15.デートの約束
穏やかな微笑みから興奮した笑みに移りゆく様は、仕事だけの間柄なら絶対に見ることができなかった。二人になってようやく無邪気なところ、ときどき黙ってしまうところ、疲れてふらつくところ、所在無げに座っているところ、困っているところ、私の舌を吸おうとして目を閉じるところ、あのときに苦しそうな顔をするところ、そして溜息を吐くところが見られるようになった。いまだにまだ見慣れていない表情を発見すると、ついじっくり見ていたくなってしまう。でもあんまり観察し過ぎると気持ちが悪いだろうからできる限り自粛する。
薪さんがカップをつかんで口に運ぶ。そこを断じて観察しない。私は自分のカップの中身のコーヒーがクリームと織り交りながら、くるくる回転するのを見ている。
「行かないんだったら、僕ひとりでも見に行こうと思ってるんだけど」
あまり乗り気ではなさそうに映ったんだろう。あさっての方向を向いたまま、ぼそっと薪さんは呟いた。それを見た私は、薪さんに膝を寄せて、
「私も一緒に行く」と返事をした。
美術館は久しぶりだけど、絵を見るのはどちらかといえば好きなほうだ。ゆっくり薪さんと、鎌田洋でも何でもいいから見て回られたら、マンネリというのも早いが、そういうものを片っ端から、打破していけそうではないか。




