないと死ぬ病気なの?




「そんじゃ、メイクしてからウィッグするからさ。座れよ」




「ん……。分かった」




 僕が床に座ると、伶桜も目の前に座って化粧用品セットを広げる。


 量が多いんですけど……。


 何コレ、女の子はこんな量の道具を使い分けてるの? ヤバくない? 美術の時間に絵画をした時より多いんじゃないかな?




「えっと……。まずはっと」




 伶桜は普段、化粧なんてしてないんだろうな。スマホを弄って化粧方法を確認している。




 ネットサイトを直接見るんじゃなくて、異常な数のスクショを見ている事から、伶桜が前々から化粧をしたくても踏み出せずにいたのが伺える。




 試す相手が素材の悪い僕でゴメンねと、罪悪感を覚えちゃうんだけど……。




「よし、メガネは外してくれ」




「……分かった。よろしくね」




「おう」




 メガネを外しているから視界がぼやけて見えないけど……。


 張りのある声から、きっと今の伶桜は楽しいんだろうなと分かる。


 まぁ、マネキンだって全部が素材良い訳じゃないだろうし。


 伶桜が楽しんでくれるなら、良いかなぁ……。




 そのまま20分ほど経過して――。




「――よし、最後にウィッグを被せて……ぇ」




 ちょっと眠りかけていたけど、やっと完成したのか。


 ボサボサの頭へ乱雑に網のようなものを被せられてから、その上にウィッグを乗せられる。




 伶桜が位置を少し調整すると、動きも声も止まってしまった。……なんかこの状態で沈黙って、もの凄く気まずいんだけど?




「何? どうしたの? 言葉を失う程に気持ちが悪いなら、ウィッグ取るよ?」




「取るな!」




「ぇ……」




 溜息交じりにウィッグに手を伸ばそうとすると――間髪入れずに、大きな声で制止された。


 腕は伶桜にギュッと掴まれている。……握力、強くない? 痛いんですけど。

本作をお読みいただきありがとうございます┏○ペコッ


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また、ブックマークなどもしていただけますと読んで下さる方がいるんだと創作意欲にも繋がります。


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