38
うちのコンサルがポンコツなせいで何かの儀式がプロレスモドキに変わってしまった。
指名されたからリングインしたものの、ルールの一切は不明だ。
っつーか王太后ってことを差し引いても、還暦迎えたような女性と対戦って大丈夫なのか。本当に戦っていいのかこれ。
「遠慮はいらないわ」
戸惑う私に、クイーンが話しかけてくる。
ついでに伸ばした手をクイクイとまげて挑発までしてくる。
「やっていいのよ」
「おばあさまも楽しんでいるから、本気で挑んで大丈夫よ」
さらに事情を知っているらしい二人からの後押しまで。
これで最終的に不敬罪とかになったら笑うしかないわ。
さて、それでどうしよう。
まずもって何をすればいいかわからない。
プロレスは格闘技的なパフォーマンス行動と思えばいいらしいけど、修練を積んでいない素人にできるようなことではない。
しかも今回はミニゲームではないらしく、ぽちぽちっとする画面すらない。
「かかってらっしゃい!」
そうこうするうちに、クイーンが俄然受けの構えを取りはじめた。
ああ! こういうのって事前の打ち合わせが肝心だと思います!
魅せプレイを即興でやれる素人がいてたまるか!
「ええい、ままよ!」
私は吉田!
一言自分に暗示をかけて、クイーンの足に思いっきりタックルした。
バランスを崩してしりもちをつく相手。こちらは完全に体が伸びた状態でうつぶせになっている。
普通に関節技や浴びせ技に移行されそうだ。いやポールもロープも無いに等しいくらい低いから飛んでくることはないか。ならば寝技か。
慌てて足を外して距離を取る。呆然とした表情のクイーンが、次いで笑い出した。どうした。
「あっはっは! リエーヌ、見たかしら!」
「はい。彼女らしい思慮のある攻撃だと思いますわ」
「スカーレットは?」
「お二人に怪我がなくて何よりです」
「ふむ、そう……そうね、それがあなたの目指すものということね」
なにやら私を通してわけのわからない会話をしている。
足をすくうタックルが何でそんな評価につながるのやら。
「ふふ……お嬢さん、貴女のエスコートは評判なのだけど、私の手も取っていただけるのかしら」
「え……はい、喜んで」
何やら上機嫌な王太后様。
私は一体……何をしたんだ……。
執務室でトトルから紙切れを渡された。
「王太后がスカーレット様を養子にしました。何をしたんですか」
「わからん」
「なにはともあれ、スカーレット様の正当性が補完されます。王妹という事なので、母親の姉妹になりますが」
「家系図的には微妙だね。ま、公爵家も王族みたいなもんだけど、本家に味方ができるのはありがたい」
「同時に、アストアール様が即位したときには国外へ嫁がされる可能性が高まります」
ああ、そうか。
元婚約者というよりも王族の未婚の娘になるんだもんな。
元サヤに戻る選択肢もないってことか。
私が勝手に担ぎ上げただけみたいなもんだけど、スカーレット様も覚悟を決めていたのね。
「ところでトトル、知っていたら教えてほしいんだけど」
「知っているかは金額に依ります」
王族とプロレスする意味について聞きたかったんだけど……。
ニコニコ顔で手を差し出されたら払う気が失せた。
結局は良いようになったし、知らなくても問題ない。
「知らないってことで了解しておく」
「いつの間にそんなにケチになったんですか」
守銭奴にいわれたくねぇよぉー!




