29.レジ団欒
「ジェダン・ユーゴなら知ってますよ。ほら、あのトナミのヘアコロンのCMに流れてる曲ですよね」
話に割って入ったら、ふたりとも顔をしかめ首を捻った。記憶の糸を必死にたどっているようだ。
「ああ……出てこない。どんなんだった?」と、コニーが聞いてくる。
両指にぴろぴろのセロテープをたくさんくっつけて、外科医のように手をかざしている薪さんと、にやにやしながらやけに上機嫌のコニー。遠目からレジを見た客は、きっと引いているに違いない。
「ええとですね。タンタタンタン タンタターン タタタタタンタン タタンタタン。こんなんです」
二人は再度頭を捻ると、申し訳なさそうにコニーが「ちょっと、わからない」と言った。
ここぞという鼻歌を体当たりで披露したのに、見事玉砕してしまい、恥ずかしさから顔が熱くなっていると、俯いていた薪さんが不意に顔を上げ、何か閃いたようにぱっと目を瞬かせた。
「木本次郎が出てるやつ? 髪をいじりながら」
なんだか嬉しくなって、一瞬ここがレジだということを忘れそうになった。思わず笑いながら薪さんの顔を見上げた。
「そうです、わかりますか、見たことありますよね? あれです、あれに流れてるやつです」
よかった。薪さんだけにでもわかってもらえて、下手な寸劇が報われた。
「ああ、あの曲のこと歌ってたんだ。全然わからなかった」
ようやくコニーも納得したように、頷いている。
最終的には伝わって良かったけど、なんとなく情けない気持ちにもなった。
やっぱり私はだめだめだ。




