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友人から「モンゴル」と返信があった。
大草原と言いたいらしい。
地平の果てまで笑うんじゃない、腹筋マシーンか私は。
「大人しく解禁待ってる」
『ところで知ってる?』
「知らないから教えて~」
『特設オンラインイベントするみたい 各プレイヤーがシナリオを公開してイイネが多かった人を運営が招待するらしい』
「詳しいじゃん」
『伊達にやり込んでないじゃん クラフト周回しすぎて基本ツールは用意されている状態で始まるから』
完全にコンサル調教済みじゃねーか。
「公式ネタバレか~。私の場合はバッドエンドRTAシナリオを公開すればいけるかな」
『草 酸素返して』
「その草で生成しろ」
『いい空気 苦しい』
しかし、オンラインイベントか。
VR集会とかVRライブMVとか、それと同じような感じで試写会みたいなのするのかな。
といったところで解禁の通知がポーンとやってきた。
やっとこさ次に進めるわ。
「解除された~平民女性してくる」
『あ、バッドエンド二回だっけ?』
「うん」
『三回到達で悪役令嬢キャラが解禁されるよ』
「え、待って、そんな条件あるの?」
『ハピエンならクリア一回達成、ノーマルは二回、バッドは三回で出てくるよ』
「つまりここでノーマルを引いたら再リーチなのか」
『やりそう フラグ立った』
「ハッピーエンド目指すから!」
『モンゴル生える』
なんてもん生やすんだお前は朝青龍でも見て落ち着け。
《季節は春。特別に入学を許可されて、貴族が集う学園へ平民の私が通えることに。今日は入学式──。》
ふわりと桜の花びらが舞い散り、つられて視線を見上げるとタイトルロゴがドーン! と表示され、空に溶けて消えた。
そういえば、全てのルートでオープニングを告げるために出てくるのだったか。いままで見なかったのは、おそらくその地点まで到達しなかったためと思われる。
これがコンサル調教の成果というやつか。通常の流れでは出番がないから早めたんだな。
さて学園の門近くからのスタートのようだ。風にはためいて邪魔くさいピンクブロンドの髪をかき上げる。
道に馬車の姿はない。馬車止めが少し離れたところにあり、生徒達はそこから歩いて学校へ向かう。
「それにしても鬱陶しい風だな」
なんかやたらめったらビュービュー吹いてんだけど。
髪とか襟とかははためいているのに、スカートだけは絶対防御なのは不思議な部分だ。
「あー、おはよー」
「ん?」
ぽん、と肩を叩かれたので振り向いた。
悪魔閣下みたいなメイクなのがいた。
「へぇっ!?」
「なに驚いてるの?」
驚ろかいでか?!
もしかして私も悪魔メイクしてんのか!!?
「ってかさ、少しくらい周りに合わせたほうが良いよ、吾輩達みたいな平民は、ただでさえ目を付けられるんだから」
空気読まないとね~と言いながら、声や制服からたぶん女子と思われる彼女がスタスタと校門に向かって歩いていく。
よく見れば、周囲の生徒もアレだ、白塗りに目蓋の辺りや鼻筋が黒く塗られていて、なんていうかこう、激しくメリハリのある顔である。男女関係ないようだ。
「どうしたの?」
「いや、どうかしてるのはそっち……なんでもない」
落ち着け、まだ少し、宇宙海賊程度のメイクの奴もいるから大丈夫だ。
ただ白く塗って模様を入れてるくらいの軽めの子もいるから耐えられる。地球儀持ってたら耐えられないけど。
「ね、ねえ、この流行っていつから……」
「え? なに言ってんの貴族社会の常識じゃん」
常識って言葉の意味知ってんのか。
「流行っていうのはああいうやつ」
言われるがまま、指さされた方に顔を向ける。
そこには、刺の生えた肩当を身に着けて長い鎖帷子を引きずるようにして歩いている姿が。
背が高いから男子か?
「鉄板に鋲を打ったようなプレートとか、腰から鎖を何本も垂らしたりとか、黒派手で自分はアブナイヤツってアッピールするのが良いらしいね。ああいうのはお金がないとできないけどさ」
そういう問題じゃあねえんだよなぁ。
どんな世界だよここ! 乙女ゲームじゃないのかよ! 微妙に平和と世紀末混じっててわけわかんなくなってるよ! こんな折衷案いらない!
「なにしてるの~? 早く行こうよ」
「あ……うん」
促され、校門の向こうへと足を向ける。
というかこの子、元からの知り合いとか友人って設定なんだろうか。
《この時の私は知らなかった。この学園で、あんな出会いがあるなんて──。》
ガショっと音がして画面が暗転した。
「えっ」
《ゲームオーバー。バッドエンド:事故死》
出会い頭に凶器でやられとるやんけ!
イマジナリーモンゴルは教科書に出てきた知識のためゲフンゴフン年前の知識です