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私がトトルと共に登場したせいで、令嬢たちが少しざわついた。
それもこれも親父の退場が早すぎたせいである。もうちょっとスケベ心を抑えていてほしかった。
まあ、ないものねだりである。
「ロートリシュ様が女装をしているわ……」
「お二人はやはりそういう関係……」
女装じゃねーわ正装だわ、そういう関係でもないわ。
ちょっとドレスを着て所持金を巻き上げられただけでこれである。憤るというものよ。
私のこの気持ちを誰かわかってください。
「お嬢様と関係性を誤解されるなんて業腹ですね、単なる金庫なのに」
「雇用主な」
誰がATMだ。
そんなこんなで会場の隅で壁の華になる。
なりたかった。
本来だと爵位順に入場するけれど、今日は卒業祝いを兼ねているため、まずは在校生、そして卒業生という順番になる。
在校生側は順番は別にどうでもいいんだけど、暗黙の了解的に爵位の低い令息、令嬢からやってくるようになっている。
子供は親の二位下の順列になるので、伯爵家令嬢なら男爵扱いだ。
パートナーでない限りは大人が先に入ることもないので、同列扱いになる貴族の皆さんとほぼ同じ入場となる。
つまり、普段は高位婦人の相手を務めている私が近くにいるということで、夫人達に集られた。
「ロートリシュ卿! 今日はドレスなのね、お似合いだわ」
「どんな姿でも麗しいですわ」
「いつもの格好も良いですけど、今日の装いも新鮮でいいですね!」
謎の好感触である。
「ありがとうございます。次は皆様をエスコートできるように整えてまいりますね」
「まあっ! 楽しみですわ!」
「近日中にお茶会を開く予定ですの、よろしければぜひ……」
「次の舞踏会で……」
「夜会で……」
モッテモテだー!
君達、旦那さんが苦い顔をしているのだけど良いのかね。
私は構わないけども。
わいわいきゃっきゃとやっているうちに時間になったらしい。
いつの間にやら卒業生が出揃っていて、注目を集めるようにか、カーンとゴングが鳴らされた。
いい加減、この世界観ちゃんぽんどうにかしてほしい。
そして視線の先、一段高くなっているバルコニーみたいな場所の、王族が出てくる扉から、ぼんくら王子とイェレネ嬢が、スカーレット様とユスパで見かけたような令息が一緒に現れた。
なんだっけあいつ、商談の最後の方にいて、なんか鉱山開発だかの契約をしたような気がする。
視線が合って、ふっと目元で笑いかけられた。
誰だかわからんのだ、スマン。
「此度の卒業祝いと共に、この場にて王太子の発表を行う!」
そしていきなり本題に入った。
スカーレット様に決まっているからワクワク感はないけども、それでもドキドキしちゃう。
ここまできたぞ……!
「王太子は……」
「ちょっと待ってくれ」
口上を続けようとしたヒューレル様を遮り、アストアールが一歩前に出た。
「その前に、断罪しなければならない者がいる」
えっ。
婚約破棄イベントはもう終わったじゃん!
だというのに、無能は私の事を憎々し気に睨んでいる。
やめろ!
叩いたら埃しか出ないんだ、やめろ!
「ロートリシュ! 横領および脱税の罪で捕縛する!」
「どういうことですか!」
「財務官の地位を使って書類を改ざんしていただろう! 証拠の書類はここにある!」
そりゃあ、あるでしょうねぇ! 私も見たもん!
でもね。
「父はここにはおりませんが」
「はぁ!? 貴様のパートナーはロートリシュ伯……?!」
ご存知、父は現在、二の丸御殿にセクハラ容疑で収監されている。
本人がいないので捕まえることなどできはしない。
「お恥ずかしながら、別件で捕まっておりまして……この国の憲法によりますと、同時期に複数の立件はできないため、後発の罪状は無効化されると思いますが」
「なっ……貴様、どういう手を使ったのだ!」
どうもこうも、あいつが自発的に捕まったんだよ。
そこまで私の手の内と思われるのは遺憾の意です。ふへへ。
「そのような重要な罪状を、このようなところで仰せになるなど、場をわきまえ……こほん、周囲を鑑みられた方がよろしいかと」
「うっ、うるさい! 騎士たち、そいつを捕まえよ! 同罪だ!」
「国の財務の事など令嬢の私が知るわけないでしょう。私はデメトルに世話になっている身ですし、ロートリシュと名乗ってはいますが、実家の予算は使っていませんよ」
まあ、そこら辺は詭弁だけども。念のためにね。
ここでロートリシュから支援があったらロンダリングしたってことなんだけど、そんな事実はないので追及されても大丈夫。
ちょっとお小遣いとして持っていくくらいは支援とは言わないってことで。
「それよりも、他の財務官を調べたらどうです。書類を一人で決済する? それも自分の家のものを? 他の書類に紛れさせるとして、ワンチェックなど職務怠慢でしょうよ。それが真実なら他にも同じ処理をされている書類があってしかるべきですし、個人の犯行よりも組織的な行動と疑ったほうがよろしいかと」
そこまで調べたのかお前、と暗に語る。
私が憎いからってピンポイントであげつらったわけじゃあるまいな、と。
いや、トトルが調べてくれたから、他の書類がどうなっているか知ってる上での話だけどね。
都度の額面こそ微々たるものなんだけど、総合計金額はけっこうシャレにならなかったというか。
国としてのダメージはそこそこなさそうだけど、個人がこれだけ抜き取ってるって、本当にやってるのって思うくらいの額だった。小庶民的には足がくがくモノでしたよ。
「もういいかしら」
怒りで顔を赤くしている無能王子の後ろから、優雅に登場するアルカチュア様と、少しやつれ気味の国王。
さらに上位の王族が出てきては、アストアールも黙るしかない。
「さて、王太子だけれど。スカーレット、貴女に頼むわ」
さらっと指名してにっこり笑う王太后。
ただ黙って成り行きを見守っていたスカーレット様が、祖母に向かって静かに頭を下げた。
「この国は新しい未来に向かって進むことになります。皆の協力が必要よ。これからもよろしく頼むわね」
微笑み、会場を見渡すアルカチュア様。
その場の全員が自然と腰を折り、礼をつくす。
これぞ王族の威厳だと誰もが感じ入り、誰もが疑わなかった。
「スカーレット」
「はい。……私は、皆様が自信を持ってついてこられるよう、これからも邁進してまいりますわ。王は一人では成れず、人の意見とは千差万別であると、今回の事で学びましたの。それでも私は、皆の前に立ちますわ。それが私の役目ですもの。皆様、これからも王家を支えてくださいまし」
それと。
スカーレット様が言葉を続ける。
「こちら、ユスパ国よりお迎えする、私の新しい婚約者ですわ」
「どうも、皆さまお見知りおきを」
かるーい感じに挨拶してウインクを飛ばすユスパの人。
令嬢のほうから黄色い悲鳴が上がっている。ニコニコ顔で手を振っているけど、あんなんで良いんか本当に。
「昔のデリトス令息のようですね」
「あー……幼馴染とかそういうのいなかったら、良い相手かもねー……」
乙女ゲーム的には隠しキャラっぽい位置づけだし……。
新しい騒動の火種にさえならなかったら、別にいっか。




