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19.「悩み」

 ガラスの向こうに貼り付けられている絵はまさに「悩み」だった。水彩絵具で描かれためちゃくちゃな絵。だけどそこには孤高の魂がこんもり積もっていた。圧倒される、訴えかけてくる。これだけ迫り、襲われるような感覚を絵に背負わすことができること。絵から得たいのは感動じゃない。瞬速な圧倒力だ。心を一瞬どこかに持っていかれて不在になるような感じ。


 他にもノートに書かれた鉛筆のスケッチ画や、詩や漫画がガラスケースに並べられていた。人物を対象に描かれているものが多く、顔だけだったり、顔のない裸の身体だったりが多かった。


 詩と絵が一体になっているのもあり、醜い男の老人が真正面を向き、真実をくれと訴えかけていたり。あるいは平和をくれと訴えていたり。それはもう頬が焼け爛れているほどの、救いようない醜さなのだ。


特に数が多いのは裸体の女。膝を付いて座っていたり、上を見ていたり、背を向けて座っている者も、足を悩ましげに開いている者も、男に抱き竦められている者もいる。皆一様に目や鼻はない。あるのはよくて顔の輪郭と髪だけ。首上がないものも少なくない。


 漫画は数があまりなかったが、そのほとんどがチャラかった。必然性の見出せないあっけに取られるようなオチの付け方。決まりきった変化のない高校生活をひた走っている洋が、ちょっとした面白いこと、くだらないことを妄想するから、こんなつかみ所のないネタができあがったんじゃないだろうか。


 ひたすら、女子の名前を書き殴っただけのページもあってぞっとする。何百回と同じ名前を綴っているのだ。

  

 展示の先へ進むと、輪郭も対象もない、ただ線書きされているだけの落書きが出てきた。面ばかりあったり、地図のようでもあったり、なんなのかわからない。


 他にも説明しようのない絵が沢山ある。慟哭が響くような雰囲気だけが漂ってくる。これらを制作した人が、平穏な心境で日常を過ごしていたとはとてもじゃないが思えない。もし前を向いて生きていたとしても、洋は絶対満たされてはいなかった。


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