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王太后様にエスコートの依頼を受けて本丸御殿にお邪魔したら政務会議の会場につれてかれた。

心の準備とか、あの!


それまで喧々諤々と何事かやりあっていた会場がシンとする。

みんなの正面にある一段高いところに設置された、王様の隣の席に彼女を導いて後ろに控えれば、お前は誰だという視線と咳払いが飛んできた。

私に聞かないで、よくわかってないから。


「私に気にせず続けなさい」


タイトなドレスに身を包んだ王太后様が頬杖をついてけだるげにそう指示する。

進行役らしいデリトス侯爵が気を取り直すように視線を議会に戻した。


「では、王太子の件ですが」


「もちろん、アストアール様でしょう。何より直系の男子であり、塩の交易量の増加と交易品の開発、それに伴う貧民への雇用の増加は目を瞠る成果です」


私の目の前ににゅーんとUIが表示された。

なんだ? いつも無視しているから大事なところで邪魔しに来たのか?

そこには無能王子の信頼値と他者の運命値が表示されていた。この設定忘れてた!

あれだけ性能に無駄があっても王子ってだけで誰からの信頼値も高いようだ。さらに派閥側の人間だと運命値も高いので、これを突き崩すのは至難の業であると言える。


「いえ、それよりもスカーレット様でしょう。新たな販路の開発に交渉能力、社交界への影響力もさることながら、各家の子息令嬢からの信頼度が高い。商団からの支持も高く、求心力に関しては他の追随を許しません」


今度はスカーレット様の情報だ。彼女も信頼値が高い、とはいえ、数字的にはほぼ同じ。王子派以外からの運命値も高いけれど、これだけではどうにもならない。

二倍くらいの差があったら簡単なんだけど。


「私は、スカーレットを推すわ」


と、成り行きを見守っていた王太后様が発言した。

再び静まり返る会場。王族の意向を反映させるのであれば、これ以上ない言葉である。


「わ、私はアストアールを推す!」


対抗するのは国王か。

表向きの最高権力者なので、実体がどうであれ、彼の発言は無視できない。


「ふ、私に逆らおうというの?」


「今は私が国王、母上に置かれましては、政治の場まで出てこられませんよう」


「あなたがいつまでもしっかりしないからじゃないの! 息子の教育がしっかりできていれば王太子の指名にここまで時間がかかるわけもなかったでしょ?!」


「貴女だって同じようなものでした!」


「それはあなたがいつまでも甘ったれているからよ! いいわ、決着をつけましょう」


なにやら親子喧嘩が始まったぞ、と思ったら、王太后さまが宣言した。

同時に慌てだす議会の面々。

そしていつの間にやって来たのか侍女の皆さんがクイーンの周りを囲む。


「久しぶりですなぁ」


「どれ、まだ装置は動きますかな」


ノンビリと、しかし確実に楽しみながら、重鎮らしき白髪のおじさま方が壁際の何かのボタンをいじる。

えっ、なに、何そのスイッチ!


赤色の上矢印が付いたボタンがぽちっと押される。

同時に部屋の真ん中に穴が開いて、驚く暇もなくリングがせり上がってきた。

私がインした簡易版とは比べ物にならない、立派なものである。


「なにこれ……」


「ほう! 二十五年前と遜色ありませんな!」


「いやぁ、久しぶりですなぁ!」


「まさかこの目で見られるとは……!」


だから、何の話なのよ!

いつの間にプロレスが常識になってるの、ねえ?!

どういうことかさっぱりわかんないよ!!


こちらが戸惑っている間に、クイーンは舞台に上がっている。

ロープをくぐるその姿はまさに歴戦の猛者。迷いのない足取りで中央まで進み出たと思えば、レフェリーらしき執事のお仕着姿のおじさまからマイクを受け取った。


「早く来なさい、愚息。古来から、我欲を通すときは神聖なリングファイトで勝つことと決まっているでしょう」


そうなの!?

え、それで私は勝ったことになってスカーレット様を王女にするって我欲を通せることになったの?

それでいいのか。いいんだろうな。

よくわかんないけど、頑張れクイーン!


UIがクイーンへの運命値が爆上がりしていることを示す。

国王も信頼値は高いのだけど、いつまでもしり込みしている姿に運命値がじりじり下降中だ。

もはや数値上の決着はついている。これを逆転させるには、リング上での勝利が必須。


「ぐっ、わ、私だって一国の王なのだ!」


腹をくくったらしい、王様がばさっと服を脱ぐ。

身に着けていたらしい勝負服が目に痛い。というか常にそれを着用しているの?

どういう気持ちなんだそれは……。


「今日こそ母上に勝つ! そして私の思う通りにさせてもらう!」


「来なさい青二才! その甘ったれた精神を鍛え直してあげるわ!!」


いきなり始まった王族同士の決闘。

その場の誰もが興奮してヤジを飛ばす観客と化す中、私は一人、遠い目をして天井を仰いだ。


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