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13.鎌田 洋

 ソファに座って、私たちは熱いコーヒーをすする。冷房さえつけていれば夏の湯気もまた美味。


「今度、鎌田洋って人のスケッチ画の展示会があるんだけど、一緒に見に行かない?」


「鎌田洋?」


「うん。十七歳のときに事故で死んじゃった人なんだけどさ、何十年も前に」 


 そう言うと薪さんは、覗き込むように顔を寄せてきた。


「死んだあとから、詩や散文や日記のようなものがたくさん発見されて、それが当時は話題になって美術館に展示されたみたいなんだけど、また一般公開されるんだ」


「へえ」


 鎌田洋なら知っていた。確か中学生くらいだった頃、テレビで放送されているのを見たことがあるが、番組半分で逃げるようにチャンネルを変えてしまった。


 逃げた理由は、死んだあと見つかったノートに描かれていた言葉や絵があまりに生きる悩みについて生々しく、同じ青春真っ只中にいた私は《なに嘆いてんだ、生きるってことは痛々しくて当然だ、泣きごと言うんじゃない》って反抗したくなったからだ。つらくて当たり前、って思ったんだ。


 それとあまりに女の人のヌードばかり描かれていたので、拒否反応も起こしたんだと思う。


「あまりくわしくは知らないけど、名前は聞いたことあるよ」


 テレビで見たことがあると話すと、薪さんは細い目を大きく見開き驚いていた。私だって、まさかいまさら鎌田洋の名前を聞くことになるとは思わなかったから、カップを握る手が強くなった。


「番組をすぐに変えたってことは、あんまり好きじゃなかった?」


「そういうわけではないけど、そのときは同じ年頃で、同じような悩みを持っていたので、どうしてこの人だけが特別注目されるのかわからなかった。そんなにいい?」


 薪さんは困ったように宙を睨み、うーんと唸った。


「同じ年代だったら、僕もそこまで良いと思わなかったのかな。中学生くらいのときは芸術的に優れているものを見ても、何が優れているのかよくわからないだろうし、興味が持てなければ良さに気付かないかもしれない。もし作品に描かれていることと自分が似た環境だったら、むしろ反発して、慰められたり感動することがないかもしれないね」


 それどころか死んでしまった芸術家に嫉妬さえした。死んだから、家族がノートを世の中に発表してくれて、陽の目を見ることができたんでしょって。人知れず悩んでいる人はいっぱいいるし、発表できない才能をくすぶらせている人だって、いっぱいいるんじゃないかな。


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