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結局のところ、現状のまま進んでいくと、スカーレット様が王位継承するのは難しいということになる。

陣営が二つに分かれたという禍根だけが残ってアストアールが即位する、という線が濃厚だ。

つまり、テコ入れが必要だ。

オペラ鑑賞をぶっちぎったペナルティとして補習を受けながら思う。

ともかく時間がない。しかしここまで来たらやり遂げたい。

中途半端なままで終わらせてなるものか。




ということで、お茶会である。

夫人達に向けた広報活動としては最大級の規模で、公爵家を会場として使ってのパフォーマンスである。

スカーレット様のエスコートは父親である公爵。元婚約者とは縁が切れている事と、公爵家が全力で後援していると示すものでもある。

というかこの国、農業大国だからか王政にもかかわらず各地領主の方が財産を持っていたりする。

そう、エスペリオス家が国費を支えていると言っても過言じゃない。

資料室から拝借してきた書類を見るとすぐわかるんだけど、無能王子氏は何を考えているんだろうね。


それはさておき、私も今回のお茶会には招待されている。

当然のように男装だ。

今回の会はだいたい二部に分かれていて、室内は高位貴族、室外はそれ以外と令嬢、といった感じだ。

分け方もおおざっぱで、どちらに行き来しても良いんだけど、なんとなくみんな空気を読んで、それぞれの身分に見合った場所で歓談を楽しんでいる。

まー、私は気にしないけどね!

だってミッドラン夫人とか室内なんだもん。そのほかにも懇意にしている夫人達やスカーレット様も室内だ。


だから、メイン会場となっているサロンの方へと足を向けたわけだが。

ガーデン部分の出入り口がざわついたと思えば、目的の人物たちが現れた。

ベージュの生地に赤の布を合わせて薔薇とレースがふんだんにあしらわれた昼にしては派手なドレス姿のスカーレット様。

オレンジを基調とした暖色に控えめな花の立体刺繍をあしらい揃いの髪飾りで着飾ったミッドラン夫人。

その二人を両側に従えて、ベージュの灰色寄り生地に黒の差し色とくすんだ赤色の花弁を散らしたような、抑えめの色でシンプルなデザインでレースとメッシュのゴシック調っぽくありながら高級感を損なわないドレスを着こなす、房と毛皮のついた扇子で口元を押さえた婦人。

高位貴族の令嬢を従え、かつ社交界の華であったミッドラン夫人をそばに置く人物。

私の知る限りでは一人しかいない。

他の人達も同じ考えなのか、全員がその場で慌てて礼を取り始めた。お茶会なのでかたぐるし過ぎないけれど、略式過ぎない形で。


「楽にして」


顔を上げるが、誰も彼女たちに近付けない。

何の目的でここへ来たのか、誰もが様子をうかがっていた。


「ああ、あちらにいますわ」


「おばあさま、あの方です。私たちはロートリシュ卿と呼んでいるんですよ」


「あら、あの子が」


私を探してたー!

向こうから来ちゃったよ!

ってか、やっぱりアルカチュア様か! 王太后様来ちゃったよ!

呼ばれたので彼女たちの前へ進み出る。ここまで来るとマナーとか礼節とかもうわからないので、適当だ。


「ご紹介に預かりました、ロートリシュです」


「二人があなたの事をしきりに褒めるのだけれど、確かに男前ね」


「ええ、私の孫息子にも見習ってほしいくらい紳士的で素敵なんですよ」


「一度彼女のエスコートを受けたら、他の男性では物足りなく思えますの」


「それはすごいわねぇ」


なんてことを言うんだこの人たちは。

私を持ち上げても何も出ないぞ。本当に!


「お、恐れ多いことでございます……」


「ねえ、ロートリシュ卿」


ヒィッ!?

手元の扇子で顎クイされた。


「男らしいのは恰好だけなのかしら」


「ど、どういったことでしょう……」


「スカーレット、あれは用意しているのかしら」


「はい、お父様から聞いております」


え、なに?

何が始まるのだろうかと緊張に身を固くしていたら、合図を受けた公爵家の使用人たちがササッと会場を整えていく。

並んだ机と椅子はさくっと片付けられ、広がった真ん中に円形のマットレス。

その周辺にポールが立てられてロープが渡される。

そこから一人分の距離を置いて使用人たちがガードマンよろしく立ちふさがり、場所を確保。

見る間に整えられた舞台、満足そうにそれを見たアルカチュア様が、身に纏ったドレスを少しずつ剥ぎながら近づいていく。


全くもって混乱しかないが、この状況に覚えがある。

テコ入れのためにいろんな情報を見に行ったんだ。何かが引っかからないかなって。

何でよりによってプロレスと相撲の要素がチャンポンされて出てくるかな!?

素人がやったら怪我するんですけどォ!!


「来なさい、ロートリシュ卿!」


いつの間にかマイクを持ったアルカチュア様が舞台上から私を指名する。


「この私があなたの実力を見てあげるわ!」


「ああ、久しぶりに見ましたわ、パワークイーンの姿……!」


「いつ振りかしら……! あの頃から全く変わらない美しき力強さ……!」


「天性のヒール、魔性の美貌、伝説に聞いたクイーンの勇姿が目の前に……!」


婦人たちが狂喜乱舞してる。

大阪の時もそうだったけど、こっちが知らない間に常識として馴染んでるのやめてくれない!?

なんでお茶会で体を張ったバトルマッチが発生するんだよ!

衣装もバッチリ用意されてるしよ!


「わかった、わかりました! やりますよ!!」


会場中の期待の目が降り注ぐこの状況で、断れるか?

ええい、支持率のためだ! 全く知らないけど、受けて立つ!


不敵に笑う王太后様。

釈然としない気持ちしかないけれど、こちらも同じような笑みを浮かべておいた。

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