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テルジオ君が頑張ってくれました。

リリアナちゃんもエケル君も人並み程度の腕前になったよ!

代わりにどこぞの侯子はへろへろになっているけれども。


ということで、彼の苦労に報いるべく、クローディアちゃんとお茶会をすることにした。

なんとかの小庭のガゼボである。

クローディア・デリトス、チャラ男君の義姉であり本命である令嬢。

おっとり真面目系というか、眼差しは優しく所作は優雅で洗練されている。

スカーレット様が大輪の薔薇を思わせる美しさがあるとしたら、クローディアちゃんは百合のような麗しさだ。


「この度はご招待くださり、ありがとうございます」


「ようこそいらっしゃいました。お会いできて光栄です」


適当なあいさつを交わす。

そこにティーセットを運んでくる二名の男子生徒。


「あら、何をしているのテルジオ」


言わずと知れたテルジオ君とトトルである。


「ここしばらく、ロートリシュ令嬢のお付きをしていました。貴族令嬢が求めるものがなんであるか、学ぶために」


「今度はそういう遊びなのかしら? ごめんなさいね、ロートリシュ令嬢。付き合わせてしまったようで」


「いいえ、構いませんわ」


というか、私を普通の令嬢と同じと思って仕えても何の勉強にもならんしな。

これは口実だ。


「お義姉様……いえ、クローディア嬢」


「テルジオ?」


「私は、デリトス家の後継者です」


「ええ、そうね。そのためにお父様が養子にしたのだもの」


いきなり何を当たり前のことを? と言いたげなクローディアちゃん。

緊張した面持ちのテルジオが、すーっと大きく息を吸った。


「私は、家を継ぐ条件に、貴女との結婚を求めます」


「……え?」


「姉弟だから。義理でも姉弟だから、貴女とは結ばれないと思っていました」


「え、ええ、そうだけど……?」


トトルがそっと書類を渡してくる。

それをクローディアちゃんに横流しした。


「これは……?」


「法律に照らし合わせた婚姻可能範囲の記述と先例です。国法と領法、判例を交えて検討してあります」


作ったのはトトルです。

内容を要約すると、両親が同じだと駄目だけど義理なら結婚できるぜってとこだね。

通例というか、マナーというか、常識でしょって感じで義理でもダメって印象にはなってるけど。

クローディアちゃんは目に見えて戸惑っている。


「でも、そんな……テルジオは派手な女の子が好きだし、私みたいな地味な女性は……」


「変わります」


「え……?」


「義姉、いえ、クローディア嬢のために、変わります。貴女に相応しい男になる。そうしたらクローディア嬢、私のプロポーズを受けてくれますか」


「え、ええぇ……?」


事実、ここしばらくは女遊びをやめて、後継者に相応しくあるべく勉強に身を入れていた。

惚れた女のために変わる。だとしても本気じゃなきゃ続かないのが努力というものだ。

外からつつくために私もトトルも備えていたけれど、そんなものが必要ないくらい、本人が頑張っていた。だからちょっと、応援したくなったというのもある。


「デリトス令嬢、自分のために変わってくれる男性は希少ですよ」


何かの漫画で見た。


「でもそんな、あんなに遊び回っていたのに」


「……私が幼稚でした。ただ貴女に、嫉妬してほしかったのです」


「テルジオ……?」


「一番仲の良い女性は自分だと、貴女に怒ってほしかった。拗ねた態度で責められたかった」


本命には手が出ない。

だからとひねくれて、迂遠で稚拙な感情表現をしたことがすれ違いの要因だ。

トトルが差し出してきたお茶を飲む。

本音をぶつけて遠ざけられてしまうのが怖いという気持ちはわかるけど、推測して遠慮したり、本人に事の真相を聞かずに他人の言葉に惑わされるのは、見ていて本当にもやるんだよね。話しをしろと。いいから本人同士で話しをしろといつも思う。

言いたいことを言って嫌われるなら、そいつはそれまでの相手だったと幻滅するくらいの図太さを持った方が精神衛生上とても良い。


「そんなの、わかるわけ……」


「今、言いました。だから」


正面から、真直ぐにクローディアちゃんを見据えて。

テルジオ君が口を開く。


「後は態度で示します。私は貴女を愛している。答えは今すぐにはいりません、悩んで、迷って……それでも無理だというなら、諦めますから」


考えてほしい、と告げるテルジオ君。

他人の告白シーンをこんな間近で見れる機会もないから、映画よろしくじっくり見てしまった。

観客気分で紅茶とケーキを口にする私にやっと思い至ったのか、クローディアちゃんが慌てている。


「おなかいっぱいです」


「食べ過ぎです」


そういう意味と違うわ。

丁度いいところで茶々をいれないでくれトトル。


「貴女がどのような結論を出そうとも、テルジオ様は受け止めてくれますよ。だからただ、彼の真心を受け取ってあげてください。それが夫のものか、弟のものか、貴女が決めれば良いのです」


「……はい」


真面目な顔で受け答えをするクローディアちゃん。

ちゃんと考えてくれるだろう。その上で出す結論なのだから、どのようなものであっても、テルジオ君だって納得するはずだ。


まー、私としては、デメトル男爵に支払った教育代を回収するためにも、テルジオ君を援護しますけどね。

依頼料は安くなかったんだ。だから、二人とも、覚悟をしていただきたい。


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