12話
「良く言ったな」
伶桜が微笑みながら、俺の頭を撫でて来る。
ボサボサな僕の髪の毛に、伶桜の細く長い指が埋まった。……なんだか、妙に恥ずかしい。
「僕は子供じゃ無いんだから、頭を撫でないでよ」
「撫でやすい高さにあったからな」
「誰がチビだ。顎に頭突きするよ?」
「俺の顎と薫の頭が、丁度良い高さだからな」
揶揄うように伶桜はまた笑う。
本当に頭突きしてやろうかな?
身長差的に、座っててもマジで丁度良いし。……悲しくなって来た。
なんで僕は自分が言った事でダメージを負っているんだろう?
「……はぁ。でも僕、コスプレ衣装なんか持ってないよ?」
「それなんだけどさ……。俺に策……というか、お願いがある」
表情を引き締め、伶桜は幾分か緊張した雰囲気で背筋を伸ばす。
「伶桜が、僕にお願い?」
「ああ。……さっき、俺は可愛くなりたかったって言ったろ?」
「言ってたね。嫌みったらしく」
忘れられない。
伶桜は本気で悩んでいるのかもしれないけど……。
格好悪くて小柄な事をコンプレックスに思う僕へ喧嘩を売る発言だったから。
「実は可愛い服も買ってあって……。だから、その――俺の代わりに、着てくれないか?」
僕は唖然としてしまい、室内に静寂な時間が流れる。
一瞬、部屋の空気が凍ったのではないかと錯覚した。
伶桜は真剣な表情で、僕は戸惑うように口の片側をヒクつかせて固まっている。……というか、脳の処理が追いつかないんだけど?
伶桜の代わりに、伶桜の買った可愛い服を僕に着て欲しい?……今、そう言ったんだよね?
「……は? 女装って事?」
「そうだ。俺の理想は、可愛い子だった。……その願いを、薫の身体で叶えさせて欲しい」
「……本気?」
「ああ、頼む」
伶桜が僕に頭を下げてお願いして来るなんて……。
なんだろう、凄くゾクゾクして来た。
僕の歪んだ性癖が目を覚ましそうだ。
僕より圧倒的に勝る存在だと思っていた伶桜が、真剣に頭を下げてお願いして来ている。
このシチュエーションに興奮しないでもないけど……。
それ以上に、人から頼りにされているのが嬉しい。
「分かった。でも、1つ条件がある」
「なんだ?」
折角の機会だ。
伶桜と対等に話せる機会なんて金輪際、無いかもしれない。
等価交換と言う訳じゃないけど……。
伶桜だって僕を玩具にして、自分の欲望を叶えるんだ。
僕も自分の欲望を口にしたって、罰は当たらないよね?
「僕の理想は、伶桜みたいに格好良くなる事だったから……。似合わなくて着れない服とか、代わりに着て欲しい」
伶桜は首を傾げながら、真剣な表情で何かを考えている。
「つまり――俺は薫に。薫は俺に、自分を投影させてオシャレさせるって事か?」
数秒ぐらい考えた後、今の状況に合点がいったのか、そう確認して来た。
その表情は、嬉しそうに頬が緩んでいる。……腹が立つぐらい、爽やかイケメンだな。
「うん。……本当は自分で着たかったけど、似合わないから仕方ない」
実は僕にも、いつか身長が伸びて筋肉がついて……格好良い男になれたら着たい。
そう思ってクローゼットに眠らせていた服がある。
一度袖を通してみたけど、服に着られている感が強く……全く似合っていなかった。
泣く泣く死蔵されていたんだけど……。
供養代わりに着て理想の格好良い姿を見せてもらえるなら、これに勝る喜びもないと思うんだ。
「分かった。――そんじゃあ、早速やるか?」
本作をお読みいただきありがとうございます┏○ペコッ
この物語に少しでもご興味を持って頂けたら……どうか!
広告の下にある☆☆☆☆☆でご評価や感想を頂けると、著者が元気になります。
また、ブックマークなどもしていただけますと読んで下さる方がいるんだと創作意欲にも繋がります。
どうか、応援とご協力お願いします┏○ペコッ