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補習忘れてたー!
友人からラインが来ていた。
リドケイン様は正攻法では無理なので、筋肉愛好会を設立して合法的にお触りの権利を確保する方向で動くとのこと。なにしてんの。
確かにあのムチムチ雄っぱいは触りたくなる見た目であったが、イエス大胸筋ノータッチなのである。涎を垂らして近付いたら単なる不審者だろうが。
そして画面にぽこんと湧くスタンプ。
首下からひざ丈までのマッチョがサイドチェストしてる。
「何の訴えですか」
『ここまで筋肉美に煽られるとは思わなかった』
どうやら沼に片足突っ込んだようだ。
このまま沈めるか引っ張り上げるか悩む。
『ってことでシナリオ公開できるようになったからアップロードしたよ~暇があったら見てみて』
「おー、わかった。クラフトしてる?」
『初めて飛行船を作れたやつ』
何度か失敗してるってことか。
繰り返すことで目指すところに行きつけたんだな。その労力と情熱は別のところで発揮したほうが良いんじゃないだろうか。
「さっすがクラフト嬢。私もバッドエンドRTAでもアップロードすっかな」
『ハピエン限定ー残念無念』
マジかよつれーな。
「それいつ参加できるかわかんないわ私」
『草 頑張れー』
ということは、スカーレット様エンドも見れるってことか?
良かった、彼女の後援に誰をつけたらいいかと思っていたんだ。
ご実家が後ろ盾になるとしたら国が二つに分かれちゃうからね。コークサス侯爵とうまい具合に対立できるだけの、上過ぎず下過ぎない家が良い。
「ねえ、スカーレット様を擁立するとして、どこに応援してもらったらいいと思う?」
『何の話 っつか何してるの?』
「俺様が嫌いだから廃嫡を目指してる」
『おいおいおいおい お前だけまた別のゲームしてるよ』
いいじゃないか、楽しみ方なんて人それぞれなんだから。
恋愛ごっこを楽しみたいならそうすればいいし! 攻略対象をぶっ潰したいならそうすればいい!
「そっちだって本編無視してクラフト道だけ極めてるじゃん」
『お互い様だった! まあ、普通に考えてデリトスで良いんじゃないの』
「あ、そっか」
あそこも侯爵家だわ。
しかも次代の当主とそれなりに仲良しだったわ。
貸しもあるしちょうどいいじゃん。
「ありがと、その線でいってみる」
『おう こまめなセーブを忘れるなよ』
「それ多分必要ないから大丈夫。ありがと!」
さすがやり込んでるだけあるよね、アドバイスによどみがない。
そうだ!
「ログインすると補習魔人に捕まるのはどうしたらいい?」
『クラフトしてればおk』
よどみがないからといって役に立つとは限らない。
ログインしてメニウェルちゃんにデレデレしてUIを放り投げて。
執務室でトトルに進捗確認をして商団を隣国に向かわせたら、学園へ足を向ける。
というか、フリーシナリオであっても強制選択に近いものが存在するらしい。うざったらしいUIが蚊か蠅の集団かってくらいに周りをブンブン飛び回るんだ。どういう獲物だ私は。
もちろん無視することもできる。たぶん友人もこれを無視していると思われる。
でも学園に向かうだけで消えるんだもん。行くしかないじゃんか。
「来ましたね」
「うぇっ……」
「なんですかその挨拶は。おはようございます、でしょう」
「お、はようございます、先生……」
「よろしい。本日は歴史の補講ですよ。苦手のようですから、一日中みっちりとやりましょうね」
あひぃ……。
覚える気がないのでとんだ苦行である。スキップ機能はあるけれど、たまにランダムで問題が出るらしく、答えないと課題が積み上がっていくシステムになっており、結局宿題が増えていく。
この増加により攻略対象の好感度が下がっていく……のは別に構わないが、行動制限がかかるのがいただけない。
仕方ないので真面目に取り組んでいる。たまに王城にお使いに行くこともあるし。
そうやって残りの休暇は過ぎていった。
戻ってきても指示出しだけで動けないんだから、もうちょっと向こうでバカンス楽しんでりゃ良かった……。




