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夫人達のお茶会で、エスコートに若い女性を随伴するということが流行した。

発端はリエーヌ・ミッドラン元伯爵夫人。若かりし頃は社交界を席巻していたご婦人であるが、その影響力は未だに健在。皇后陛下ともご友人で、おおらかで可愛らしいからか、お年を召したご婦人はもとより、学生くらいの令嬢からも憧れの存在となっている。

それに好奇心旺盛で新しいものが好き。

そう、偶然知り合ったマダムがミッドラン夫人だった。


「うふふ、成功したわね」


とあるお茶会の帰り、馬車の中でいたずらが成功した子供みたいに笑顔を浮かべるマダム。

招待が多すぎて、毎回夫にエスコートを頼めないために数を絞るしかなかったため、代理出場は喜ばれた。

それに、ミッドラン元伯爵としても、お出かけ大好きマダムに押されて、慣習ではないが男ではないことに首を縦に振るしかなく。

こっちも気合いを入れて男装までしたものだから、最初こそ唖然とされたけど、受け入れられてから先は早かったよね。


「皆様に楽しんでいただけて何よりです」


「またお願いできるかしら」


「こちらこそ、お呼びいただけるなんて光栄です」


にっこりと笑って。

テルジオ君と同じ動作を心がけていれば、自然とフェミニストになる。


「男の人を連れてくると、無粋な話になるでしょう? かといって遠ざけるのも、場合によっては困ることになるもの」


「そういう事もあるでしょうね」


「それにしても似合うわねぇ。私がもうちょっと若かったら、毎日のように連れまわしたところだわ」


「おや、今でも十分にお若いですよ。だからといって毎日はちょっと困りますけど」


「正直よね。貴女のそういうところ、嫌いではないけれど」


本当は毎日侍ります―とか言ってしっぽ振る方が良いかもしれないけど、面倒だし。

気に入られている自覚はあるから、少しくらい生意気言っても大丈夫だよなって目算はある。


「それに、あまり旦那さんを放っておいて拗ねられても困りますし」


「あら、それはそうね。あなたの装いを見て驚いていたし、うふふ、次は誘ってあげないとね」


楽しそうに笑っているミッドラン夫人。

さてそろそろ、本題に入らなければ。


「ところで、夫人はスカーレット様をご存知でしょうか」


「ええ、知っているわ。アルカチュア様のお孫さんよね。こちらに来ているとは聞いているけれど……」


「お茶会に彼女を招待していただけませんか」


こちらの申し出に目を丸くするマダム。

基本的に休暇に来ているので、まず親しい人と交流し、そこで友人の紹介という形で輪を広げ、気に入れば直接招待する、というのが本来の流れである。

主催者において仲介役のいない招待というものは存在せず、こちらに来てから引きこもっているスカーレット様は社交の輪を広げていない。

現に私も会うことはおろか手紙を送っても返信がなく、こうして迂遠な方法をとるしかなかった。


「どうして? 彼女が、その、あまり積極的でないことは聞き及んでいるけれど……」


「本来はそのような方ではないのです。少し、王都にいる婚約者の事を気にしているようで」


「ああ、アストアール様。あまり良い話は聞かないのだけれど」


「そのせいで休暇中は再教育なんですけどね。それを差し置いて一人で避暑に来ていることを気に病んでいるとか」


「まあ……お優しいのね」


自業自得なのだから、放っておけばいいのにね。


「ですので、強引にでも引きずり出したほうが良いかと。ここで気にしていても、何ができるわけでもありませんし」


「そうねぇ……男なんて放っておけばいいけれど、若いお嬢さんじゃあ、そうも思えないでしょうね」


それ、旦那さんには言ってないですよね。

しごく真面目な顔で聞いているけれど、結構な爆弾落とすよなこのマダム。


「わかったわ。あなたは貴重なお友達だものね、いつも頼み事ばかりしているのだし、そのくらいは任せて頂戴」


「恩に着ます」


「良いのよ。だからまた、エスコートをお願いね」


お茶目にウインクしてくるマダム。

その手を取って額を近付けた。


「仰せのままに」


「うふふ、なんだかドキドキしちゃうわね」


頬に手を当てて、照れを隠すような仕草をするミッドラン夫人。

顔を上げて微笑んで、恐縮ですと礼をする。

私の事はマダムキラーと呼んでください。





さて、招待状は通常、その家で雇っている専属の者、もしくは配達業者が届けるものであるが、今回は私がその役目をもぎ取ってきた。

ミッドラン家から出たスカーレット様宛の招待状である。

そしてまた、受け取る側は門番が取り次いで使用人に渡すのが通例であるのだが、押し入った。ゴリゴリに押し入った。

不法侵入で衛兵を呼ばれたら一瞬で捕まって牢獄行き案件であるが、スカーレット様の名前を大声で呼んでの奇行である。

慌てたスカーレット様が飛んできて、そのまま近くの応接室に押し込まれた。


「な、なにをしていますの!?」


「こうでもしなければスカーレット様にお会いできないと思いまして」


「なん……あなた、どこの令息……?」


「私ですよ、スカーレット様。強引な手段に出たことは謝ります」


男装していたので、一瞬誰だかわからなかったらしい。


「……本当に、騎士になろうとしているの?」


「そうではありませんが、ご存知ですかスカーレット様。この夏の流行は、令嬢にエスコートされてパーティに参加することなんです」


言いながら、懐に忍ばせた招待状を手渡す。


「ぜひ、エスコートさせてください」


「……まさか、こんなことのために……」


「ちょっと冒険しちゃいましたね。受けていただかないと、捕まって地下牢行きになりそうです」


にっこにっこ笑いながら告げれば、スカーレット様が深いため息をついた。

友人がやって来た、というだけで普通に返すことはできるだろうけれど、そんなことをされたら、私は承諾がもらえるまで何度でも突撃する。

そのたびに騒ぎが起こるわけだけど、さてその場合、どちらが根負けするだろうか。


「……わかりましたわ」


「ご出席されますか」


「ええ。貴女に毎回こんなことをされてはたまらないもの」


諦めたような、疲れた笑みだけど。

まずは承諾を得られたことを良しとしよう。

それに公爵令嬢だから、出るところに出たら私よりも衆目を集めるだろうしねー。


「楽しみにしています」


「まさか、当日もそんな格好をなさるの?」


「そうですけど?」


それが何か、という顔で見返せば、遠慮なく全身をじろじろと観察される。

なんぞい。


「寸法を教えてくださるかしら、父の衣装にはなるけれど、リメイクして衣装をお揃いにするくらいはできると思うわ」


「えっと……?」


「その装いも良いけれど、少し型落ちよね。ご婦人方には懐かしさもあって受けが良いかもしれないけれど、貴女の魅力を引き出すには力不足よ」


「あの」


「衣装はこちらで用意するから、少し早めにいらしてね」


行くとなったら積極的だな?!

でも元気になってよかった。

それじゃ、こっちもその想いに応えてやらなきゃね。


結局押し入るなら最初からそうすれば良かったのでは…?

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