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期末テストの季節だよ!
うるせぇ!
学生を終えたのになんでテストなんてしなきゃいけないんだ!
そう思うけど、ゲーム内では学生ということになっているので仕方ない。
攻略サイトの出番である。
テストは全部で二十問。定型の問題文が二百個用意されていて、そのうちの十五個が出題されるってことだから覚えていけばいいだけだ。できねぇよ。残り五問はネット上の叡智からランダムで出題される。できねぇよ。
あと、テスト終了後にはダンスパーティがあるとのことで、放課後に練習会もあるようだ。
そう、リリアナちゃんである。
平民出身の彼女は、もちろん本格的にダンスを習ったことがない。
せいぜいが授業くらいだ。
もっとも、ミニゲームでいかれた点数を稼ぎ続ければパーティで主役を張れる腕前になれるんだけどね。
スカーレット様が居るのに一番になるとかどういうことよ。
ともかく、デフォルトリリアナのダンスの腕前はステップを知っている程度だ。なので、相手のリードによって見栄えが変わる。
で、今回の相手が誰になるかって、そうだよ、あのショルダータックル坊主だよ。
彼自身は騎士爵家の次男らしく、一応は一通りのマナーを身に着けているようだけども、ダンスまでとなるとさすがにボロが出る。
素人よりかは少しマシかな? 程度だ。
まあ、そこは一応は乙女ゲームなので、良いように変換されたストーリーが展開されるわけだけど。
「きゃっ!」
「あ、ご、ごめん!」
さすがタックル事故死をするだけあって不器用というか粗雑というか、リリアナちゃんの足をよく踏んでいる。
それ普通逆じゃねーの? 女の子に足を踏まれて、ごめんなさいいやいや軽いから大丈夫とかいう会話するんじゃないのかい。
練習用に用意された部屋の隅っこから彼女たちの様子を観察しつつそんなことを思う。
「いや、みんな下手ですねー」
隣に控えたチャラ男侯子のテルジオ・デリトスがそんなことを呟く。
近くにいる子達がびくついているからやめなさい。
「お手本を見せてあげましょうよ? お嬢様」
「いや、私もそこまで上手ではないんだけど」
「私の相手になれるくらいの実力はあるから大丈夫ですよ」
女好きってステータスがあるからか、テルジオ君のダンススキルはそれなりに高い。
令嬢どころか未亡人の相手も務めるくらいだからね。付き合いで顔を出すパーティで夫人と踊ることもあるそうで。
顔が良いのもモテるのも大変なんだなって思うわ。
手を引かれてステップを踏みながら部屋の中央付近まで誘導される。
その場で練習している他の人達にぶつからないように動きつつ、こちらの動きが優雅に見えるように調整しているのだから大したものだ。
なお、こちらはミニゲーム画面になっている。ぽちぽちっとなー。
「お上手じゃないですか」
「足踏んだ方が良い?」
「本気でおやめください」
残念だな。
気付けば、私たち以外のメンバーは周りを取り囲むようにしてこちらを見ていて、感嘆のため息をついていた。
視線がテルジオ君に集まっている気もする。
まあ、神秘的な紫の瞳に惹かれてしまう気持ちもわかる。面だけはいいんだもんな。
ポンポンと肩を叩く。
「他の人の練習の邪魔になってるみたい」
「それはいけませんね」
すっと体を離すと、優雅にお辞儀をするテルジオ君。
それに合わせて礼をして、とめどない拍手を背に壁際へと足を向ける。
テルジオ君は他の令嬢に声を掛けてダンスパートナーをするようだ。私にもいくらかの視線が伸びてくるが、ちらりと目を向ければ全員が逸らした。
そのまま壁際のリリアナちゃんが座っている所へと静かに近づいていく。
タックル坊主が彼女の前に膝間付いて、靴を脱がそうとしている場面だ。
「あら、足の臭いでも嗅ぐの?」
「ひっ!?」
「に、におっ、いやそんなことは!!」
二人の世界に浸っていたのだろう、声を掛けたらすごく驚かれた。
得意の笑顔を披露すれば口元を引きつらせる。そんなに怖いのだろうか。
「そういうマニアックな行為は人前ではおやめなさいな」
「ち、違いますっ!」
「何度も踏んづけてしまったので、足の様子を見ようと……!」
「ふうん?」
そういう言い訳をするのね、といった風にわざと横目で見下ろせば、二人は羞恥に顔を赤くする。
嘘をついているとは思わないが、ここでやることじゃなかろう。
「リリアナさんは足を痛めたでしょうから、今日はもう帰ったらいいのでは。そちらの、ええと……」
「エケルです」
「エケルさんは、他のお嬢さんと練習をなさるのはいかが?」
「……いえ、僕も帰ります」
「あらそう。じゃあ、リリアナさんは私といらして」
「えっ」
タックル坊主が誘う前に彼女の手を取る。
何か物申すのであれば権力を使うぞ私は。伯爵令嬢に逆らうのかって脅してやるぞ。
「話があるの」
そういうと、戸惑った様子ながらリリアナちゃんは頷いた。




