表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/45

34

アーバンに連れられて施設のどっか奥の方に誘導された。

逃げられないように周囲を固められている。

かがり火に照らされた廊下の先は暗がりになっていて見通しが悪い。

いよいよもって武力行使が必要かと心を固めた時、目的地に着いたらしい。

その部屋は中心に光源があり、その周りに円卓がしつらえられているようで、仄かな明かりの中で椅子の背が浮かんで見えている。

対面に座る老人の顔もうすぼんやりと見えており、私たち以外にもそれなりの人数が揃っているようだった。


「遅くなりましたな」


「ふん、ランスバッハか」


「あのような大言を吐いて、よくおめおめと姿を現せたものだ」


「なに、真実を語ったまで。諸侯こそ己の厚顔無恥を恥じ入ったらどうです」


「相変わらずの大口だな」


「いやいや、ご健勝そうで何より」


「しかし、そこまで言うほどのものであるかどうか」


「ふん、ではこれを見るがいい」


なにやらかってにおっぱじめたと思ったら、アーバンの台詞で周囲の人たちがササッとはけていった。

同じように避けて「だ、誰もない」みたいなことをしようかと思ったけど、それはそれで面倒くさいのでその場に仁王立ちして様子をうかがうことにする。

私は何もやましいことをしていないのに、卑屈になる理由などない。


ぱっと広がる光。

思わず眩しさに目を細める。

周囲から、おおっ、というどよめきがわきたった。


「これは……いやしかし」


「ふむ、確かに美しい」


「なんとも奇妙に心が動かされる……」


これは……?


「ふふ、わかるだろう皆の者。彼女こそまさに我らがラストア様の化身に違いない!」


おっと!?

よくわからないが、宗教的ななにかに巻き込まれているらしい。

いやまあ確かに、外見だけは良いよ、ゲームの主役になるくらいなんだもん。

スカーレット様のような派手美人でも、クローディアちゃんのような清楚美人でも、エリーン嬢みたいな健康美人でも、リリアナちゃんみたいな天真爛漫美人でもないけども。


「いやしかし、普通の女性が少しばかり男の格好をしたからってなぁ……?」


「我らが見出した美姫こそ、化身に相応しい」


うむ、なんとなくだが掴めたぞ。

お偉いさんたちが自分好みの乙女を捕まえて女神の化身だって主張を繰り返しているんだな。

全員の意見が一致したらラストア様だってなるってこと? それ無理があるのでは?

十人いれば性癖なんて千差万別、万人が認める美人であろうと、自分の中にある女神という虚像にあてはめたら何かが違うって首傾げるはずだから。

全員の性癖を満足させる美人ってなんなんだよ。


ふっと鼻で息を吐く。

何人かがピクリと肩を震わせた。


「いつも、このようなくだらないことをしているのか?」


「なんだと……?」


「私は女神の化身ではない」


「はっ、やはりな」


「当り前だ、貴様のような者が女神のわけがない」


「ランスバッハ殿、貴殿の目は腐りきっているようだ」


なんかの派閥でもあるのかね。

その場の何人かがアーバンをこき下ろしている。


「私は女神の御使いだ」


その宣言に、罵倒がピタッと止まる。

そして一斉に集まる視線。部屋の中が暗くて何人いるかもわかんないけど、注目されていることは感じる。

仁王立ちのまま少し胸を逸らした。偉そうなポーズ!


「図が高いぞ!」


「し、失礼しました!」


「御使い様っ!」


信じた何人かが椅子から転げ降りて首を垂れる。

が、半数以上は信じていないようで微動だにしない。


「御使いとは、また」


「どのような証拠があってそんなことを言うのでしょう」


「ご自身の言葉を証明していただかなければ」


とてもじゃないが信じられない、と言いながらも敬語なのよね。

やれやれとばかりに首を振る。


「立場をわかっていないようだ。お前らは信心を捧げるべきだろう。だのにこの私に証拠だの証明だの……我が主を疑うと申すのか」


「いえ、決してそのようなことは……」


「ただ、あまりにも急なことですし」


「何用があって、御使い様がいらしたのかもわかりませんので」


「ふん」


ふっと照明が消える。

タリーちゃんの高速移動による消火である。

この暗がりに、意識が私に向いている面々は彼女の動きを捕らえられなかったらしく、いきなりの暗闇にプチパニックを起こしていた。


「な、なんだっ!?」


「あかり、明かりをっ!」


バタバタと騒がしくなる。


その隙に、タリーちゃんに連れられてその場を脱出。

いやー、日の光っていうのは良いね!


「着替えよっか」


タリーちゃんに話しかければ、彼女はにっこり笑った。


「わかったのです! 今度は可憐で可憐な感じにしますねっ!」


服装変えるだけで良いんだけど。


その日、レイオラルでは女神の御使いが降臨したという噂が流れ、その成果かはわからないけれど、国を訪れた全員への態度が柔らかくなったという。

事前交渉があったにもかかわらずかなり渋った様子だった外交担当も、急に態度が軟化したとのことだった。

ついでに私も宿泊施設の買取ができた。

いやー何が上手く行くかわからないもんだね。アニアの名前を出したらするーって話がうまく通るんだもん。

ガーベラ商団関連の事業はここでは失敗する見込みがないな。いい仕事をしたもんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ