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22.長い前髪だけが
『鎌田洋のノート』を購入していた話をしたあと、ぱったり部屋に来なくなり、職場では目が合うことさえなくなった。メールをしても返信が来ないし、携帯電話に電話をかけても、出てもらえない。
アルバイトは社員さんより三十分ほど早く仕事を上がる。帰り支度を整え、コニーと一緒にまだ事務所で仕事をしている社員さんに挨拶をしようと扉を開けると、白いCDラックを前に薪さんが立っていた。
「お疲れさまです」
コニーが事務所にいる社員さん全員に向かって挨拶をしたので、私もそれに続いて同じ言葉をなぞった。
見えないけど奥にいる社員さんたちから「お疲れさまです」と声だけが返ってきた。目の前に立つCDラック越しの薪さんからも声が届いた。いつもみたいに長い前髪がゆらっと揺れていた。




