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合法幼女に毎朝の叱責を受けてデレデレしてから、目の前に現れたUIを部屋の隅に放る。

ガラスが割れるような派手な音をさせているが、これを見聞きできるのは私だけだ。

メニウェルちゃんが反応することもないし、片付けをすることもない。透過する。

山積みになっているゴミ。結構な量になったなぁ。


さて、執務室でいつも席に座れば、トトルがいつものように近くに待機する。

本当なら書類がガンガン積み上がっていたりするのだろうけど、私の目の前にあるこれは単なるオブジェクトで、実際に処理しなければいけないものではない。

必要なものは一枚ぺらで置いてあるか、トトルが持っている。


「それで、ガーベラ商団を使いたいんだけど」


「なんですか、藪から棒に」


「いや、お父様が脱税してたでしょ?」


「そうですね」


「このままだと、連座で処刑になるから対処しようと思って」


「商団の売り上げから補填するんですか?」


いやいや、領地収入がいかほどと思っているのか。

いくらうちが貴族相手に暴利をむさぼっているとはいえ、そんな大金を突っ込む趣味はない。

というか、どうやってねじ込むんだよ。一応は正式な書類として二の丸に収められてんだよあの報告書。

まあ、写しを作成できるくらいの時間、該当の部署に潜入できたってことではあるんだが……さすがに業務で使う印を複製するのは骨が折れる。できないことはないと思うけど。


何より、ことをうつすにして、必要なのはヒトとカネとトキである。

そのうちの時間についてはリミットがある。

ってことは、人と金でごり押しするしかない。

故に、必要となるのは節約しつつ派手に振舞うという二律背反だ。総力戦だ。

そのために、今まで培ってきたすべてを使うしかない。


私にはぶっ飛ばしてきた八年間がある。

イベント詳細はわからないが、折に触れて飛び出てくるポップアップに対して行動の指示だけはしていたから、商団だの孤児院出身の隠密だの領民からの信頼だのなんだのが色々あるのだ。

なんで持ってるかはわからないアイテムもある。

使いどころが不明すぎて倉庫の肥やしではあるが、きっと今が消費の時なのだろう。


「そもそも、なんで親父は屋敷を飾り立ててるの? 女主人がいるわけでもないのに」


本来なら私の仕事なんだろうけど、やらせたら基本色を黒にするぞ私は。


「それはもちろん、リリアナさんのためでしょう」


「え?」


トトルがあっけらかんと答える。


「わかりやすすぎるじゃないですか。お嬢様だって、見ていらしたでしょう」


大阪に恋焦がれる横顔なら……。

もしかしてあれ、リリアナちゃんを見ていた?


「え、なに、気持ち悪っ」


「雰囲気が少し、奥様に似てらっしゃいますからね」


「リリアナちゃんが……?」


そういえば、このキャラは母が亡くなったところから話が始まるのだったか。

この八年の間に親族は粛清しているけど、その程度で埋まる心の傷ではなかったということだね。

母の死を病気と思わず、殺人と断定して犯人探しを怠らなかった父の、執念が勝利したロートリシュには大事件があったのさ。

養子に来るはずだった従弟もいつの間にかいなくなっていたよ。怖いね!


「でも、どうやって屋敷に呼ぶ気? 私に何とかしろって言ってるけど、そこまであてにはしてないよね?」


「ですが、裏で手を回していたらビリケンサンなどと呼ばないでしょう?」


そりゃそうだ。

うーん、なんていうかこう、鈍いというか、娘を信じているのかもしれないけど、愚か者というか。

調査一つまともにできないくらいに手駒がいないのかな?


「いやでも、さすがに伯爵位を持っていて、腹心もいないとかどうなの」


「私が掌握しておりますので。お嬢様に不利になる報告はされていないかと」


「……脱税をもっと早く知れたってこと?」


「私の予想よりは早かったですよ」


知ってたら教えてよ!

雇用主だぞこっちは! 命がかかってるのに遊ぶんじゃない!


「私が死んだら無職だぞ!」


「私は男爵ですし、商団と協力すればこちらの使用人を全員引き取っても問題ありませんので」


そもそも、その爵位も私が買ったものなんですよ。

ちょろまかしやがって。


「で、話を戻すけど、商団からも孤児院からも人を出してほしいわけ」


「おや、何をなさるのでしょうか」


はっきりいって、あの父親一人でうまいことやれたとは思えない。

優秀だし目的のためなら非情になれるけれど、宮仕えする人材などそんな奴らの集まりだ。


「傍から見てもわかるくらい、浮かれてたんでしょあの親父。金に関わる書類がワンチェックなわけないし、気付いた同僚だかが便乗している気がしてね」


横領とかしてそう。

そんで、それをひっかぶせられて処刑とか、ありそうじゃない。

なんかそんな気がしてきた。


「それで?」


「各貴族の動向を調べてほしい。お題目は……次の王について」


「次の……? 王の子は一人しかおりませんが」


「立太子していないってことはそういう事じゃーないの」


「つまり、こちらで適当な人物を押し上げるってことでしょうか」


「そうそう、他国からの介入を考えなくていいわけだし、みんなだって飽き飽きしてるでしょ? 今の体制にさ」


成り上がりたい野心を持った連中なんていくらでもいる。

なのに、現体制のままでは上が埋まっていて要職に就くことなど適わない。


ならば、作ってしまえばいいのだ。

その火種となるのが。


「王位争奪戦しようぜ。派閥作っちゃお」


各家に使用人として派遣している身内がいる。

国内有数の商家ともつながりがある。

私自身も伯爵令嬢、学園でそれなりに名が通っている。

ただただ王子の性格が嫌いなだけで貶めてきたけれど、それが有用に働くなんて。

世の中わかんないもんだねー!


「ってことで、私は避暑地に行くから準備よろしく」


「かしこまりました」


にこーって笑えば、にこーって笑って手を差し出してくる。

給与の内だよ、働けよ。


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