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8.待ち合わせ場所は小さくて目立たない本屋

 どんなに疑ったところで、基本的には好きになった人を信じるしかない。薪さんは遊びで女に手を出すような人ではない。それは話していればわかる。


 渡された紙切れに書かれたアドレスにメールを送り、職場以外で初めて会った日、もったいぶった態度はまるでなかった。会ってやってるんだぞ、というようには見えなかった。  


 仕事が終わったあとに落ち合うことになり、薪さんより三十分早く上がった私は、指定された近くの小さな本屋で待つことになった。このあたりには他に大きくて有名な本屋がいくつもあるし、確かにこんなに小さくて目立たない本屋を利用する人はあまりいないだろう。


 本屋に着き、新刊の文庫本を立ち読みがてら手に取った。ページを捲る手がぶるぶると震える。いつも仕事をしているとき、薪さんが近くに来るだけで、全身が止めようもなくがくがく震えていた。こんなんで二人きりになって、それも自由な時間を過ごして大丈夫だろうか。ちゃんとしゃべれるだろうか。どうしても高鳴る心臓を抑えられず、どきどきを抱えているうち、となりに長身の男が立った。開いていたページに影が射しかかり、見上げると勤務中とは違って、ネクタイを外した薪さんが立っていた。思っていたよりも早い到着だった。


 大通りにある居酒屋に入るまでのあいだに、思春期の乙女のような途方もない緊張はほぼ消えてなくなった。というよりも、唐突に私の横に立ち「わかりにくかったでしょう、ここ。迷わなかった?」と頭上から薪さんの声が降ってきた瞬間、もう私は完全に魔法にかかってしまい、思い切り微笑み「全然迷いませんでした、教えていただいた道、わかりやすかったです」と答えていた。緊張は吹き飛び、私の心は喜びであふれていた。

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