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シャバの空気が美味いぜ!
宰相さんを黒幕に仕立て上げようとして失敗したけど、結局は誰が先導していたかわからないってことで釈放となった。
私はヒューレル様と思っていたんじゃ—、違うって言ってんだろうが―、でもそうだと思っていたんだー、誰か他の人が成りすましていたのではー、マジでか騙されたー。という経緯の果てである。
いやー乙女ゲームらしく乙女に優しい世界で良かったわ。捕縛されたけど。
「おかえりなさいませ!」
迎えに来たトトルと一緒にタウンハウスまで戻れば、笑顔の眩しい合法ロリメイドに出迎えられた。
拘置所にいた時も連絡は取りあっていたし、なんならこの子は私のところまでやってきていたので、心配してました―的な話は一切ない。
でもちょっとそういう演技をしてほしかった。涙ながらに逮捕中のある事ない事喋りたくりたかったよ。
さておき、今回の帰省では共連れが増えている。
ぱっと見では分からないけれど、容疑はまだ晴れていないってことで監視役が潜んでいるんだな。
使用人は地元の人間で固めているから、働きに来ることはできない。となれば潜入捜査も難しいはずなので、室内にいれば問題はないと思う。
うちの子達も暗部で働けるレベルの隠密術を身に着けているからね。抜かりはないはずだ。
私にはわからないからみんなに頑張ってもらおう!
ということでいつもの執務室。
机に置かれた書類を見やれば、大き目の学園行事が三つほど終わっている旨が記載されていた。
音楽祭と詩作発表会と武術大会である。
メインイベントが捕まっている間に終了していた。
別に好感度はどうでもいいんだけど……二学期のほとんどを拘置所で過ごして終わったぞ。
後は期末テストをしてダンスパーティして二回目の長期休暇だよ。早すぎる。
「それで、交易の方はどうなってんの」
「ああ、殿下の方は順調のようですよ。交易品の選定が見事で、畑仕事ができない層に向けて発注することでリソースを確保した手腕も見事でした」
「で、何を交易品にしたの」
「木工細工や組み立て式家具の部品です」
「おいおいガーベラ商団の二番煎じじゃないか」
「それだけ需要があるという事です。我々ではできない規模で発注できるのは貴族の強みですね」
私も貴族なんだが。一応は伯爵家だぞ。資金を自分で捻出しなきゃいけなかったから、事業拡大が上手くいっていないだけで。
まあ、別に特許取ったわけでもないし、真似くらいはどこかが必ずしてくると踏んでいたから良いんだけどさ……。
「なんか腹立つ」
「そうおっしゃると思って、仕込んでおきました」
「ん?」
おや、珍しく執事がにんまりと笑っている。
常に穏やかなフリして腹黒い事考えているのに、顔に出すなんて相当だな。
どんな楽しいことを仕込んだのだろう。
「何したの?」
「国境付近には魔獣が生息しているでしょう?」
「呼び込みでもしたの?」
「違いますよ。彼らが道を間違えるだけです」
新しい道でも作ったのか?
案内の看板をすり替えたとか。
いや、一般人もいるし、それはないか。
「具体的に聞いていい?」
「真似されたらいやなので教えません」
えー。
真似するとして、誰にするんだよそれ。
「ま、金貨をいただけるなら教えるのもやぶさかではありませんが」
「任せるよ」
「ケチですね」
「それで取引が減少するとして。スカーレット様の方はどうなってるの」
重要なのはこっちだ。
王子側の方は、いくら稼ごうと思ってもある程度の所で頭打ちになるから放っておいていい。
「苦戦していますね。まずもって、自由に使える時間がありません」
「なんでよ」
「王家と公爵家が彼女の動きを制限しています。身動きが取れなければ、交渉も何もないので」
「なるほどなぁ」
スカーレット様の側にいるのは、基本的に令嬢ばかりだ。
女性の味方が多いけれど、男性方は少ない。そして、外交といえばまだまだ男の仕事と思われている社会である。
彼女自身が動けないからと代理人を任命しようにも、適当な人材がいないってことか。
「これは私の出番だね」
「出席日数が足りませんので、休んだら退学になりますよ」
「長期休暇にレイオラルまで行くから準備しておいて」
それと、あとは、うーん。
いけるかわからないけど、やっておくか。
「イェレネちゃんはどんな感じ?」
尋ねたら、トトルが渋い顔をした。どうした。
「あの令嬢……なんといいますか、趣味がちょっと」
「知ってる。で?」
「殿下と仲睦まじくしてらっしゃいますよ。明確に味方なわけですから、殿下もイェレネ嬢にはだいぶ心を許しているようでして」
「重畳。イェレネちゃんに伝言をお願い」
さーて、そしたらテスト対策を始めようかな。
今回は補習とかいってらんないから。




