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21.置きっ放しの文庫本

 美術館に行く前『鎌田洋のノート』という題名の文庫本を手に入れ、読破していたことは内緒にしていた。美術展ではイラストが中心だったけど、本には洋の残したたくさんの文章や詩が載っていた。上下巻に分かれ厚みのあるその本を四日で読み終わった。 

 

 洋が打ちひしがれ失速しているとき。そこから自力で這い上がり再生していくとき。冷静に物事を観測しているとき。またそれに感想を述べているとき。どれもが真新しい感覚となって胸に刺さった。


 デートから一週間後、私の部屋でだらだらとした時間を薪さんと過ごしているとき、引き出しの上に置きっ放しなっている文庫を見つけて「これ、どうしたの?」と薪さんが尋ねた。私は「美術館に行く前、本屋で見つけたから買ったの」と答えた。


 引き出しの上はごみ溜めになっていて、他にもブラシやあぶら取り紙や雑誌が無造作に投げてあった。


 薪さんは一瞬目を見開き、「買ったのなら言ってくれればよかったのに。そしたらもっと二人で楽しめたのに。ぼくが持っているのを貸してあげることもできたのに」と漏らした。私は「気に入ったから、貸してもらってもどうせ自分で買うことになったと思う」と告げた。


 片手にカップを持ち、コーヒーを飲みながら、薪さんはしばらく文庫本に目を落としていた。


 その日以降、薪さんは私にだけ顔を上げなくなった。






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