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会場で、スカーレット様は令嬢たちに囲まれて、私はマダムたちに囲まれた。

ミッドラン夫人に色々なところへと連れまわされているので顔が売れたというのもあるが、よくパートナーを務めているので、自分も同じようにエスコートされたいと思う夫人が多いようだ。

こういう事なんだねテルジオ君……。君が夫人に人気だったという理由がなんとなくわかった。


適当に言い訳をしてその場を離れ、スカーレット様の近くへ移動する。

半分が男装しているせいで、なんつーかこう、男女かかわらずモッテモテにしか見えんがな。


「スカーレット様」


「ロートリシュ卿」


人ごみをかき分けて彼女の隣まで進めば、少しほっとした顔をされた。

さすがにこれだけ人が集まると慄いてしまうものらしい。


「ほら、皆さんも自分のパートナーの所へ戻ったらどうですか」


「ひどいですわ、こうしてスカーレット様にお会いするのは久しぶりですのに」


「そうです、もう少しスカーレット様とお話ししたいです」


「自分だけスカーレット様を独占するなんてひどすぎます」


「そうは申されましても、本日のパートナーは私なので」


「次は私と参りましょう」


「いえ私と」


「私ともお願いします」


「え、ええ、わかりましたわ、みなさま。次の機会に」


「約束ですよ!」


「お願いしますね!」


口々に約束を取り付けて去っていく令嬢たち。

何人かと目が合って、やってやったぜって合図を送られる。

スカーレット様を社交に引っ張り出すための作戦である。親衛隊総出で遂行した。効果は抜群ぜよ!


「お疲れ様です、スカーレット様」


「これ全部、あなたが仕組んだの?」


「どうでしょうね。でも、みんな貴女に元気になってもらいたいんです。もちろん私も」


「そう……そうね。心配をかけてしまったわ」


少ししゅんとするスカーレット様。

椅子を引き寄せ、近くに座る。

そして目の前に、摘まんだクッキーを差し出した。


「なんですの」


「そのような表情は似合いませんよ。クッキーはお嫌いで?」


「こ、このようなもので、笑ったりしませんわっ」


テーブルに頬杖とかお行儀悪いけど、その上に頭を持たせかけるようにして小首を傾げて微笑みつつ。

心のテルジオ君が火を噴くぜ!


「あら、楽しんでらっしゃる?」


そこにやってくるミッドラン夫人。

隣には旦那さんも引き連れている。


「あっ、こ、これは別に……!」


「見つかっちゃいましたね」


「うふふ、お邪魔だったかしら」


「いえそんなっ、そういうわけじゃ……」


ものすごい慌てて照れているスカーレット様も可愛いけれど、あまりからかっても嫌われちゃうかな。


「意地悪もそこまでにしてください。こちらは楽しんでいますよ」


「それは良かったわ。スカーレットさん、私の若いお友達が、貴女の事を心配していたのよ」


「それは……」


「お若いうちは、そういうこともあるわ。でももう少し、周りに目を向けても良いんじゃないかしら。貴女の事を大切に思う方に、ちょっと失礼よ」


「あ……はい、ご忠告、ありがとうございます」


パチッと夫人にウインクされた。

フォローしてくれたってことなんだろうか。

旦那さんがごほんとわざとらしく咳払いをする。


「ああ、ごめんなさいね、他の方にも挨拶してこなくちゃ」


「お、お引止めして……」


「いいのよ。悩みがあったらいつでもいらして」


「……あ、りが、とう、ございます……」


柔らかな笑みを残して去っていくマダム。

スカーレット様はその後ろ姿に頭を下げて、持ち上げた時には顔に不敵な笑みが戻ってきていた。

やっぱそういう自信満々な方が似合う。


「あなたもありがとう、ロートリシュ卿」


「いいえ、私は何も」


「次は私が招待するわ。来ていただける?」


「喜んで」


スカーレット様、復活だーい!

よっしゃテコ入れするぞー!





そして迎えたスカーレット様主催のお茶会。

今回の招待客は令嬢たちだけで、パートナーもなしだから全員がドレス姿だ。

スカーレット様は親衛隊に囲まれていて談笑しているし、私は少し遠巻きになる位置で男装した際の心構えを令嬢たちに説いていた。


だから気付くのが遅れた。いつの間にか親衛隊がとある令嬢を中心とした一行を睨みつけるようにしており、会場が二つの集団に分かれている。

相手はイェレネ・コークサス侯爵令嬢だ。彼女は何やら意地悪そうな笑みを浮かべていた。


「あら、ですから、婚約者を放って一人楽しく遊んでいらっしゃるような方が、王族の一員になるだなんて、国の将来が心配だと、それだけの話ですわ」


うん。

ゲーム内でもそれなりに貴族用語は行きかうものなのだが、イェレネちゃんはドストレートが好みらしい。

席を立って反論しようとした近くの人を押しとどめる。

これは周りが勝手に手を出していい案件じゃない。


「殿下も王都で頑張ってらっしゃるのだから、側で支えるのが婚約者の勤めではなくて?」


「まあ、コークサス令嬢は国政に興味がおありなのですね。でしたらこちらにいらっしゃらず、図書館にでも足を運べばよろしいのに」


「っ、そんなの私の勝手ですわ!」


彼女が図書館で暴れて出禁になったって噂話くらいは私でも知っている。


「ふん、興ざめですわ。帰りましょう、皆さま」


言うが早いか、取り巻きを連れてぞろぞろと会場を後にするイェレネちゃん。

それを送るでもなく、ぱちんと一回手叩いて、スカーレット様はにっこりと笑った。


「本日のために、我が公爵家自慢のパティシエに特別に作らせたお菓子があるんですの。皆様、ご賞味いただけますか?」


その一言で会場の空気が変わる。

まあ、主催と客とが揃って気を遣った結果なわけだけど。

やっぱり、人の上に立つ才能があるんじゃないかなーと。


新たな品目にわく令嬢たちを尻目に、紅茶をいただく。

そろそろ本人に自覚して貰わないとなーなどと思いながら。

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