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4.富豪刑事

 テレビに映し出された太り気味の女優は、金銀財宝を身につけて、


――おじい様


 と呟いて目を潤ませている。


 前回の放送と比べて全然面白くなくてがっかりだった。キャラクターが変人ばかりで、そこが面白いのに、第三段の今回はキャラのセリフが浮いているような、みんな説得力がなくて、地に足が着いていないような感じがする。テレビに目を向けたまま、頭を薪さんの肩に乗っけた。


――犯人はあなたです


 とお嬢様刑事が言う。私のこめかみに薪さんが唇を寄せた。それから自分のほうに私の顔を向けさせ、唇にキスをしようと狙っていたみたいだけど、押し退けて私はテレビに向き直った。


 お嬢様刑事が最後、犯人に、

――たった五億円ぽっちのために


 と説教をする。


 それで周りの庶民刑事たちは毎回ずっこける。


――たった五億円ぽっちだとぉ?


 と鸚鵡返しにして。ここを見るためにつまんない成り行きを我慢してきた。


――あなたは、こんなに幸せなのに…


 とお嬢様。今日はどんな戯言で犯人をうらやましがるのだろうかとわくわくしていると、薪さんが急に私をソファに押し倒した。唇を重ねられ、いったん離し、また奪われそうになったとき、ちらとテレビを盗み見た。お嬢様はやっぱりどんな説教時も決して涙を流していない。感心していたら薪さんの手がリモコンに伸び、ぷつんと切られた。


「見てたのに!」


「つまんないってあれだけ文句言ってたのに?」


「最後のフワキョンの説教だけは見たかったの」


 足のあいだを薪さんが膝を立ててグッと押し入ってくる。耳の傍らに肘を付けてソファに減り込ませ、もう片方の手でそっと私の首筋から肩、胸の横辺りを撫でた。その気のなかった、火が点きそうなのが恐い。


「あなたはお金よりも大切なものを持っているはずです。それはあなたを信じてくれた人たちの、愛です」


 たっかい声で、薪さんはいきなりフワキョンの口真似をした。


「どうせあのあとにつづく言葉なんて、こんなんだって」


 ときどきお茶目なところがある人だとは思っていたけど。まさか声音まで変えてフワキョンになりきるとは。


「うまい」思わず手を叩いていた。


「うまいけど、フワキョンのお嬢様フェイスで、そのセリフを聞きたかったんだよね」


 前髪をかき上げられ額にキスされたが、薪さんはふいに身体を起こすと、私も引っ張って起こし、二人でちょこんとソファに座り直した。


「ごめん。楽しみにしてたドラマ邪魔して」


 肩を落とし、すっかり項垂れてしまっている。そんなことないよ、そんなにどうしても見たかったわけじゃないし、確かに面白くなかったし、と宥め、さっきのつづきを催促したかったけど、いったん白けてしまうと仕切り直しはなかなか難しい。


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