5.三船さん
三船さんというのは店内で数いる女性の中でも、断トツに綺麗な人だ。綺麗なだけじゃなくて仕事もできるから、隙がなさ過ぎる。いつも能面みたいに無表情なので、実は疲れているんじゃないだろうかとか、周りとうまくやっていくために気を張っているんじゃないだろうか、完璧そうに見えてそれなりの苦労を抱えているんじゃないだろうかと余計な想像を巡らせてしまう。
それというのもある日、三船さんが休憩時間に一人、非常階段でパンを食べているところを発見したことがあるからだ。偶然その非常階段を使って出勤した私は「小野さん、小野さん」と階段の上の方から呼び止められ、何事かと顔を上げると、座り込んでパンの包みを広げている三船さんを発見して非常にびっくりしたことがあった。三船さんはあまりにも体裁が悪かったらしく、先に見つけられるくらいだったら、自ら声をかけたほうがマシだと判断したようだった。
みんなが騒がしくしている控室ではなく、そっと隠れられる場所で、秘密のお昼休憩だった。
今でもあのとき光景が脳裏に浮かぶ。私に見られて三船さんはショックだったんじゃないだろうか。非常階段はお昼にもう使えない、と思っているかもしれない。それ以降、私はエレベーターで三階まで昇るようにしている。
三船さんのことは嫌いじゃない。雑談などを一切しない人なので近寄りがたくはある。だけど教え方が抜群にうまく、何度もお世話になっていて、感謝している。能面づらではあるけど、薪さんと同様落ち着き払った者同士。能面づらが二人でいるときは剥がれるのかもしれない。がくりと肩を落とし、私はテーブルに肘から下を全部くっつけた。推察したら落ち込んできた。私なんかじゃ薪さんと人種が違い過ぎて、楽しませてあげることも癒してあげることもできない気がしてきた。