7.夫婦は味方同士
レジからいくつかの棚を越えた所にいる薪さんは、新譜CDを棚に並べている。隣のフロアからこつこつと靴音を立ててファイルを抱えた三船さんがやって来た。二人はわずかに言葉を交わし、にっこりと微笑み合ってから三船さんはまたどこかへいなくなった。何も知らない人から見たら、社員同士の和やかな挨拶の一風景だろう。でも私から見たら胃からむわっとしたものが沸いてきて、鉛筆の一本や二本でも圧し折ってやろうかという衝動に駆られる。
悪寒でも走ったのか、薪さんが曲げていた腰を伸ばし、レジを振り返った。やってしまった。観察が過ぎていた。嫉妬の炎をたぎらせていた視線が、穏やかな薪さんのそれとぶつかる。恥ずかしい、それに気まずい。しかし何事もなかったかのように薪さんは腰を屈め、再度商品を並べ出した。
あとで二人になったときに、あやしまれるような視線は送らないでと言われるだろうか。嫉妬したって仕方ないと思いながら、嫉妬は止められない。
今の三船さんへの自然な態度。たゆまぬ愛情と信頼で結ばれている所以だろうか? 夫婦なんだもの。職場という天敵だらけの油断ならぬ戦場で、ほっと息を吐ける同盟と擦れ違うようなものだ。微笑むくらいするじゃないか。味方だとわかる人に遭遇すれば安心する。ただそれだけのこと。奥さんとは、旦那さんにとってはただの味方。そうであって欲しい。