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17.美術館は酔うのか

 私たちは並んで座り、ほとんどしゃべらないまま幾駅も通り過ぎていった。冷房が効きすぎるほど効いていた。H駅に着くと、乗客がこぞって降りて行き、席にも空きができ、私は固まっていた肩の力を上下に揺らしてすうっと抜いた。薪さんが思い出したように、革の手提げ鞄から一枚のパンフレットを取り出した。地図が載っているようだった。横から覗いてみると、A駅から北へ進んだところに印があり、青島美術館を示していた。


「A駅で降りて、そこからはどうやって行くの。けっこう距離あるね」


 印の青島美術館を指した。歩いて行くには遠そうだ。


「A駅に着いてからはバスに乗り換える。歩いたら夕方になりそうだからね」


 なかなか不便な場所にあるようだ。商業施設は駅周辺に集まっているようだし、美術館だけがぽつんと離れたところにある。


「美術館、すごく久しぶりだな。五年ぶりくらいかも。誘ってもらわなかったら、ずっと行くことがなかったかもしれない」


「長いこと行ってなかったね。どうして? 絵を見るのはあんまり好きじゃない?」 


「小さい頃、親に連れられて何回か美術館に行ったことがあって、子供だから背が低いのに、天井まで敷き詰められた無数の絵画を見上げているうち頭がくらくらしたことがあったかな。じっくり見過ぎると絵に酔うし、首をずっと上に向けてると痛くなってくるし。それで嫌になって、悪い印象を引きずったままになってしまってるかも」


 大人になってからは、自らエジプトの展示物やルーブル美術館展を見に行ったことがあったけど、どれも目に焼き付けてやろうという野望でもあったのか、立ち止まってじっと睨めっこしているうちに、展示物に酔うという羽目に、いつも陥っていたような気がする。


「ああ、あるある。真剣に見ようとして、美術品に飲まれて疲れてしまうとき」薪さんは下を向いて笑った。

 私だけじゃない。誰にでもあることなんだろうか。ほんのわずかな好奇心に釣られて覗き見たものの、おもしろくないし疲れると気付き、放り投げてしまうようなことが。

「見たいから見てるはずなのにね、早く見終わりたいと望んでるときあるよね」


 軽く握った右手で鼻先を押さえながら「わかる」と言って、薪さんは笑いを噛み殺していた。


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